異常
地下の床に刻まれた回路が、ゆっくりと光を広げていく。
最初は細い線だけだった。
だが光は止まらない。
円の外側へ広がる。
床の紋様をなぞるように、淡い輝きが流れていく。
研究員たちは装置の周囲に立ったまま、その様子を見ていた。
誰も慌ててはいない。
接続直後の反応は、珍しくないからだ。
ルカが水晶を見ている。
中央の水晶は、さっきよりも明るくなっていた。
研究員が装置の横で数値板を覗き込む。
「読み取り開始」
短い声。
別の研究員が頷く。
床の紋様がまた一段明るくなる。
光が地下の壁へ広がる。
アクセルが腕を組む。
「派手だな」
レインは何も言わない。
水晶を見ている。
むぎが胸ポケットの中で動いた。
キュ。
レインは軽くポケットを押さえる。
ここちゃんが腕の中で耳を動かす。
きゅる。
⸻
ノアは床を見ている。
光の線。
一定の速さ。
だが。
少しだけ、首を傾けた。
⸻
研究員が装置の側面に手を触れる。
水晶の光が強くなる。
数値板の針が動く。
最初はゆっくり。
振れ幅も小さい。
年配の研究員が言う。
「記録読み出し」
ルカが頷く。
床の光はさらに広がる。
外周へ届く。
地下の奥で、低い音が響いた。
ゴン、と一度だけ。
アクセルが耳を動かす。
「今の」
誰も答えない。
⸻
レインはその音を聞いていた。
遠い。
だが、重い。
何か大きなものが一度、噛み合ったような音。
⸻
ノアが小さく言う。
「……速い」
その瞬間。
針が跳ねた。
一気に振れ幅が広がる。
左右に振れる。
止まらない。
研究員が声を上げる。
「数値上昇」
ルカが横から覗く。
床を見る。
線を追う。
何も言わない。
⸻
光がまた一段強くなる。
地下の奥で、音が続いた。
ゴン、ゴン、と間隔を詰めて。
やがて――
止まらなくなる。
低い連続音に変わる。
アクセルが周囲を見る。
「おい」
床が、わずかに震える。
最初は靴底で分かる程度。
次第に、膝へ。
腰へ。
振動が上がってくる。
研究員たちは装置を見る。
器具の針が激しく振れている。
振り切る寸前で、戻る。
また振り切る。
光の流れが一部で滞る。
押し合うように、重なる。
年配の研究員が言う。
「出力が止まらない」
ルカが装置へ手を伸ばす。
水晶を見る。
刻印を見る。
接続具を見る。
「接続維持」
短い指示。
研究員が返す。
「記録中です」
⸻
その瞬間。
床の回路が、一斉に強く光った。
地下の空間が白く染まる。
アクセルが顔をしかめる。
「おいおい」
次の瞬間。
ドン、と重い衝撃が足元から突き上げた。
床がはっきり揺れる。
研究員たちが顔を上げる。
器具の針が振り切れた。
「出力急上昇」
ルカが低く言う。
「止めます」
研究員が叫ぶ。
「遮断できません」
水晶の光がさらに強くなる。
回路が一斉に輝く。
止まらない。
流れが中央へ集まる。
地下の機構が、唸りを上げた。




