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地下へ


検査室の空気が少し変わった。


台の上の装置を囲んでいた研究員たちが、静かに距離を取る。

年配の研究員が帳面を閉じ、ペンを指で軽く叩いた。


「ここでは読めません」


短い声だった。


レインは腕を組んだまま装置を見る。

金属枠の内側で、水晶がかすかに光を返していた。


ルカが一歩近づく。

指先で刻印を確かめ、それから顔を上げた。


「地下で確認します」


アクセルが眉を動かす。


「ここじゃ駄目か」


ルカは首を振る。


それ以上は言わない。


研究員たちはすぐ動いた。


白衣が台の周囲に集まる。

金属枠の四隅に器具が差し込まれた。


静かな音。


固定具が外れる。


カインが少しだけ身を乗り出す。

装置の下側を覗き込む。


「枠ごと運ぶのですね」


ルカが答える。


「分解はしません」


アクセルが肩を回す。


「壊すなよ」


ルカは視線だけ向けた。


「当然です」


装置が持ち上がる。


四人の研究員が支え、慎重に運び始めた。


水晶がわずかに揺れる。


むぎが胸ポケットの中で動いた。


キュ。


レインは軽くポケットを押さえる。

落ち着かせるように指先で布をなぞった。


ここちゃんが腕の中で耳を動かす。


きゅる。


白衣の列が検査室を出ていく。

金属枠が廊下の灯りを受けて鈍く光った。


レインたちも後ろにつく。



廊下は長い。


足音と、金属が擦れる音だけが続く。


曲がり角を二つ抜けると、空気が変わった。


人の気配が薄くなる。


研究室の並びが途切れ、代わりに厚い扉が現れる。


地下へ続く階段だった。


ルカが立ち止まり、振り返る。


「ここから下です」


アクセルが階段を見下ろす。


「……深いな」


ノアも覗き込む。


暗い空間が下へ続いていた。


白衣の一人が先に降りる。

続いて装置を持つ四人がゆっくり階段を下りていく。


金属が石段に触れるたび、わずかな音が響く。


カインが静かに言った。


「規模が違いますね」


アクセルが鼻を鳴らす。


「上だけじゃないってことか」


誰も否定しない。



階段を降り切る。


地下通路が広がる。


壁に埋め込まれた灯り。

等間隔。


床は磨かれている。


通路はまっすぐ奥へ伸びていた。


白衣の列が進む。


装置がその中央を運ばれていく。


ノアは歩きながら周囲を見る。


止まらない。


それだけだった。


ルカが前を進む。


迷いがない。



通路の奥に大きな扉が見える。


厚い金属。


中央に刻印。


研究員の一人が前へ出る。


手をかざす。


低い音。


扉がゆっくり開く。



その向こう。


広い空間。


天井が高い。


床に刻まれた紋様。


中央に据えられた台。


その周囲に巨大な枠組み。


そこから無数の管が伸びている。


壁へ。


床へ。


奥へ。


レインは思わず足を止めた。


アクセルも同じだ。


「……でかいな」


ノアは中央を見る。


動かない。


ルカが一歩進む。


「地下管理機構です」


研究員たちが装置を運び込む。


中央の台へ。


静かに下ろす。


金属枠が台の上に置かれる。


音はほとんどしない。


ルカはその前で止まる。


「ここで確認します」


レインは装置を見る。


迷宮の奥で見つけた機械。

今は帝国の地下施設の中央にある。


むぎが胸ポケットの中で小さく動いた。


キュ。


低い振動が、足元から伝わる。


止まらない。


機構は、動き続けていた。


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