帝都
朝の光が街道を横から照らしていた。
夜の冷えがまだ残っている。
馬車の車輪が石畳を転がるたび、乾いた音が一定の間隔で続いた。
レインは馬車の中から前方を見る。
遠くに見えていた城壁が、もう輪郭ではなく形になっている。
近づくにつれて、その高さがはっきりしてきた。
アクセルが身を乗り出す。
「でかいな」
レインは城壁の上へ視線を上げた。
見張りの兵が歩いている。
歩幅が揃いすぎている。
「王都より高いな」
ノアは馬車の横から街道脇を見ている。
畑が広がっている。
しばらく黙って見てから、地面へ視線を落とす。
「線が揃ってる」
レインが横を見る。
ノアは畑の境目を指で示した。
「全部同じ幅だ」
カインがその先を見て頷く。
「計画農地でしょう」
ルカは畑の向こうを見ている。
視線が動くたび、何かを測るようだった。
「帝都周辺は管理されています」
レインはもう一度城壁を見る。
壁は近づくほど厚く見えた。
やがて街道が城壁の影へ入る。
その瞬間。
空気が、わずかに変わる。
レインは無意識に息を止める。
一拍。
何も起きない。
だが、皮膚に薄く残る。
(……なんだ)
むぎが胸ポケットの中で小さく動く。
キュ。
ここちゃんが腕の中で耳を揺らす。
きゅる。
レインはそのまま前を見る。
門の前には列ができていた。
荷車。
旅人。
商人。
順番を待っている。
アクセルが腕を組む。
「並ぶのか」
クラウスが馬車の前へ出る。
列の横を進む。
門の兵が視線を上げる。
クラウスの鎧を見る。
次に箱を見る。
一瞬。
判断が終わる。
兵が一歩前へ出る。
「研究院か」
クラウスが短く答える。
「そうだ」
兵は後ろへ合図を送る。
門の横の小扉が開く。
列とは別の通路だった。
アクセルが眉を上げる。
「専用か」
ルカが頷く。
「研究院の搬送ですから」
馬車がそのまま進む。
門をくぐる。
さっきの違和感が、わずかに強くなる。
すぐに消える。
⸻
馬車は帝都の中へ入る。
レインは座ったまま周囲を見る。
通りが広い。
王都より広い。
真っすぐ伸びている。
両側の建物の高さが揃っている。
アクセルが周囲を見回す。
人は多い。
だが騒がしくない。
「……妙に静かだな」
レインも同じことを感じていた。
荷車が通る。
人が歩く。
それでも声が広がらない。
ノアが通りの奥を見ている。
視線を左右へ動かす。
「配置が揃ってる」
レインが聞く。
「何が」
ノアは通りを指で示す。
「店の間隔」
少し進み、反対側を見る。
「通り幅」
さらに前を見る。
「建物の高さ」
カインが看板を見て頷く。
「計画都市ですね」
ルカは通りを見渡す。
整った石畳。
一直線の街路。
小さく息を吐いた。
「誤差が少ない都市です」
アクセルが横目でルカを見る。
しばらくして肩を回す。
「居心地はどうだろうな」
ルカは否定しない。
⸻
馬車は大通りを進む。
商隊とすれ違う。
荷車の列。
距離が揃っている。
歩幅も同じだ。
レインはそれを目で追う。
途中で視線が止まる。
「……揃いすぎだろ」
小さく言う。
カインが答える。
「帝都ですから」
少し進む。
広い広場が見える。
中央に塔。
その周囲に石造りの建物。
エミールが前を指す。
「研究院です」
レインは視線を上げる。
白い石でできた巨大な建物。
塔がいくつも伸びている。
門の前には兵が並んでいた。
動きが揃っている。
アクセルが言う。
「ここか」
ルカはその建物を見上げる。
わずかに表情が動く。
「帝国研究院です」
馬車が門の前で止まる。
クラウスが前へ出る。
兵へ歩み寄る。
短く言葉を交わす。
やがて門がゆっくり開いた。
レインはもう一度建物を見上げる。
視線が外れない。
馬車はそのまま門をくぐる。




