帝国の門
トンネルを抜けた瞬間、光が広がった。
馬車の中で、レインは思わず目を細める。
山の向こうに出ただけなのに、空気が違う。
石畳がまっすぐ伸びている。
継ぎ目が揃いすぎている。
視線が引っかかる。
アクセルが前を見たまま言う。
「……妙に整ってるな」
ノアが視線を落とす。
馬車の脇を流れる石畳。
「揃ってる」
短い。
ルカが頷く。
「管理されています」
エミールが続ける。
「補修も早いのでしょう」
レインはそのやり取りを聞きながら前を見る。
道の先に門があった。
石壁が街道を横切っている。
中央に据えられた鉄門。
厚い。
門の上には帝国の紋章。
門の前に立つ兵が、こちらを見ている。
姿勢が揃っている。
微動だにしない。
馬車がゆっくりと門の前で止まる。
クラウスが先に降りる。
足音が砂に落ちる。
そのまま兵の前へ進む。
「帝国研究院調査団だ」
兵の視線がクラウスの肩章へ落ちる。
一瞬。
それから門の横へ移動する。
小窓を開ける。
中で短い言葉が交わされる。
アクセルが腕を組む。
門の上を見上げる。
見張りが二人。
同じ姿勢。
同じ角度で立っている。
「静かだな」
レインは馬車の中から周囲を見る。
人はいる。
だが、声が揃っている。
抑えられている。
カインが外を見たまま言う。
「往来も統制されていますね」
ノアが言う。
「無駄が少ない」
ルカが頷く。
「効率的です」
小窓が閉じる。
兵が戻る。
「通行許可を確認しました」
重い音。
鉄門が動く。
ゆっくり開く。
クラウスが振り返る。
「進め」
《通過:帝国領》
(ああ)
⸻
馬車が門をくぐる。
車輪の音が変わる。
レインは座ったまま周囲を見る。
街道は北へ真っすぐ伸びている。
道の端に水路。
その外に石柱。
間隔が揃っている。
アクセルが前を見たまま言う。
「落ち着かない道だな」
レインは少し笑う。
「分かる」
理由ははっきりしない。
だが、居心地が悪い。
ノアが言う。
「揺らぎが少ない」
ルカが石畳に視線を落とす。
「誤差が少ない状態です」
アクセルが横目でルカを見る。
「学者らしいな」
ルカは否定しない。
⸻
馬車は進む。
一定の速度。
車輪の音も揃っている。
しばらくして、商隊とすれ違う。
荷車の列。
間隔が同じだ。
歩幅も揃っている。
誰も余計な動きをしない。
レインはその列を目で追う。
視線が、途中で止まる。
「……揃いすぎだろ」
小さく言う。
カインが答える。
「帝都街道ですから」
アクセルが前を指す。
「あれだ」
レインも視線を上げる。
遠くに影。
最初は山に見えた。
違う。
城壁だ。
高い壁が地平線を切る。
その奥から塔が伸びている。
ノアが目を細める。
「帝都」
ルカはその光景を見たまま言う。
「到着は明日ですね」
レインは頷く。
目を離さない。
帝国の中心が、はっきり見えていた。




