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再びティリへ


 翌朝。


 国境砦の門が開く。


 軋む音。


 冷たい風が吹き抜ける。


 山から下りてくる空気だ。


 中庭にはすでに人が集まっていた。


 白兎の庭。


 帝国の三人。


 ルカ。


 クラウス。


 エミール。


 砦の兵が馬車を引いてくる。


 四頭立て。


 車輪が石を擦る。


 荷台は大きくない。


 木箱がいくつか積まれている。


 金具が揺れて、軽く音を立てた。


 アクセルが馬車を見る。


 顎で示す。


「馬車か」


 クラウスが歩み寄る。


 鎧がわずかに鳴る。


「移動用だ」


 短い。


 レインは荷台に目をやる。


 固定された箱。


 布で覆われた器具。


「ティリまでどれくらいだ」


 ルカが地図を広げる。


 紙が擦れる。


 指で距離をなぞる。


「馬車で一日ほどです」


「途中で一度休みます」


 ノアが地図を覗き込む。


「問題ない」


 アクセルが肩を回す。


 関節が鳴る。


「座ってるだけだな」


 カインが馬の様子を見ながら言う。


「揺れはありますよ」


 アクセルは口の端を上げる。


「それくらいは平気だ」


 ルカが地図を閉じる。


 指で軽く叩く。


「では出発しましょう」


《移動開始:ティリ方面》


(分かってる)



 砦を出る。


 石畳から土へ変わる。


 北方山脈を背にして、南へ向かう。


 馬車が進む。


 一定のリズム。


 車輪の音。


 森が流れていく。


 エミールが身を乗り出すように外を見る。


「静かですね」


 カインが手綱の先を見ながら答える。


「この辺りは人が少ない」


 ノアが短く言う。


「山が近い」


 アクセルは前を見たまま言う。


「魔物も少ない」


 レインは外を見る。


 木々の間から山が見える。


 灰色の岩。


 遠くまで続いている。


 視線を戻す。



 昼。


 馬車が止まる。


 短い休憩。


 地面に降りる。


 足が少し重い。


 水袋を受け取る。


 口に含む。


 冷たい。


 ここちゃんが腕の中で耳を動かす。


 きゅる。


 むぎが胸ポケットから顔を出す。


 キュ。


 エミールがしゃがみ込む。


 目線を合わせる。


「やっぱり可愛いですね」


 レインは軽く笑う。


「だろ」


 ここちゃんの頭を指で撫でる。


 柔らかい。


 ルカは少し離れた位置で見ている。


 視線が外れない。


 観察するように、じっと。



 夕方。


 森が途切れる。


 風が変わる。


 視界が開ける。


 遠くに石壁。


 レインが言う。


「見えた」


 アクセルも目を細める。


「ティリだ」


 塔。


 外壁。


 見慣れた輪郭。


 馬車はそのまま進む。


 門が近づく。


 エミールが思わず身を乗り出す。


「初めてです」


 カインが穏やかに言う。


「迷宮都市ですから」


 ルカは都市を見ている。


 表情は変わらない。


「例の装置」


 視線はそのまま。


「まだそのままですね」


 ノアが短く答える。


「ああ」


 アクセルが言う。


「止めただけだ」


 レインは門を見る。


 石壁。


 あの迷宮。


 あの装置。


 視線が一瞬だけ止まる。


 馬車が門をくぐる。


 音が変わる。



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