王都からの通達
数日後。
昼前。
白兎の庭の拠点は静かだった。
庭ではここちゃんが草をかじっている。
しゃく、しゃく。
柔らかい葉を噛む音だけが続く。
耳がゆっくり動く。
風は弱い。
むぎは小さな桶の周りを走っていた。
ころ。
桶を押して転がす。
キュ。
軽い音を立てて、桶が少し転がる。
むぎはそれを追いかける。
レインは椅子に座って、その様子を眺めていた。
穏やかな昼だ。
「楽しそうだな」
アクセルが笑う。
庭の柵にもたれ、腕を組んでいる。
「むぎは飽きないな」
桶がもう一度転がる。
むぎが小さく鳴いた。
キュ。
そのとき。
門の方から声がかかった。
「レイン」
レインが顔を上げる。
門の前に立っていたのはギルドの伝令だった。
「ギルドマスターがお呼びです」
アクセルが腕を組み直す。
「来たか」
軽く息を吐く。
この数日、何も来なかった方が不自然だった。
カインが静かに言う。
「王都でしょう」
レインはむぎに手を出した。
「むぎ」
むぎは桶の横で止まり、少しだけ首を傾げる。
それから、ちょこちょこと近づき、レインの手に乗った。
キュ。
胸ポケットへ入れる。
ここちゃんを抱き上げる。
腕の中で体を落ち着ける。
きゅる。
耳がゆっくり動いた。
「行くか」
白兎の庭はギルドへ向かった。
⸻
ドランの執務室。
扉を叩く。
「入れ」
短い声。
中へ入る。
部屋はいつも通りだった。
壁の棚。
書類の山。
窓から入る昼の光。
ドランは机の向こうで腕を組んでいた。
レインたちを見ると、小さく顎を上げる。
「来たな」
レインが言う。
「呼び出しってことは」
ドランが頷く。
「王都だ」
机の上には書類が一枚置かれている。
「さっき符写板で王都ギルドから連絡が来た」
アクセルが小さく息を吐いた。
「早いな」
ドランは書類を軽く叩く。
「まず一つ」
レインを見る。
「Bランク昇格だ」
アクセルが笑う。
「通ったか」
レインは肩をすくめる。
「そうか」
ここちゃんが腕の中で耳を動かす。
きゅる。
むぎがポケットの中で小さく動いた。
キュ。
ドランは続ける。
「もう一つ」
少し間を置く。
「王国からの指名依頼だ」
空気がわずかに変わる。
カインが視線を上げる。
ノアも静かに顔を向けた。
ドランが言う。
「ティリ迷宮の件だ」
一拍。
「帝国研究院の刻印付き装置」
アクセルが言う。
「帝国は何て言ってきた」
ドランは短く答える。
「公式研究ではないそうだ」
アクセルが眉を上げる。
「知らないってか」
「ああ」
ドランは続ける。
「だが原因は調べたいらしい」
「帝国研究院が調査協力を要請してきた」
レインが言う。
「合同調査か」
「そうなる」
ドランはレインを見る。
「装置を見つけて、止めたのはお前たちだ」
一拍。
「白兎の庭に対する王国指名依頼だ」
部屋が少しだけ静かになった。
外のギルドの喧騒が遠く聞こえる。
アクセルが笑う。
肩をすくめる。
「国家案件か」
ドランは淡々としている。
「そういうことだ」




