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サイファ報告


 ティリを出たのは朝だった。


 一泊してからの出発だ。


 昨日の疲れはだいぶ抜けている。


 丘を越えると、見慣れた森が戻ってきた。


 サイファの北の森。


 昼前には街門が見えてくる。


 アクセルが肩を回した。


「やっと帰ったな」


 レインは苦笑する。


「半日って言っても歩けば長い」


 ノアが空を見上げる。


「天気は安定」


 ここちゃんが腕の中で耳を動かした。


 きゅる。


 むぎは胸ポケットから顔だけ出している。


 鼻が忙しい。


 キュ。


 街へ入る。


 見慣れた通り。


 市場の声。


 アクセルが言う。


「とりあえずギルドだな」


「ああ」


 ティリの迷宮の件は、もう報告が行っているはずだ。


 それでも直接話す必要はある。


 ギルドの扉を押す。


 昼前。


 中はいつも通りだ。


 酒の匂い。


 革の匂い。


 奥のカウンターでドランが顔を上げた。


「戻ったか」


 アクセルが手を上げる。


「ああ」


 レインが近づく。


「ティリの迷宮について報告がある」


 ドランは腕を組んだ。


「聞こう」


 レインは簡単に説明する。


 隠し通路。


 小部屋。


 帝国刻印の装置。


 装置の停止。


 ドランは途中で口を挟まない。


 最後まで聞いてから言った。


「……昨日の夜、ティリから報告書が届いた」


 レインが少し眉を上げる。


「早いな」


「迷宮の話は早い」


 ドランは机を指で叩いた。


「帝国研究院の刻印付き装置」


「間違いないな」


「ああ」


 短い返事。


 ドランは頷く。


「王都にも符写盤で報告が上がってる」


「帝国にも連絡が行くだろう」


 アクセルが小さく息を吐いた。


「面倒だな」


「国家の話だからな」


 ドランは淡々と言う。


 それからレインを見る。


「装置を止めたのはお前だな」


「ああ」


 ノアが一言だけ言う。


「止めた」


 ドランが頷く。


「なら十分だ」


 アクセルが眉を上げる。


「何がだ」


「評価だ」


 ドランは言う。


「迷宮の異常を止めた」


 一拍。


「それだけで上には上がる」


 レインは特に反応しない。


「そうか」


 ドランは続けた。


「ただし正式決定は王都だ」


「上申は出す」


 少し間。


 それからドランは言った。


「しばらく街にいろ」


 レインが首を傾げる。


「なんでだ」


 ドランは短く答える。


「今回の件、たぶんそれで終わらん」


 アクセルが笑う。


「国家案件か」


「そういうことだ」


 ギルドの空気は変わらない。


 だが北の迷宮の話は、もう街の外へ出ている。


 白兎の庭はギルドを出る。


 昼の光が通りを照らしていた。


 ここちゃんが腕の中で耳を動かす。


 きゅる。


 むぎが胸ポケットから顔を出す。


 キュ。


 サイファは、いつも通りだった。


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