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ティリの夜


 ティリの通りは、もう暗くなっていた。


 灯りがぽつぽつと並ぶ。


 昼に比べれば、人は少ない。


 荷車の音も遠い。


 レインたちは通りをゆっくり歩いていた。


 アクセルが肩を回す。


「今日は長かったな」


「だな」


 レインも息を吐く。


 香草探しの遠出。


 そのつもりだった。


 市場を回り、迷宮に入り、隠し通路を見つけて。


 装置を止めて、報告まで済ませた。


 ここちゃんが腕の中で耳を動かす。


 きゅる。


 レインが少し撫でた。


「疲れたか」


 むぎは胸ポケットから顔を出している。


 鼻だけ忙しい。


 キュ。


 カインが言う。


「宿はこの先です」


 小さな建物だった。


 木の看板。


 灯りが一つ。


 扉を押すと、暖かい空気が流れてくる。


 中は静かだった。


 食事をしている客が数人。


 店主が顔を上げる。


「泊まりかい」


 カインが答える。


「四人」


「部屋は空いてる」


 店主は鍵を置く。


「飯はどうする」


 アクセルが即答した。


「食う」


 店主が笑う。


「そりゃそうだ」


 席に座る。


 木の机。


 ランプの灯りが揺れる。


 少し待つと、皿が並んだ。


 焼いた肉。


 豆の煮込み。


 黒パン。


 簡素だが、温かい。


 アクセルが肉を持ち上げる。


「……うまそうだ」


「食え」


 レインもパンを取る。


 むぎが机を見上げている。


 キュ。


 レインが少しだけパンをちぎる。


「ほら」


 むぎが受け取る。


 もぐもぐ。


 ここちゃんは膝の上にいる。


 耳がゆっくり動いている。


 レインはポケットからドライフルーツを出して、ここちゃんに差し出した。


 ここちゃんが小さく鼻を動かす。


 ノアがその背を撫でた。


「今日は十分」


 アクセルが言う。


「迷宮も見た」


「装置も止めた」


 カインが頷く。


「報告も済みました」


 レインが肉をかじる。


「香草探しだったんだけどな」


 アクセルが笑う。


「遠出はこうなる」


 しばらく食事の音だけが続いた。


 外はもう静かだ。


 ティリの夜は早い。


 食事が終わる。


 アクセルが伸びをする。


「……眠い」


「今日は歩いた」


 レインも立ち上がる。


 店主が鍵を指した。


「二階だ」


 木の階段を上がる。


 部屋は広くない。


 だが十分だった。


 ベッドが四つ。


 窓が一つ。


 荷物を下ろす。


 アクセルがそのままベッドに座る。


「助かった」


「何が」


「ベッド」


 むぎがポケットから出てくる。


 ベッドの上を歩く。


 それから丸くなる。


 キュ。


 ここちゃんは床に降りた。


 部屋を一周する。


 くん。


 くん。


 それからレインの足元へ戻る。


 きゅる。


 レインがベッドに倒れた。


「明日戻るか」


 アクセルが答える。


「ああ」


 カインが言う。


「昼にはサイファです」


 ノアが静かに目を閉じる。


 灯りが消える。


 ティリの夜は静かだった。


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