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2.ざーこざーことかオスガキに言われたって全然嬉しくねえよバカ

「ははははは! 雑魚雑魚! 超ザーコ! 魔力量25とか! だぁっっっっせえー!!」

 水晶玉型の測定器に表示された値を見て、そんなもんだろうなと思いながら手を離すと、癇に障る声がここぞとばかりに嘲笑してきた。

 ……何かしらは言ってくるだろうなとは思ってたけど、うっるせえな~……ざーこざーことかオスガキに言われたって全然嬉しくねえよバカ。

 若干イラっとはきたものの、俺は無視して測定器から離れる。


 今日は、俺の生まれて初めての魔力測定の日であった。

 人の魔力というものは、生まれた時点では基本的にはあまり個人差はなく、平民も未来の大魔術師も等しく生きるのに必要な程度の魔力のみを有しているものだが、乳幼児期を過ぎたあたりから、次第に個人差が差が生じ始める。植物が種から芽吹くように成長が始まるので、この現象はそのまんま、魔力の発芽と呼称されている。

 おおむね全員が発芽を終え――引き続き植物に例えるなら子葉が開いたあたりに当たるのが、大体六歳頃。この子葉のサイズで大体の成長限界が見極められるため、貴族ならば初等学校の就学前検診も兼ねて、この年に初めての魔力測定を行うのが通例だった。俺もまた先日六歳の誕生日を迎えたので早速神殿に測定に来たという次第である。

 とはいえ別に魔力なぞ、いちいち測定器で測らなくとも魔力持ちであれば肌感覚で大体分かるものなので、値についてはまあそんなもんだろうなという感想しかない。もっとも身長だって見た目で分かるが律儀に計って記録するもんだし、それと同じような話なのだろう。

 さてこの六歳で魔力量25、という値だが。高いか低いかで言えば非常に低い。誕生直後の赤子の時分に測定したならば大体このくらいだろうという、生きるのに必要最低限レベルの値である。俺自身の体感、発芽はあったと言えばあったが、魔力量の増加は殆ど感じられなかった。5くらいはもしかしたら増えてたかもしれんが誤差の範囲過ぎて流石に分からん。そういった具合だ。

 ……発芽後も魔力が増加しないという現象は、平民であればままあることのようだが、平民よりも魔力が高い傾向にある貴族においては結構珍しいケースであったと記憶している。

 前世での俺は魔術師としての経歴は長い方ではあるものの、腐るほど膨大な魔力を有する体質だったので、魔力の少ない側の事情にはあまり明るくない。簡単な魔術道具の起動や、日用的な小出力の術を使うにあたり困るような事はないが、攻撃魔術を行使するには若干の工夫が必要になるだろうな、くらいの知識しかない。

 俺に続いてクソガキ次兄マチスが意気揚々と測定機に手をかざしている。250くらいだろと思って見ていたら測定結果242だそうだ。俺に向かってあからさまなドヤ顔を向けてくる。はいはい高い高いよかったね。

 その後長兄オスカーも測定し、こちらは300を超えたとのことで周囲の神官たちに口々に賞賛の声を掛けられていた。マチスは悔しそうに歯噛みしている。200も300も大して変わんねーだろと思ったが、俺だってそういえば学生の時分はテストの点数一点二点で勝った負けたとわいわいやっていた。子供の競争心はいつの時代も似たようなもんである。

「セラヴィスも気に病むことはないよ。人生別に魔力の量が全てじゃないからね」

 オスカーが慰めるように言った言葉は、俺も全く同意する所であったので、「そうだね」と頷いておいたのだが、長兄は若干哀れんだような優しい眼差しで俺を見た。どっちだよ。

 ちなみに三人の測定を傍で見守っていた父は、やはり歓喜も落胆も表に見せることなく終始無表情のままだった。




「セラヴィス。お前には家庭教師をつける。このまま屋敷で勉学に励むように」

「ええええええ!? 何でですか父上!? 僕の初等科入学は!?」

 神殿からの帰宅後。父親に呼び出され、向かった執務室で単刀直入にそう宣告された俺は、思わず裏返った声を上げていた。

 あの無表情の裏でそんなこと考えてたのか父ィ! 次の春から兄たち同様、王立魔法学院初等科に入学するものと思って楽しみにしてたのに!


 前世の俺は学院で教鞭を執っていた時期もあったのだが、初等教育にはノータッチであった。平民出身だった事もあり俺自身も学院で学んだのは高等部からで、ちゃんとした基礎教育の現場を見たことがなく、後学の為に是非とも体験しておきたいと思っていたのだ。いやもう教職関係ないし特に意味はないんだけども。興味本位で。

 俺の抗議に、父は淡々とその理由を告げた。

「初等科での教育はお前には必要のないものだからだ。お前は魔力が少ない。王立魔法学院初等科の魔術教育は、高魔力の貴族の子弟の教育を前提としたカリキュラムを組んでいる。中等科からは学院に通わせるつもりでいるので、五年間、遅れを取る事のないよう真面目に勉学に励むように」

 成程……。初等科の学習内容、まずは魔力制御訓練からになるってことかな。まあそりゃそうか。お勉強よりもまずはしつけからだよな。考えてみれば前世の俺もいたいけな幼児だった頃は、よくうっかり魔力を暴走させて近所の森を燃やしかけてたっけ。今思うと甚大災害紙一重のしつけのなっていない悪ガキだった。

 となれば、父の言う通り今の俺には無用の長物だ。抑えるどころか頑張って絞り出しても中々出てこない程度の魔力に制御訓練とか時間の無駄である。

「はぁーい……」

 父の指示の正当性は認めたもののやっぱり新しい知見を得る機会は惜しくはあったので、俺は唇をとんがらせつつ了承した。


 父の執務室を出ると、廊下ではマチスがふんぞり返って待ち構えていた。

「初等科にすら入れないなんて情けないな、落ちこぼれ」

 実に嬉しそうに嘲りの言葉をかけてくる兄に、俺はうんざりとした視線を向ける。

 ……盗み聞きでもしてたのかな。いや一応あの部屋には防諜魔術が掛かっているみたいだし、両親たちが予め話してたのをたまたま聞いたって所か?

「父上はカリキュラムの違いだと仰ったぞ」

「父上はお優しいからな、いくら無能だからってそう直接言う訳がないだろ」

 ざまあみろとばかりに鼻を鳴らしてくるマチスに、俺は同意の意図を込めて深く頷いてやった。

「そうだな。父上は優しいもんな。でも無能が無能のままでいるのは却って可哀想だから、そろそろ馬鹿でも分かるようにはっきりと教えてあげればいいのにって思うよ。弟と顔合わせるたび、いちいちくだらない罵詈雑言を投げかけたりするのは無能のすることだって」

 マチスは最初何を言われたのか理解しかねてぽかんとしたが、少ししてようやく顔を真っ赤にした。

「き、貴様ぁ、落ちこぼれの癖に舐めた口きいてんじゃねえぞ……!」

 口汚いなあ。俺もそんなに人の事を言えた義理じゃないが、貴族の子息としてあんまり相応しい言葉遣いじゃないぞ。

 ……そういえばこいつ、元々から礼節を知ってる性格でもなかったが、去年学院に入学してからより一層物言いが下品になってきた気もする。流石に父母の前では隠しているけれども。王立学院、高等科からは平民も受け入れるが初等、中等科には貴族しか在籍してない筈なんだがな。どういう人付き合いしてたらこうなるんだか。

 やれやれと内心呆れつつ、邪魔な愚兄を避けてその横を通り過ぎようとする。と、

「てめぇ待てよっ」

 無視される形となり、憤怒に顔を歪めたマチスが、俺の肩に掴みかかってくる。その寸前。

「うぎゃあっ……!?」

 けたたましい悲鳴を上げ、マチスは俺に伸ばしかけていた腕――正確には肩を、反対の手で押さえてうずくまった。

「ん? どうした?」

「……るっせぇ……っ」

 そ知らぬ風に尋ねる俺にマチスは涙目で毒づいた。

 当人は何が起きたかも分かっちゃいないだろうが、勿論俺は全部理解した上で言っている。だってやったのは俺だからな。

 ふふふ。痛かろう、腕を上げた途端突如ピキッと肩に走る四十肩風の痛み。七歳児には未知の痛みだろう?

 初等科のおちびさんにはまだ早いが、学院の生徒たるもの口よりも手よりもまず先に魔術が出るようにならなきゃ喧嘩にゃ勝てねえぞ。頑張れ。

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