68話 ヒヒイロカネの用途
新章開幕!
『――日、法務省は杉田和雄死刑囚の刑を執行したと発表しました。杉田和雄死刑囚は両親と祖父を殺害後、家の金品を奪い火を付けたとして放火、強盗、殺人の罪で――』
テレビを消す。
早朝から流す報道ではないな。ただ、このニュースは昨日から各報道機関で流れている。
当時、この男のニュースは何かと話題になった。殺害された父は警視正、祖父に至っては警視総監だったのが大きい。
それと当時の彼は18歳で実名報道するかしないかで揉めていたというのもある。
結局実名報道してる訳だが……
それはさておき。
火照命のクエストで貰った報酬、ヒヒイロカネだが、下手な鍛冶師に頼もうものなら無駄になるか、最悪偽物をつかまされる事になる。信頼のおける人物に頼みたいのだが、生憎とその伝手がない。
その事で天光院嬢に尋ねてみたのだが、なんとその伝手があるとの事。じゃあその人に頼めばいいのだが、配送とかするとラノベの山賊宜しく配送業者がおそわれ、奪われる可能性もある。なんならその業者が盗む可能性だってあるのだ。
そもそも、自分の現状だが、外出時は常に協会所属のボディガードが付いているのだ。一応ヒヒイロカネはマジックバッグに入れている。マジックバッグは登録者以外使えないのだが、それを知らない人達が襲ってくるとも限らない。
迷宮内なら兎も角、地上だとただのおっさんだからな、その辺を考慮しての事だろう。
まあそんな訳で、その人物がこちらの方に来るらしい。到着は10時頃らしいので、午後イチで会う事になっている。
それまではマンドラちゃんのお世話をしたり、ニュースを見たり、他の探索者のアーカイブを観たりと時間を潰した。
***
黒服の護衛に固められながら協会へと足を運ぶ。
中に入ると待機している探索者がギョッとしてこちらを見るが、誰も話しかけない。なんかどこかで見た顔もいるが、流石に突っかかってこない。
いつもの会議室の前に立つ。ドアをノックして、ドアを開け、中に入ると、そこには泡手さんと天光院嬢、そして見知らぬ男女が2人。
その男女が自分達(マンドラちゃんも同席)が入ると同時に席を立つ。
男性の方は背丈が190cmはあるだろうか。甚兵衛を着ている。そしてかなりの筋肉質で甚兵衛の上からでもそれがよく解る。何しろ腕が太い。肌の色は日焼けしたかの様な茶褐色。丸眼鏡に糸目と、その辺は陳さんみたいだが、無精髭を生やして彼の方が野生味が強い。
もう1人の女性は所謂金髪碧眼。髪は長く腰まである。一方で背は低く、エプロンドレスを着ているから歳は10代前半といったところだろうか。肌は白くフランス人形の様な愛らしい顔立ち。龍さんが飛びつきそうなくらいの美少女だ。
因みにその龍さんは日本にいない。彼女よりも(便宜上)適性が高いあっちの探索者に呼ばれ、強制送還させられた。迷宮を破壊するのを手伝え、との事らしい。別れ際に「マンドラちゃーん! アイルビーバーーック!」と後ろ髪引かれながら去っていったよ。尚、ヒヒイロカネは使い道ないということで半分は自分が受け取り、残り半分は換金した。ありがたいが超弩級の貸しが出来てしまった気がしてならない。
「初めまして、中村浩士です」
「マンドラちゃんなのです」
「これはどうも。某は縦井剛三、縦井金物店の店主で御座る」
握手を交わす。掌の皮が厚い。固い、職人の手だ。
「初めまして。わたしはアリス・C・縦井。こーちゃ……剛三の妻です」
と流暢な日本語で挨拶。スカートの両端を摘んで一礼。あ、これカーテシーってやつだ。初めて見た。
…………って。
「妻ぁ!?」
「それは驚きますわよね……私も最初は驚きましたわ」
天光院嬢もなのか。だって、なあ。
「いや、どう見えも10代前半……」
「わたし、こう見えて20歳ですよ」
なんと。妻帯者というのにも驚きだが、それが幼妻だとは。思わず「犯罪ですよ……」とどっかのGマイスターの台詞が口から出そうになった。
「顔合わせも済んだことだし、本題に入りましょうか」
このままだと埒が明かないと思ったのか、泡手さんが取り仕切った。
それぞれ挨拶が済んだところで席に着く。長机を2つくっつけて、泡手さんが上座に、自分と縦井さんが、天光院嬢とアリスさんが対面する形だ。
尚、天光院嬢はお仕事モードである。この人本当に落差が激しいな。
「取り敢えず、実物を見せてもらっていいかしら?」
泡手さんがそう言ってきたので、マジックからヒヒイロカネを取り出す。
「これが……」
「ヒヒイロカネで御座るか。成程、伝承通り赤いで御座るな。触ってみても?」
「ええ、構いませんが」
泡手さんと縦井さんがヒヒイロカネの金属片を手に取る。
「ふむふむ……」
「うーん、これは……」
2人して唸る。何かあるのだろうか。
「中村さん、結論を言わせてもらうわね。このヒヒイロカネだけであなたの武器を作るのは無理ね」
おいおい、無理とか言い出したぞ。
「理由は?」
「その前にこのヒヒイロカネの特性を教えるわ。ヒヒイロカネは魔力、魔素の伝達率が異様に高いの。だから迷宮内であれば途轍もなく硬い。けど地上に於いては鉄より硬いくらいね」
鉄のモース硬度は4.5、その鉄より硬い。だがそれだけならもっと硬い金属が普通に存在する。となると、正直金属としては微妙だ。魔力の伝達率が高いというのはかなりの利点ではあるが、これは持ち主によって鈍らになるという事でもある。
「それとこれは中村殿も感じていたで御座ろうが、量が足りないで御座る」
それは自分も思っていた。けどそれなら剣先だけでもヒヒイロカネで作れば良いのでは?
「事前に中村殿の配信アーカイブを観させてもらったで御座るが、剣先だけでは無意味で御座る。現に一度は柄の方が壊れてるで御座るな」
「あ」
確かにそうだ。自分がスコップを壊したのは最初の安物を除けば2回。うち1回は先の火遠理命の時、もう1回はレッサードラゴンと戦った時だ。
火遠理命と戦う2週間程前に別の迷宮の下層に赴き、レッサードラゴンと戦ったのだが、見事に駄目にした。剣先はおろか柄も派手にひん曲がった。
火遠理命の時は剣先が柄から外れてしまった。
つまり一部分だけヒヒイロカネにしても壊れる可能性大という事だ。
「つまりヒヒイロカネで武器を作るのは現実的ではない、と?」
「そうね。ヒヒイロカネだけではね」
「ん? だけ?」
泡手さんの言い回しに何か引っかかる。
足りないヒヒイロカネ。一部分だけでも無駄。となれば……
「合金、か」
「正解よ」
確か合金にすればダイヤモンドよりも硬くなると言われてるし。
ただ、そうなると何と合わせればいいのかとなるのだが。
「恐らくミスリル、アダマンタイト、オリハルコンとは相性が悪いで御座る」
「根拠は?」
「勘で御座る」
鍛冶師としての勘だろうか。女性の勘並み以上に信用できるな。
しかしそうなるとチタンとか……いや昔にそんなモノは無かった筈だ。まあ隣国にはクロムがあったみたいだが……
そうなると鉄か銅あたりか。けど普通の鉄や銅で良いのだろうか? 何となくたが普通のでは駄目なような気がする。
と、なると……
「迷宮産の銅か鉄ですかね?」
「某もそれが一番だと思うで御座る」
「私も同意見」
泡手さんも縦井さんも見解が一致したようだ。
ただなぁ……
「宮崎で金属製の魔物って、出た例がないんですよね」
アイアンゴーレムやカッパーゴーレム、メタルイーター等、宮崎では目撃情報が無い。因みにメタルイーターとは文字通り金属を食べるスライムだ。某RPGに出てくる、すぐ逃げるアレである。まあメタルイーターは逃げないけど。
「そう言えばそうだったわね……」
「県外、隣の県に行くで御座るか?」
「鹿児島の鉱山ダンジョンですか? 行けなくもないですが……」
鹿児島の鉱山ダンジョンはゴーレム多発迷宮だ。それとメタルイーターも稀に出現する。それでも良いのだが……
「ならあの娘を呼べばいいんじゃないかしら? 中村さんが呼べばホイホイ来そうなんだけど」
……あの娘?
キャラクター紹介
縦井剛三
190cm近くある長身のマッチョ体型。糸目で丸眼鏡、髪を後ろで束ね、普段から甚兵衛を着ている。一人称は某で御座る口調。
迷宮適性S、スキルは『鍛冶』
とある古流剣術の目録の腕前だが、当人はあまり争い事を好まない温厚な性格。
重度のアニメオタクでありゲームオタク。
アリス・C・縦井という妻がいるが、よく『美女と野獣』カップルと言われている。
いきなり冒頭で夜想曲の作品で蛇蝎の如く嫌われた奴(名前だけ)が出ましたね。他にもあっちの作品を知ってる読者が思わずニヤリとする人物も……
一方マンドラちゃんとアリスは……
「なんか難しい話してて、マンドラちゃんはちんぷんかんぷんなのです」
「わたしも半分くらい解らないけど……ああやって語り合うこーちゃんカッコよくて素敵っ」
「こーちゃん?」
「あっ……」




