58話 火照命と新たなクエスト
迷宮を一歩一歩進む。相変わらず空気が重苦しい。自分は平気だが、正直マンドラちゃんを長時間この迷宮にいさせる訳にはいかない。
それにしても……
「魔物、襲ってこないですね」
「そだナ。ナント言うカ……元気ナイ」
そうなのだ。何体か見つけているのだが、それら全て襲ってくる気配がない。なんというか襲う気力が感じられない。事実、こちらに目をやる魔物もいるが、何故か無視するか遠ざかるかのどちらかだ。
:気合がないぞ!
:魔物も頑張れよ!
:スコおじのいいとこ見たいんだよ!
:気合だ! 気合だ! 気合だー!
:アニマルがいて草。
:もっと熱くなろうぜ!
:松◯修造もいるのかw
:なぁんで魔物を応援してんですかねぇ
:なんだコレwww
ケルベロスが項垂れてトボトボと歩き、レッドドラゴンは立ち上がる気力もないのか地べたに寝そべっている。どの階層にもいるゴブリン(深層に出るのはウルティマゴブリン)は我先に襲ってくるのに胡座をかいて溜息をついている。
コメントの発言ではないがなんだこれ?
「まぁ余計な戦闘をしなくていいのは幸いですね」
「迷宮門崩壊ガ起きてナイのもネ」
起きてたら新宿以上の災害である。新宿の封鎖区域で一番強い魔物はレッサードラゴンだからな。仮にここが迷宮門を起こすとそれこそ目も当てられない。
しかしこれだけ駄弁ってても襲ってこないとか。いやこっちも充分注意しながら進んでいるから返り討ちにする自信はあるのだが。
兎に角、目的地へと歩を進める。ものの数分も経たない内に着いてしまった。
ただそこにあるのは地上にある神社とは似ても似つかない、半ば朽ちている小屋が一軒。扉なんかも無く、小屋というよりもあばら家だ。
「中に誰カいるネ」
「恐らく目当ての方です。入ってみましょう。すみません、失礼します」
中に入ると、そこには胡座をかいた男性が1人。服装や髪形などは火遠理命と同じだ。ただ、服はうすよごれて、所々ほつれており、髪も美豆良に纏めているものの、全体的にぼさついている。髭はもじゃもじゃで一切手入れをしておらず、目にはクマ、痩せ細っていて、まるで浮浪者だ。
「あの、火照命様ですか?」
男性がギロリと睨む。
「あぁそうだ。ワシが火照命だ。おめぇさん、何者だ?」
:ええええええ!?
:このくたびれたおっさんが海幸彦!?
:もっとガッシリしてるかと思った。
:確か海幸彦のモデルは隼人一族らしい。
:熊襲尊とか?
:てか海幸彦=縄文人、山幸彦=弥生人らしい。
:けど流石に貧相すぎん?
確かに海幸彦……火照命のイメージはガッシリとした髭面の、益荒男という言葉がピッタリなイメージなのだが、まるで違う。
まぁ当人が火照命と言うならそうなのだろう。
「自分は中村浩士といいます。実は火遠理命様から依頼を受けまして。何でも貴方が潮満珠と潮干珠を盗んだから取り返して欲しい、と」
「はあ? なんだそりゃ。ワシはそんなモン盗んどりゃせんぞ。第一ワシはアイツに逆らえん。従属する様契約を結ばれてしまったからな」
確かに伝承では最後に降伏して火遠理命に従う事になったんだっけ。
だとすれば玉を盗んだのは彼ではなく……
「ナア、火照命のオジサン」
「オジ!? ま、いいけどよ。それでベッピンな嬢ちゃん、なんだい?」
「確か話でハ弟ガ謝罪トシテ、無くした釣り針の代わりニ自分の剣を鋳潰しテ作っタ釣り針ヲ渡しタンだよネ? ナンデソコで許さなカタカ?」
龍さんの言う通りだ。そこで火遠理命を許せばこんな事にはならなかっただろう。
「あぁ、そんな事かい。ちょっと待ってろ」
と、ほはたちあがり、奥の方から木箱を持ってきた。蓋を開けると中に入っていたのは。
「何コノ鉄屑?」
多数の鉄屑、いや赤みがかっているから多分銅だろうか。なら銅屑か。針のようなものもあるが、殆どが金属を砕いた金属屑、銅屑にしか見えない。
「これが弟が謝罪と称して持ってきた釣り針……いや、ゴミだ。なぁ嬢ちゃん、こんなの貰って許せると思うか? しかもアイツはコレを渡す時にヘラヘラと笑ってやがったんだぞ。そうさ、アイツは端から謝る気も反省する気も無かったのさ」
:うわぁ……
:うわぁ……
:ないわー
:俺スコおじのアンチだけどさ……さすがにこれはねーわ。
:火遠理命処す? 処す?
:処すなら今回だけ応援しちゃる。
まさかのアンチもドン引きである。けど、これが真実とは限らない。ただ、迷宮はそう読み取ったのだろう。
しかし迷宮が生物って説、これでまずまず信憑性がたかくなったな。
「それで、あんちゃん。どうするんだい?」
「火遠理命の言う事を聞く必要はないですね。なんならぶん殴ってやりたいですよ。それに珠を盗んだのもだいたい見当がつきましたし」
ま、みんなの期待に応えるのは吝かではないし。ムカつくのは自分も同じだ。アンチですら味方についたし。
「ところで、なんでここの魔物はあんなに気力がないんですかね?」
「ん? そいつぁこれが原因だ」
と火照命が懐から何かを取り出す。それは釣り針だ。けど。
「う……」
「何ヨコレ……」
「ひうっ!?」
それを見た瞬間、やばい物だと解る。もし探索者でなければ気付かなかっただろう。けど、探索者となり、適性Exの今ならハッキリと解る。これは呪われている。
「これってまさか」
「ああ。アイツに騙された海神が呪いをかけた、あの釣り針だ」
話では竜宮城(諸説あり)で3年過ごした山幸彦が、無くした海幸彦の釣り針を探しにきた事を思い出し、海神がそれを見つけ、海幸彦を懲らしめる為にその釣り針に呪いをかけた。その呪いは所持者を不幸にするもので、海幸彦が治めていた土地は痩せ、作物が実らなくなり、荒れ果てていった。その影響がこの迷宮一帯に出でいるのだと。
「だからカ……迷宮内の魔素ガ濁ってる様ニ感じタノハ」
「この釣り針の影響で迷宮自体が呪われてる?」
「まぁそんなとこだ。安心しな、迷宮の中だけだから地上にはなんの影響もねえよ」
ついでに言うと、この呪いの所為で表層から下層まで完全に荒れ果てて何もないそうだ。
「この呪いが解ければ元に戻るんだかな……」
疲れ果てた様子の火照命が深い溜息を吐く。
「解呪かぁ……確かそんなスキルがあったっけ。持ってる知り合いいないけど」
何らかの形で呪われた人や物の呪いを解く、文字通り『解呪』ていうスキルがある。ただ効果は適性に依るので正直適性S以上の『解呪』持ちでないとこの釣り針の呪いを解く事が出来ないと思うのだが……
「ワタシ、1人知ってルネ」
「マジで!?」
「中村も知ってる人の仲間が『解呪』持ちヨ。正確にハ『解呪』じゃなくテ『聖女』スキルなんだけド」
え、誰? て自分と龍さんが知ってる共通の人物って……
「何!? これの呪いを解けるのか!? なら頼む、コイツの呪いを解いてくれ!」
半神半人の火照命が人間の自分達に頭を下げたのだった。
ゴブリンに関しては何故かどの層にもいます。
表層∶ゴブリン(役無し)
上層∶ゴブリン(役有り。ソルジャー、アーチャー、ライダー、メイジ、ヒーラー、リーダー)、バグベア、ホブゴブリン、レッドキャップ
中層∶ゴブリンナイト、ゴブリンジェネラル、ハイゴブリン
下層∶ゴブリンキング、ダークゴブリン
深層∶ウルティマゴブリン
こんな感じです。また、一部のゴブリン(バグベアとかホブゴブリンとか)は層を跨いで出現する事もあります。
「評価pt」
「っ! なろう作者ってみんなそうですよね。読者の事をなんだと思ってるんですか!」
(そーいやアニメ化しますね、これ……)




