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第39話 妖精猫王ケットシー

「――あの頃私とあなたのおばあ様は、まもなく訪れるお互いの死期を感じていた」


 そういうと猫の王は、どこか寂しげな表情をしていた。


「猫はね、例外が無い限り、決してその死の瞬間を、飼い主に見せてはいけないの。そう義務付けられているのよ」

「そんな、なんで――」


 僕は猫の言うその義務というものに、憤りのようなものを感じた。

 なんて自分勝手なルールなんだ。それじゃ、あまりにも寂しいじゃないか。


「それは仕方ないことなの。それが猫に生まれた者の運命。でもね、あなたのおばあ様は、私たちに課せられた義務など、まるでお構いなしだったわ。老衰で弱ってる私を、ずっと膝の上で寝かせて離さないの」


 そう言うと猫の王は、少し照れながら言った。その様子は僕が見ても、とても嬉しそうだった。さすが僕のばぁちゃんだ。


「でもそれは、おばあ様もきっと私と同じ気持ちだったの。猫の私には人の言葉で返事など出来ないのに、おばあ様はずっと私に話しかけてた。自分にやがて訪れる死が、とても寂しく、怖いのだと」


 僕は祖母の事を思い出して、急に切なさで押し潰されそうになった。

 その頃の僕は受験で頭がいっぱいで、葬儀の記憶は薄く、祖母の死という唐突な別れにあまり実感が持てずにいた。

 それなのに何故だろう、今になって実感したのか切なさがぎゅうっと溢れた。


「その時だった――私に、神託が下されたのは」


 猫の王は、じっと僕を見据えた。


「――ケットシー、つまり妖精猫の王に選定され、私は現世でも人語を操ることを許されたの」


 紡がれた言葉と威風堂々とした、猫の王の立ち振る舞いに、僕は一瞬目を奪われた。

 猫の王は、数歩踏み出し、猫の紳士の横を通り過ぎる。

 すると人形のように固まっていた猫の紳士が、畏まった様子でその場に跪いた。

 それに続き広間にいる全ての猫たちは、王に向かって跪いた。

 しんと静まり返った広間にカツン、カツンと響く王の靴の音。

 僕にはその光景が、とても神聖なものに見えた。

 妖精猫の王に選定されたという事は、一瞬でこの空間を厳かな雰囲気に染め上げるほど、華々しく偉大であることが伺えた。この死者の国を治めているほどなのだから、それは当然だろう。

 猫の王は、くるりと僕に向き直る。


「私とっても嬉しくて、あなたのおばあ様に一番に報告したわ」


 思い出を愛おしく語る猫の王は、まるで無邪気な少女を思わせた。


「私とおばあ様は、それから色んなことを話したの。嬉しくて、楽しくて――」


 僕はそれを聞いて、はっとした。


 祖母の訃報を受け取った時、ひどく落胆していた父を思い出したのだ。

 祖母の小さな変化に気付けなかったと、父はとても悔やんでいた。


 でも、真実は違っていた。


 近所のおばさんが目撃した『祖母がまるで人間と話すように、ペルシャ猫と会話していた』というのは、まぎれもなく、猫と会話をしていたのだ。

 そう、祖母は認知症ではなかったのだ。


 現世に戻ったら、すぐにこの話を父にしよう。

 あの時の父の後悔は、きっと晴れるに違いない。

 父が僕の話を聞いて、信じるかどうかはさておいて、この死者の国の話、猫たちの話、僕のこの冒険の話を聞いて、なんだそりゃ! ときっと笑うだろう。

 もしかしたら、馬鹿なこと言うなと殴るかもしれない。

 もしかしたら、僕がおかしくなったと呆れるかもしれない。

 でも僕は、きっと父に話すと思う。


 だって父は、あのばぁちゃんの息子なのだから。

 そして、僕の父さんなのだから。

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