表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/77

第37話 偶然と必然

「久しいわね、伯爵」

「はっ。ご無沙汰しております」


 猫の王はどこか優雅で、優しい目をしていた。

 僕はその目を、どこかで見たような気がした。

 猫の紳士は跪き下を向いたままだった。それはさも王と目を合わせること自体、(おそ)れ多い事なのかと感じるほどだ。

 猫の王はそんな猫の紳士を、じっと見つめて言う。


「先ほどの様子、何やら穏やかでは無い理由があるようね」

「お見苦しいところを……申し訳ありません」

「その胸の内を話してみなさい」

「はっ」


 猫の紳士はとても(かしこ)まった様子で、ちらりと僕の方を見て続けた。


「わたしが連れてきたこの青年。彼は死神の手によって、死に至らしめられた容疑があります。それを証明するため、わたしは彼をここへ連れてきたのです」

「なるほど。青年とは……彼の事かしら?」


 そう言うと玉座に腰を据えている王は、僕の方を手で指し示した。

 すると猫の紳士は顔を上げ、ようやく王の目を見て答えた。


「はい、いかにも」

「なるほど……そういうことなのね」


 王は何かに気付いたようで、大臣の方を見た。


「大臣。彼は兄の方だわ」

「なんと!? となると、なぜ捜査網が検知したのでしょうか」


 大臣は不思議そうに、猫の紳士を見た。


「それはだな、どうにか関所を通らねばと、わたしは知人から譲ってもらったコードをだな……もにょもにょ」

「――つまり、彼は不正コードで関門を通過しようとしたのか?」


 猫の紳士はその大臣の問いかけに、とても居心地が悪そうな顔をした。


「いやいや、だがしかしなんという幸運なのだ! 我らがこの2年間ずっと捜索していたコードを、まさか彼が持って現れるとは」


 大臣は不正コードを用いた猫の紳士を(とが)めるどころか、むしろとても嬉しそうに顔をほころばせた。


「これほどまで縁や絆というものをひしひしと感じられることがあるだろうか。彼は、彼の弟のコードを持ってきたのだぞ!」


 そう言いながら大臣は、猫の紳士の肩をでかしたぞ! と言わんばかりに思い切り叩いた。


「えっ……?」


 僕と猫の紳士は、大臣のその言葉を聞いて目を丸くした。

 この不正コードの元の持ち主が僕の弟?

 まさかそんな偶然があるものなのかと僕は愕然(がくぜん)とした。


「本当に間違いないのか? これは、人攫いを退治した知人が偶然手に入れたもの。わたしはそれを譲ってもらったのだが――」


 その偶然とも言える出来事に、少し興奮した猫の紳士は、そのコードの入手経路を洗いざらい大臣に話した。

 先ほどまで刃を合わせていたとは思えないほど、2人は盛り上がっていた。


「――つまり彼の弟は、人攫いによって、無理やりそのコードを奪われてしまった。と考えられるな」


 その『人攫い』という言葉で、闇市で見たマーケットのあの光景をまた思い出し、僕は粟立った。

 あの場所で繰り広げられていた惨状は、とても痛々しく、そしてとても残酷なものだった。弟はその被害に遭ったのだ。

 考えただけでも恐ろしく、そして悲しくなり、僕はえぐられたように胸がズキズキと痛くなった。

 その話を聞いていた王は、冷静な声で口を開いた。


「では、彼の弟は、今どこにいるの?」


 大臣はその王の言葉に、はっとした。


「わかりません……しかしここに彼のコードがある限り、もうコードによる捜査網は役に立たないでしょう……」


 さっきとは一変して、大臣の顔色はみるみる悪くなった。

 大袈裟かもしれないが、大臣のその表情は、まるで世界がこれから破滅してしまうかと思うくらい、絶望に満ちていた。

 王も口を押え、とても困った表情を見せていた。

 僕と猫の紳士は、何やらおかしいぞ。と顔を見合わせる。


 そう。僕たちは弟の行方を、知っている。

 即座に口を開いたのは、猫の紳士だ。


「彼の弟は……三途の川にいたぞ?」


 猫の紳士の言葉で、大臣は目を丸くした。

 僕は猫の紳士の言葉に、続けて言った。


「弟は僕を、渡し舟で三途の川を渡してくれた」


 それを聞いた大臣は、またも驚いた。


「なんということか……もはや奇跡と言うべきか……とにかく使いを出し、すぐに保護致します」


 大臣は王にそう告げると、すぐさま近くにいる兵士の猫を走らせた。

 僕と猫の紳士は、王と大臣のやりとりの意図が理解できず、ただ呆然とするのみだった。

 何かに焦っている大臣、深刻な顔で何かを思案している王の様子、僕はそれを見てある一つの考えに辿り着いた。

 猫の紳士が主張した死神の不正。

 それによって、僕がここに来た理由。

 捜索令を出された記憶を失った弟。

 きっとそれらには、何か深刻な理由があるのだろう。

 その時僕は、ふと王の姿を見て、何かを思い出した気がした。

 その様子を察した猫の王は、僕を見て優しく微笑んだ。


「やっと思い出したかしら?お久しぶりね」


 僕はその凛とした猫の王の声に、どこか懐かしく、既視感のようなものを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ