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第36話 遺恨

 謁見の間の扉はとても重厚で、竜のような彫刻が施されていた。

 その扉の前には、関所で見た甲冑の猫とは、恰好も体格も一回り違う騎士の猫が2人立っていた。

 その騎士の猫たちは体を覆い隠す程のとても大きな盾を持っており、不審な者を進入させまいと物静かにこちらを見ていた。

 大臣の指示で騎士の猫たちがその重そうな扉を開くと、とても広く明るい空間が広がっていた。

 広間はとても厳粛な雰囲気に包まれており、僕はそのとても張り付いた空気に少し緊張で喉が乾くようだった。

 真正面の段差の奥は、金の縁取りがあしらわれた赤いカーテンで仕切られており、恐らくカーテンの奥に玉座があるのだろう。

 そこへ向かってまっすぐに敷かれた真っ赤な絨毯は、一歩踏み出すとまるで沈み込んでしまうほどふかふかとしていた。

 左右には均等に並ぶ、黒い甲冑を着た兵士の猫たち。

 等間隔にそびえ立つ、美しい薔薇のレリーフが施された大きな大理石の柱。

 金の装飾が施された天井は、見上げるとまるで空ほどの高さにだった。

 いくつものシャンデリアが飾られ、広間を明るく照らしていた。

 僕は大臣の促すままに、玉座へと続く真っ赤な絨毯の上をゆっくりと進んだ。

 黒い甲冑の兵士たちは見守るように見据え、カーテンで仕切られた段差の前にようやく辿り着き、そこに立つ騎士の合図で僕は跪いた。


 キィンッ!!


 その時突然、背後の扉で金属音が響き渡り、僕は驚いて立ち上がり振り向いた。


「何事だ! 王の御前であるぞ!」


 騎士の猫の声と共に、広間はざわつきを見せる。そして中央に一人の甲冑の猫が走り込んできた。

 目を凝らしてよく見ると、甲冑を着込んだ猫の紳士であった。

 僕は猫の紳士のその見慣れた姿に、少し安堵したのは束の間で、剣を片手に持ったその切迫した表情から、穏やかに再会を喜ぶ状況ではないことが伺えた。

 僕は猫の紳士が何をしようとしているのか、容易に想像出来た。死神組合との確執と、死神たちへ抱いた疑念を、この王の御前で明かすつもりなのだろう。

 しかし僕は不正コードの持ち主のことや、何故ここに連れてこられたか、その真相を知らぬままに行動するのはいささか無謀なのではないかと感じ、猫の紳士をどう収めるべきか考えおろおろとしていた。


「失礼つかまつる! 大臣……いや、死神組合の長よ! 成敗いたす!」


 広間にいた兵士の猫たちは、猫の紳士の言葉を聞き、大臣の危険をすぐに察知したようで、一斉に猫の紳士を取り押さえようと飛びかかる。

 猫の紳士は両手でしっかりと剣を握り、取り押さえようとしてくる兵士の猫を(かわ)し、すぐさま背後から来た兵士の猫を蹴り飛ばしては、次々と跳ね除け大臣へ迫る。


「指名手配中の田舎伯爵か? 貴様何故ここへ?」

「大臣よ、剣を持て! これは正義をかけた決闘である!」


 猫の紳士は大臣へ剣を振り上げ飛び掛かる。

 大臣は隣にいた兵士の猫から剣を奪い取り、飛びかかって来た猫の紳士の刃を、いとも簡単に剣で受け止めた。


「正義と言ったな。ここは王の御前である。このようなことをしてただで済むと思うなよ」


 大臣は冷静な口振りで、猫の紳士に問いかけた。


「悪党め……わたしは貴様を許さぬ!」


 合わせた刃と刃。それを受け流す大臣。再び斬りかかる猫の紳士。今度はがっしりと互いに相手の刃を刃で受け、合わせた刃越しで睨み合う2人。

 その様子はまるで、過去に遺恨でもあるのか、何か因縁のようなものを感じさせた。


「――お止めなさい」


 その鈴のように凛とした声に、ざわついていた室内が一気に居住まいを正す。

 周りの兵士の猫たちは、一斉に剣を収め次々と玉座に向かって(ひざまず)く。

 開かれたカーテンの奥、その玉座の前には、威厳の風格を纏った1人のペルシャ猫。

 色とりどりの石が散りばめられた、煌びやかな金の王冠と、真紅のマント。

 見紛(みまご)うことなき死者の国の王の姿に、静謐(せいひつ)が室内の空気を包む――。

 彼女はすうと息を整え、猫の紳士に告げた。

「左様なことをして、何になるというのです。今すぐに剣を収めなさい」

 その言葉でようやく、猫の紳士は大臣に向けた刃を収め、そして王に向き直り、跪いた。

 その様子を確認した大臣も、すぐさま剣を置き、王に向かって跪いた。

 王は静かに玉座に腰を下ろした。

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