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2・記憶喪失とこれからの事。



 そして、私にあるのは、前世の記憶のみだけだった。この世界の記憶はないので、ここがどこなのか、このお嬢様と呼ばれた私は誰なのか、本当に何も知らなかった。



 記憶喪失と誤魔化して私はそれから、この世界と自分が誰なのか知った。それを教えてくれたのは、お嬢様付きの侍女、先ほどのメイド服の美人メリッサさんだった。ドルチェ子爵家の三女、行儀見習いなどではなく、仕事をするために十五の時からレミリア付きの侍女になったらしい。末位の子爵令嬢、それも三女となると、結婚相手を見つけるには難しくなっていくそうだ。なので、侯爵家で働くことになった。



 馬車の事故で頭を打ったが他に外傷はなかったらしい。一週間ほど目を覚まさなかったようで、周りは本当に心配したらしい。きっと、このお嬢様は、馬車の事故で死ぬはずだった。しかし、私がそのお嬢様の体に何かの縁で入り込んだ、それが正しいのかもしれない。



 鏡を前にして、ようやく私は、何か思い出しかけた。この顔、どこかで見たことがあると思った。レミリア・オルスタード、十七歳。銀髪に紫の瞳、周りからは少し近寄りがたい風貌をしていた。そして、その顔にはうっすらとだが、見覚えがあったのだ。学生時代の友人であった菅原玲子(れいこ)は生粋のオタクで彼女はアニメからゲームにとても詳しかった。趣味は違うがウマはあったようで、就職しても月一で飲みに行っていた仲だ。お互いに相手も居ずもうすぐ三十路だねと、乾いた笑みを浮かべて飲んだものだ。お互い好きなものを話して推しのどこが良いのか笑い合う。私はずっと、昔からレーゲンボーゲンの浅生(あそう)嘉隆(よしたか)くん一人だけだったが、玲子は違った。作品ごとに推しがいるようで、それは、数年で変わる。でも、その話がとても楽しかった。

 ここ何ヶ月かは、リアル寄りのグラフィックの乙女ゲームがお気に入りで、それがどんなに素晴らしいか語ってくれたばかりだ。

 そのゲーム、タイトルは忘れたが、でも、そのビジュアルがとても綺麗で、珍しく食いついてしまった。その中の登場人物の一人である少女のビジュアルがレミリア・オルスタード侯爵令嬢だった。ヒロインの侍女を務めることになる貴族令嬢だ。高位の貴族には行儀見習いとして、高位の貴族令嬢がお付きに着くことが多々あった。ヒロインは王家に連なる人たちと同等の地位を持つようで、レミリアが侍女として選ばれたのはそんな理由だ。父が、副宰相の地位にあり、結婚もしていない、それが主な理由なようだ。本当に力説してくれた。


 それなら、この世界はそのゲームの世界になるのだろうか。これだけでは、判断材料にならない。オープニングを少し見せてもらい、最近のゲームは随分、現実よりのグラフィックになったなと関心したものだ。そして、スマホでこんなに綺麗に動くことに驚いた。



 基本的な乙女ゲームは、主人公の能力値を成長させて、攻略対象のキャラクターと幸せになるというものらしい。これは、高校生の頃に玲子から説明を受けた。ゲームをほとんどしない私にはわからない事だが、玲子の説明は聞いていて、とても楽しかったのを覚えている。



 そして、今回の乙女ゲームの概要は異世界からやってきた日本人のヒロインが聖女として、お付きの攻略対象と仲を深めながら、転移してきた国アルダンとその近隣の国にある水晶球を浄化していくという話だ。瘴気は水晶球に溜まるようで、聖女が触れると真っ黒な水晶球が元の美しい水晶球に戻るという。それを、繰り返して世界を浄化させるのが目的らしい。


 侍女メリッサさんにそれとなく聞いた話では、聖女が浄化の旅に出るのは、本当のことで、それは、百年ごとに行われるらしい。聖女は突然、王都に現れるようで、そろそろ前の聖女がやってきて百年が経つようだ。つまりどこかに聖女が現れている可能性が高い。王宮の神殿に配置された水晶球は瘴気を取り込み過ぎて、取り込み切れなくなる恐れもあるようだ。その情報はさすがにメリッサさんからの情報ではなく、レミリアの父であるオルスタード侯爵からの情報だ。オルスタード侯爵も不安視する情報を流す人ではない、これは、たまたま耳に入ってきたのだ。けして、私が侯爵の書斎の側を通りかかった際に、来客として来ていたアルフ・レダニア侯爵との話に聞き耳を立てていたわけではない。

 それと、もう一つ、聞いた情報はレミリアが馬車の事故に合ったのは瘴気の気に触れた馬の暴走らしい。その時、馬の暴走を止めようとした御者は死亡。一緒に同乗していた侍女はレミリアである私に触れていたのか、外傷はほとんどなく、私と同じように療養してる。メリッサさんの同僚の人だった。御者の人には申し訳ないが、侍女だけでも助かって良かった。その後、何故か馬の暴走は止み事故の詳しい状況は分からずじまいだったようだ。



 すべてのピースがはまったような気がする。何故、馬の暴走が止まったのか、令嬢と侍女に身体的外傷がほとんどなかったのか、そして、何故、王都に聖女が現れないのか。そのすべてが一つに繋がった。


 聖女はきっと、私だ。アラサーの私がそう言うとすごく残念だが仕方がない。そうでなければ、辻褄が合わないのだ。きっと、聖女が現れたから、馬の暴走は止まった。レミリアに怪我がなかったのは、聖女の力だ。頭の傷は綺麗に治るのに数ヶ月は要するはずなのに、ほぼ、一瞬で治っている。お付きの医師が驚いたほどだ。そして、レミリアに聖女が入り込んだので王都に聖女が現れないのだ。

 こんなの説明しても信じてもらえるはずはない。一体、どう説明して、信じてもらおうか。



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