第141話 久しぶりの二人きり
みんなでVCを終えた後、通話には白君とあたしだけが残った。
時間はすでに深夜。お互いに仕事をしている身だから、無理はできないと分かっている。
それでも、すぐに通話を切らなかったことに、あたしは小さな期待を抱いていた。
『なんか久しぶりだったね。みんなと話すのも、君と二人で話すのも』
白君の声は穏やかだった。まるで昔のままのような優しい響き。その響きを聞いた瞬間、あたしの中にどこか懐かしさが込み上げる。それと同時に、少しだけ胸の奥がチクリと痛んだ。あたしは一瞬迷いながらも、ゆっくりと口を開く。
「……懐かしかったね」
『うん、懐かしかった』
白君はふっと微笑む。その様子は昔と変わらない。まるで、また過去に戻ったかのように錯覚してしまいそうなほどに。
『英さん。やっぱり気まずいよね』
「……そんなことは、ないけど」
即座に否定したものの、迷いがあった。自分の中にある違和感を、あたし自身が一番分かっていたから。
『ごめん。僕が君から離れたせいで、いろいろなことが狂っちゃったんだと思う』
あたしは、一瞬何を言われたのか分からなかった。ただ、白君の言葉の裏にある感情の重さを感じ取って、自然と唇を噛んだ。
『君が配信者になったことはきっかけに過ぎなかったんだ。僕には救わなければいけない人がたくさんいて、未来を知った以上、放ってはおけなかった』
白君の声は静かだったけれど、どこか苦しげだった。
『でも、結局僕はクロの恩人、そして自分にとっての恩人の未来を狂わせた』
それはきっと正治さんのことだろう。
白君にとって彼はクロがいなくなった後の兄貴分でもあったのだ。
その彼は今、白君の会社もやめ、ユーチューバー界隈からも姿を消した。
『それに友人だって傷つけてしまった。ズルをした罰だよね』
白君の声が震えるのを、あたしは感じ取った。
「リラのこと?」
『ああ。僕が表面的な問題ばっかりに気を取られていたせいで、凛桜は……』
凛桜に好意を寄せられたとき、白君は一体どう思っていたのだろうか。
それは、あまり考えたくない。
『結局、君の隣に入れる人間になろうと努力したけど、僕は道を見失っていたのかもしれないね』
自嘲する白君の声には覇気がなかった。
未来を知って行動した彼からしてみれば、これは失敗した未来のようなものだ。
『何もかも壊して、さ……手遅れな状態になったとき、こうしてみんなと会えて――』
「違うでしょ」
あたしは白君の言葉を遮って告げる。
「遅いとか、やり直せないとか、そういうことじゃない。ただ、白君がこれからどうしたいかでしょ」
『……僕が、どうしたいか』
「そう。未来がどうなるかなんて、誰にも分からない。でも、変えようとすることはできる。たとえ小さなことでも」
あたしの言葉に、白君はしばらく黙り込んだ。
静寂が流れる。でも、それが苦しいものではないことは分かる。
白君はゆっくりと息を吐いた。
『……そっか。君はやっぱり強いな』
「そんなことないよ。ただ、もう後悔したくないだけ」
あたしは微笑む。
「だから、白君も今度こそ自分の気持ちに向き合って。あたしも向き合うから」
『……うん』
白君の声は、少しだけ前向きに聞こえた。
しばらく、二人の間に静かな時間が流れる。
そして、あたしは意を決して口を開いた。
「……ねえ、白君。ちょっと聞いてほしいことがあるの」
『うん、何?』
白君はいつものように優しく応じる。
「あたし、タイムスリップしたの。クロみたいにね」




