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第七章: 誘(いざな)い

 会議から一週間後、佐久でのんびりと過ごした北斗とパトリシアはウイングに乗って羽田へと向かっていた。

 北斗の個人所有機であるこの旧世代型インター・セプターは、かつてパイロットの養成訓練にも使用されていた機種でもあり、複座式となっている。また、かなり大柄なボディを持つため、最新型の複座式インター・セプターと比べても居住性には余裕が有るほどだ。

 よって、佐久から羽田程度の距離を二人乗(タンデム)りで飛ぶには快適そのものであるはず、なのだが……


 北斗の真後ろ、タンデムシートに座ったパトリシアの頬は、まるでクルミをたっぷりと頬袋にため込んだリスのようにぷっくりと膨れていた。

「しょうがないだろ、パティ」

 北斗がやれやれといった感じで、朝から何度目かのセリフを口にして宥めようと努力するが、今朝、北斗の祖母かゑでの作った朝食を上機嫌で平らげた時の面影はみじんもない。

「……解ってるけど」

 パトリシアは、北斗はなにも悪くないのに怒りを抑えられずつい当たってしまう自分が腹立たしくて、更に落ち込んでしまった。


 この一週間、パトリシアは北斗の祖母かゑでにべったりと懐き、まるで自分の実家のように寛いでいた。

 かゑでの肩を揉んだり一緒にお風呂に入ったり、北斗に連れられて美ヶ原や霧ケ峰をハイキングしたり温泉に入ったりと遊びまくり、白い肌をこんがりと日に焼けさせ、薄めなブロンドと翠色の瞳を除けば地元の娘と見紛うばかりになっていたのだが……

 現在のパトリシアはぶすくれたまま、文句をぶつぶつと呟いている。

 なぜ、パトリシアがこんなにも不機嫌なのか……それは、今朝、二人が朝食を終えて荷物をまとめ、出発前にサッパリしようと朝風呂を楽しんでいた時に入った緊急通信が原因だった。


 先だって行われた帰還報告会議の際、船団総長・天元の計らいで北斗とパトリシアは初日のみ出席して報告を行い、翌日の軍関係者中心の方は抜けさせてもらい北斗の実家である佐久へやって来てしまった。だが翌日の会議上で、船団防御指揮官(ディフェンスコマンダ)たる北斗の欠席について異議を申した人物が出たのだ。

 その人物とは、連邦地球軍地球防御師団長(テラディフェンスジェネラル)、ジョニー・ノリス大将である。

 北斗が軍に在籍していた時、最後の直属上司であった男で、当時から今に至るまで軍で最も固い頭の持ち主として恐れられ続けているツワモノだ。

 ノリス大将は、作戦行動中や訓練中のみならず、部下の平時の生活態度まで必要以上に厳しさを求める人物であり、本来自由な気風が強い連邦地球軍を愛していた北斗とは反りも話もまったく合わず、いつも衝突していたのである。だが、だからと言って北斗に対して地位や立場を利用して強い態度に出たりする様な事は一切なく、基本的には公明正大な人物なので、北斗も苦手では有るが嫌っているワケではない。

 また今回の報告会議において、ノリス大将自身は別にどうしても北斗の報告を聞きたいと思っていたわけではいなかった。現在直属の部下として目を掛けているドロッセルからの、ある意味私情に満ちた悪意ある報告を受け、防御指揮官(ディフェンスコマンダ)である北斗が会議を途中で抜けた事に対して無責任だと憤慨し、異議を申したのだ。


「ホント、あのドS女ってばムカつく!」

 パトリシアが吐き捨てるように言うのを聞いて、北斗は声を出さずに溜息をつく。

(ったく、ドロッセルのやつ……)

 今朝がた、ドロッセルからの通信が北斗の端末に入った時、北斗はパトリシアと入れ替わりに風呂に入っていた。鳴り響く端末を持って脱衣場に来たパトリシアが、

「えっとね、相手の表示は『地球連邦東京支部』だけど」

 と言うので、北斗はとりあえずパトリシアに通信を取らせたのだ。

 北斗に言われて

「はい、巳桜です」

 と通信に出たパトリシアに対し、

『なぜ、貴様ごときが北斗の端末を弄っているのだ。そうか、盗んだな? 薄汚いコソ泥め』

 などとドロッセルがのっけから強烈な暴言を投掛けたので、パトリシアは驚きと怒りで息も吸えないほどに血を上らせた。

 あまりに怒り過ぎて錯乱し、パトリシアはドロッセルと罵り合いながらわざわざ服を脱いで全裸になった上、端末を持って風呂場の北斗へ特攻して来て

「何やってんだパティ!」

 と北斗に怒鳴られた。が、

「だってお風呂だもん! 見るな北斗のスケベチンコ!!」

 意味不明な逆切れをかまして端末を北斗に投げ付け、それから悲鳴を上げて逃げ出すというワケの解らない醜態を晒した。端末が軍用準拠の耐衝撃・耐圧耐水仕様だったから良かったものの、もし民生仕様の華奢なものだったら色々な意味でえらい事になっただろう。


 北斗が通信を代わると、ドロッセルが冷徹な声で説明を始める。それによると、北斗が二日目の会議を欠席した事に対しノリス大将が怒っており、呼び出すように指示された旨を伝えられたとの事である。だが北斗は、もう軍属では無い自分には関係ないとそれ突っぱねた。

 しかし、北斗が応じない場合には船団総長である天元の責任が問われる可能性もある、とドロッセルに脅されてしまったのだ。

「出世したらずいぶんと手の込んだ作戦を使うようになったな、ドロッセル・フォン・ベルクヴァイン大佐」

 煮えくりかえる腹を抑え、冷静さを装って嫌味を言った北斗だったが

『お褒め頂きありがとうございます』

 全く感情を揺らすことなく平気で返され、ぐむ、と唸った。

 そして、さんざん世話になり、また心から尊敬している天元に余計な迷惑を掛ける訳にはいかないと考え、しぶしぶ呼び出しに応じることにしたのである。


 ドロッセルと北斗の通信を風呂場の外で盗み聞き、北斗が呼びだされた事を知ったパトリシアはまたしても裸のまま風呂場に特攻し、湯船の中の北斗の手から通信機をもぎ取って

「それならボクも行く!」

 と通信機の向こうのドロッセルに怒鳴ったが

『あ? バカか貴様は。必要無い。と言うか来るな、目障りだ』

 そこまで言われ、鼻血を出すほど怒り狂い風呂場でぶっ倒れ、かゑでに叱られてしまった。

 ドロッセルとの通信を終えた北斗は、鼻に脱脂綿を詰めて居間に寝ているパトリシアを見て深いため息をついてから、雅臣に連絡して事の顛末を話した。すると雅臣は、とりあえずパトリシアは予定通り一足先にフラビオンへ向かい、北斗は報告が終わり次第後を追ったらどうかと提案した。

「万が一、ボクが必要になったらどうするのさ?」

 だが、それを聞いたパトリシアは北斗の報告が終わるまで待っていると言い張った。しかし、北斗にも蓋を開けてみないとこの再報告会議がどういう様相を呈するか予測も付かない。

 その上、現在の連邦地球軍最悪の石頭コンビの前にパトリシアが立たされる様な事にでもなったら冗談ではなく精神崩壊を起こしかねないと判断した北斗の必死の説得で、パトリシアはしぶしぶと先にフラビオンへ行く事を了承したのだった。


「さて、後五分で羽田に着く。とりあえずこのまま雅臣の船に着艦してそのまま載せて持っていってもらうから、ウイング(こいつ)の事はお前に任せる」

 北斗は羽田の管制室と交信を終えて、片手で拝みつつパトリシアに頼んだ。

「……うん、解った。早く来てよね」

 北斗の愛機を任されたことに気を良くしたのか、パトリシアは少しだけ機嫌を直したように返事を返す。

「ああ、とっとと終わらせてさっさと追い掛けるよ」

 北斗は、ほっと胸を撫で下ろし、タンデムシートでまだ少し脹れっ面をしているパトリシアに向かってひらひらと手を振った。


 羽田でパトリシアにウイングを任せた後、モノレールで連邦地球政府東京支部へとやって来た北斗を迎えたのは予想通りドロッセルの灰色の瞳だった。

「よお、卑怯者」

 澄ました顔で自分を見つめる灰色の瞳の持ち主に向かい、北斗は薄笑いで皮肉を飛ばす。

「義務を果たさない怠け者に、そんな事を言われる筋合いは有りませんね」

 だがドロッセルはまったく意に介さず、逆に非難の言葉を返した。

 北斗は肩を竦め

「ふん、無駄な労力と時間を省くことの何が悪い。軍の体質もお前の性格も、相変わらずのお役所気質で進歩が無いな」

 先ほどよりも辛辣な表現で吐き捨てる。

 さすがに効いたか、ぴくり、と細い眉を跳ね上げたドロッセルが

「……ノリス閣下にも、そう仰ってみればいかがですか」

 くっと唇を噛みしめ、僅かに震える声で答えると

「言われるまでもないさ」

 北斗は、苦々しげに返した。

「……では、こちらへ」

 これ以上ここで言い争っても無益と判断したのか、ドロッセルが軍人らしくしなやかな動作で身を翻して北斗に着いてくるよう促す。

「ああ」

 そしてカツカツと軍靴の音を響かせて歩きだしたドロッセルの後を、北斗はうんざりした表情で追った。

「こちらです」

 カツン、と歩を停めたドロッセルが指し示す部屋に無言で入室する。と、そこには北斗を呼び出した張本人であるノリス大将の他、その部下らしき軍人と政府関連者が数人、椅子に座っている。

 その中に、天元と雅臣の姿を認め、北斗は少し驚いた。

(なんで二人がここにいるんだ? いや、天元総長はともかく、なぜ雅臣まで……? だいたいあいつ、パティと一緒にフラビオン行くんじゃなかったのかよ?)

 とりあえず北斗はノリス提督に形式上の敬礼と挨拶を済ませ、天元に一礼してから雅臣の隣に行き

「おい、パティの案内(ホスト)はどうなってんだ」

 と小声で尋ねた。

「心配するな。ウチの良いオトコを揃えてパトリシアさんを手取り足とり歓待するように手配してある。もちろん、航海の安全は保証する」

 だが雅臣は、薄笑いを浮かべて逆に不安にさせるような返事を返す。

「……お前、ホストはホストでも違う意味のホストをパティにあてがったんじゃないだろうな?」

 北斗は雅臣に向かって凄みながら誰何した、が

巳桜防御指揮官(ディフェンスコマンダ)。私語を謹んで、さっさとご自分の席にお着き下さい」

 司会席に着いていたドロッセルから鋭い声が飛び、ニヤニヤと笑う雅臣を一瞥してからしぶしぶと指定された席へ着く。

「それでは、これより追加報告会議を始めさせていただきます……」

 そして、ドロッセルの会議開始の声を聞き、北斗は本日最大の溜息を会議室に響かせた。


「……疲れた」

 会議開始から約7時間後、午後11時ちょい。

 先日、天元に教えてもらったバーのカウンターで、日本酒のグラスを一気に三杯空けた北斗が突っ伏していた。

「うむ」

 北斗の呟きに、隣で白ワインをくいっと()った雅臣が頷く。

「くっそ、あんの石頭コンビ……」

 北斗は思い出すだけでもムカムカするらしく、体を起こし並々と四杯目が注がれたグラスを半分ほど煽った。

「まあ、仕方有るまい。前回の会議でも使われた報告書をそのまま朗読しただけでは、頭の固いお方が納得するわけもない」

「……パティの報告書読めば、どんなバカでも理解できるだろうに」

 そう、北斗はパトリシアが製作し、前回の会議上で天元が報告に使ったものを、改変もせずにただ読み上げたのだ。もちろん、ノリス大将に対する皮肉を込めて、だ。

 会議中、北斗が淡々と報告書を読み上げていると、ノリス大将から

「先日の会議とまったく同じ報告書をただ読むだけなど時間の無駄だ」

 と待ったが掛かったので、北斗は

「ええ、まさにその通りです。つまり、この会議自体が提督ご自身を含めた参加者全てにとって大いなる時間の無駄だという事でしょうね」

 などとやり返し、ノリスの顔を真っ赤に、ドロッセルを除く提督の部下、軍高官数人の顔を真っ青にさせたのである。

 ドロッセル自身は北斗の痛烈な皮肉などどこ吹く風で平然と水を口に含んでいた、が。

 その後、高官連中が北斗を糾弾し、北斗は更に皮肉と嫌味を重ね。

 怒った提督が退出しようとするのをドロッセルが止め、天元がフォローをし……

 最終的に天元と雅臣がなんとかとりまとめ、無事に、とは言い難いが六時間半に及んだ追加報告会議は終了した。


「しかし、お前は本当にバカだな」

 三杯目の白ワインを空けた雅臣がしみじみと言う。

「ほっとけ。性分だ」

 北斗はグラスの中に残っていた酒を一気に煽った。

 二人はマスターに味わうための酒を注文し、手際良く出された器を受け取って目の高さに持ち上げる。

「無為に費やされた、もう還らぬ時間のために」

「愚かで猪突な反骨者のために」

 ふっと、微かに笑い合ってから、二人はそれぞれ趣きの異なる二つの器をチン、と軽く合わせた。

「だが北斗、ノリス大将はお前の軍復帰を望んでいるようだぞ」

 曇り一つ無いシャンパン・フルートから唇を離し、雅臣が含み笑いして言うと

「俺はもう、軍に戻るつもりはない」

 素気なく答えた北斗が、様々な漢字で飾られたぐい呑みをくい、と傾けた。

「そうか、そうだろうな。だが、ノリス大将はお前とドロッセル・フォン・ベルクヴァイン大佐の仲を取り持ちたいと考えているようだが」

 わざわざドロッセルのフルネームを出し、北斗の顔を覗き込む雅臣だが

「おまえは何を言っているんだ?」

 北斗はその顔をじろり、睨みつけた。

「ノリス大将はベルクヴァイン大佐を娘か孫の様に思っているだろう? だからこそ、しっかりした軍人、それも大佐自身が好ましく思っている人間と一緒にさせたいのさ」

 だが北斗の不愉快な様子など意にも介さず、話を続ける雅臣に

「俺は、軍に戻るつもりもドロッセルと一緒になるつもりも全くない。と言うか、どう見ればノリス大将が俺を好ましく思っているなんて錯覚が出来るんだ。お前の目と脳みそは腐っているんじゃないのか?」

 北斗は呆れ顔で返し、酒を煽った。

「いや、私は人を見る目には自身が有るし、人と人との機微を視るのも得意だ。そうでなければフラビオンの総帥なんぞやっておられん。違うか?」

 雅臣が返した言葉に、北斗はそっぽを向いて無言の肯定を示す。

「まあ、お前自身も解っていながら恍けているんだろうからこの件については何も言うまい。だが、ベルクヴァイン大佐の気持ちに気付いていないとは言わせんぞ」

「……」

「彼女はお前に対して、愛情や尊敬など通り越して崇拝に近い感情を抱いている。だからこそ、風来坊の様なお前の現状が我慢ならんのだろう」

 たたみ掛ける雅臣の言葉を、北斗は黙って聞いている。

「パトリシアさんだってそうだ。彼女にとって、お前は上司であり、父であり、兄であり……そう、彼女にとって、お前は『全て』と言えるだろう。そんな彼女の想いに対して、お前はどう応えるつもりなのだ?」

「……お前、酔ってるだろ」

 いつものクールな様子が消え、熱い口調で語る雅臣に北斗がぼそっと言うと

「……当たり前だ。お前と差しで飲むときくらい酔っても良いだろうが」

 雅臣がはっと我に返ったように一瞬黙り、すぐ後に、苦笑しながら頭を掻く。

「まあな。だが、今夜はちょっと酔い過ぎだろ」

 北斗も笑いながら、雅臣の肩をポン、と叩いた。

「ふむ、だが一つだけ聞かせてくれ。お前が、一番大切に想っているのは誰だ?」

「お前なあ……」

「良いじゃないか、友達だろ? ちなみに私が一番大切な存在は……」

「あー別に良いよ言わなくても解ってるから」

 北斗は酒臭いため息をつき、雅臣の言葉を遮った。

「じゃあ、教えてくれよ。お前は俺の心を知っているのに、俺がお前の心を知らないと言うのは不公平だろ?」

 いつか、あの軽井沢の庭で訊いた言葉。幼かった北斗と雅臣が、一日がかりで造り上げた秘密基地の中での、秘密の会話。

 あの時と同じ雅臣の言葉を聞いた北斗は、何も言わずに残った酒をきゅっと一気に煽った。

 そしてもう一度大きく酒臭い息を吐いてから

「……マスター、こいつと俺に、同じものを」

 とオーダーする。

「ふむ、なるほど」

 それを見た雅臣は満足げに頷き、マスターがすっと差し出した酒の満たされたぐい呑みを、北斗の持つぐい呑みにカツン、と合わせて乾杯した。


 結局午前三時過ぎまでしこたま飲んだ二人は、ふらつく足取りで会議が始まる前にチェックインしておいたビジネスホテルに向かった。

 このホテルは、前回の会議の際にパトリシアが泊っていた安ホテルだ。

「ヒック、なんらってお前まれこんな場末のビジホに泊まるんら?」

 完全に呂律が回らなくなる半歩手前で辛うじて踏み止まっている北斗が隣の雅臣に声を掛けると

「げふっ、たまには一興と思ってな」

 微妙に蛇行しつつ歩いている雅臣が盛大なげっぷをしながら答えた。

「けっ、金持ちの考える事は理解出来んにゃ」

 北斗は呆れたように呟くと、いつの間にか塀にぶつかって足踏みをしている雅臣の体をぐい、と引き戻した。

「おお、すまん。今、歩いているのになぜか前に進まなかったのだ。不思議な事もあるものだ」

「うるしぇー馬鹿。こにょ(にょ)んだくれ」

 またしても千鳥足で塀に向かって行進していく雅臣の体を捕まえた北斗が毒づくが、先ほどよりも呂律の怪しさが増しているので説得力の無い事夥しい。

 結局二人は、ホテルまでの1キロ弱の道のりをたっぷり1時間は掛けて戻り、辛うじてお互いの部屋に辿りつきベッドに倒れ込んだ。


 ふらつく二人が部屋に入り、ドアが閉まる。と、廊下の角から小さな影が現れ、北斗と雅臣の部屋から少し離れた角部屋に入って行く。その部屋はベッドが二つ置かれたツインルームで、スーツ姿で黒縁メガネの、いかにも秘書、といった風貌の女性が一人、ベッドサイドの椅子に腰掛けていた。

 暗めに落とされた室内の照明でもきらきらと煌めく美しい金髪が異彩を放っている。

「マスターとおじさんのガード、終了しました!」

 入室して来た小さな影――およそ、九歳~十歳程度に見える少女――が、女性に向かって元気に報告する。

「了解。ご苦労さま、アンナ。では、朝までお休みなさい。ただしサスペンドモードで、何か有ったらすぐに動ける様にしておいてね」

「はーい!」

 女性の言葉に、アンナ、と呼ばれた少女はシュタ! と元気に手を挙げてからシューズを脱いでベッドに倒れ込んだ。

「おやすみなさい!」

「はい、おやすみなさい」

 女性に向かって挨拶をした後、アンナの瞳が閉じられ、10秒ほど後に小さな寝息を立て始める。

 その寝息は妙に規則正しく、注意して観察すると機械的な印象を与えられるものだ。だが、知らないものが普通に見ただけなら、これと言っておかしくは見えないだろう。

「さ、私も眠らないと(・・・・・)」

 女性はアンナの様子を少し見た後に椅子から立ち上がってメガネを机の上に置き、髪留めを外してからスーツを脱ぐと、漆黒の下着に包まれた見事なボディが露わになった。

「目覚ましは……と、今は必要ないのよね。昔の癖って抜けないものね」

 くすくすと笑いながらベッドに横たわり、間も無く安らかな寝息を立て始めたその女性は、先日アリスと共にフラビオンに向かったはずのアンドロイド、ノワール・マリアであった。




更新遅くなりました。

次回更新は明日、というか今夜4日(日)の予定です。

よろしく!

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