第8話 冒険者登録
きっかけはミルの何気ない一言だった。
「せっかくフィアンスフィアに来たんだ。冒険者登録でもしていったらどうだい?」
「冒険者登録ねぇ」
ギルドに名前を登録するだけなら別に構わない。
だが、実際に冒険者として、いろいろ任務をこなすのは面倒だと言える。
登録するだけで登録料は取られるし、毎月税金をもっていかれる。
そう考えると、この街に長期滞在しないのに冒険者登録をするメリットは低いような気がする。
「そのことだけど、キミたちにはこの街にしばらく滞在してもらおうと思ってるんだ」
俺が一通り考えを説明し終わると、ミルが毒気のない表情で言ってきた。
デュークの言い方だと一刻を争う感じだったのに、ミルのこの余裕はなんだ。
もはや彼が勇者パーティのリーダーだね。
俺の中でのデュークのクールガイというイメージは、完全に崩れ去っている。そんな中、ミルのこの頼りになる立ち回り。
「師匠、と呼ばせてくれ」
「キミに師匠と呼ばれるなんてね」
可愛い笑みを浮かべ、頭をかくミル。
「それはそうと、なぜこの街に長期滞在する必要がある? 他の3人をさがすのなら、行動範囲を広げた方が巡り合える可能性も高い」
デュークの一言。
それはそうだが、ミル師匠には何かお考えがあるのだろう。
俺はデュークの言うことより、ミル師匠の言うことに従うぞ。
「この街は全国各地から人が集まる。冒険者になって、一発逆転を狙うためにね」
「つまり、情報はいくらでも転がっている、と?」
「そういうことだよ。ギルドや酒場に行けば、情報は手に入る。冒険者としての地位が上がれば、それなりに貴重な情報を得ることだってできるんだよ」
さすがはミル師匠。
「と、いうわけで、早速冒険者登録をしてもらおうかな」
翌日。
俺たちは冒険者ギルドに来ていた。
もうすっかり受付嬢に覚えられている。
しつこく毎日来ていたからな。
「それでは、デューク・マキシマム様とフェニックス・サンダーボルト様の冒険者登録をさせていただきますね」
冒険者登録。
まずは名前や年齢などの基本的な情報を登録し、その後に魔力などの数値を計測する。
ゲームではサブクエストにちょっと出てきた程度の冒険者業だったので、こうやって実際に冒険者登録をするのは新鮮だ。
まずはデュークの魔力を測定する。
「こ、これは……」
受付嬢の絶句……。
相当な数値が出たに違いない。
「デュ、デューク様は、フェニックス様のことがお好きなんですね!」
他の受付嬢も呼び集め、全員で盛り上がる。
もしかして、この娘たちは腐女子なんだろうか。
「そ、そうだ……照れるな」
いやいや、そこ認めるなよ。
デュークは顔を真っ赤にして、俺への好意を認めてしまっている。
これには腐女子の連中も悶絶し、キャーとかいやーんとか言っている。
「ていうか、なんだよこの魔力測定。そんなことまでわかるの?」
「はい! 実は魔力測定というのはその冒険者の秘めた感情や才能までも把握できるのです」
秘めた感情、ねぇ。
俺に告白してきた時点で、秘めてもなんでもないような気がするけど。
そんな茶番は無視することにして、次は俺の番だ。
どんな測定結果が出ることやら……。
「フェニックス様……あなたは……まさか……」
あれ?
もしかして、俺がダンジョンの元支配者だってバレた感じかな。
となると、俺はここにいる冒険者にとって、倒すべき敵になっちゃうけど。
「ミル様のことを師匠のように慕っていらっしゃるのですね!」
またも、キャーという悲鳴が上がる。
「これって、禁断の三角関係、ってやつですか?」
一旦黙ろうか。
彼女たちが腐女子であることはわかったが、そんな測定をするためにここに来たわけじゃない。
俺の冒険者としての素質を教えてくれよ。
「そうですね……すみません。少し盛り上がってしまいました」
「盛り上がりすぎだよね」
「ええ、申し訳ございません。そういう趣味ですから」
そうすか。
はい。
「フェニックス様には炎属性の魔術適正があるようです。デューク様に魔術適正はありませんが、高い身体能力を駆使して武器を操る術に長けていると考えられます」
そんなことくらいわかってる。
今日ギルドにきてわかったことといえば、受付嬢がほとんど腐女子だということだけだ。
「あ、そういえば――」
こそっと俺に耳打ちしてくる受付嬢。
こいつ、やたらと距離が近いな。
「――実は私、ミル様のファンでして、フェニックス様には特別に、ミル様の日常のあらゆるシーンを描いた画集を10%引きでお売りしようかと思っているのですが――」
なんだって!?
「それって、ヌードとかあります?」
ミル師匠本人やデュークに聞かれないよう、小声で聞く。
「もちろんです。ヌードって言っても、ほとんど妄想で描いたものなんですけどね」
「買います」
ということで、後日、俺はミル師匠のヌード付き画集を受け取りに行った。




