第5話 冒険者の街
冒険者の街は王都よりも狭いが、港町なこともあって、独自の文化を発達させている。
街を彩るのは、ありとあらゆるところから聞こえてくる音楽。
バイオリンみたいな弦楽器での演奏だ。
穏やかな波の音に、弦楽器の奏でる優雅なメロディー。
「俺、ここに住みたいんですが」
「王都よりも人気のある街だ。そう思うのもしかたない」
人生についていろいろと思いを馳せるのであれば、この港町はぴったりだ。
波の音を聞きながら、紅茶を飲む。
家のベランダから眺める青い海……よし、王都からこっちに移住するか。
「観光に来たわけではない。行くぞ」
相変わらず、無愛想でお堅いヤツだ。
デュークは海をチラッと見て頷くと、満足したかのように背を向け、街の中心部にあるという冒険者ギルドを目指して歩き出した。
冒険者ギルドは、まるで城のような建物の中にあった。
周囲を囲む塀と堀。
庭に設置されている複数の噴水が、俺たちを出迎えてくれる。
「ここで合ってる?」
「この建物の全てが、この街のギルドの所有物だ」
どうやらこの街は、冒険者のおかげで発展してきたようだ。
冒険者がいてこその、フィアンスフィア。気に入った。俺も冒険者になろう。
ギルドの扉を開けると、大勢の冒険者の注目が、俺ではなくデュークに集まった。
元勇者パーティのメンバーなんだし、注目されて当然か。
それとも、王国騎士団の団長としてのデュークが注目されているのか?
今日のデュークは騎士団の制服を着ていない。だからおそらく前者だと思うが――。
「な……なんだこの魔力は……」
「あいつはヤバい……」
よく見てみると、デュークだけでなく俺にも視線が集まっている。
どうやら俺たちセットで注目を浴びていたらしい。
「我々の魔力量に動揺しているだけだ」
デュークが説明してくれた。
俺たちの体からは体内に秘めている魔力の1割ほどの魔力が、周囲に溢れ出している。
その僅かな魔力だけでも、常人の魔力の10倍ほどの量があるとのこと。デュークがそれなので、俺はもっと魔力量があるものと考えられる。
「ここに来たのは初めて?」
「前に一度だけ来た」
デュークはそれだけ言うと、受付嬢のもとに近づいた。
一応はイケメンである俺たちを見て、顔を赤らめるヒューマンの受付嬢。
女性は苦手なのでここでチヤホヤされるのは避けたいが、デュークがいるので大丈夫だろう。
「本日はどのようなご用件で――」
「ミル・ワンダーランドに会いたい」
「ワンダーランド様……ですか?」
「旧友だ。デューク・マキシマムの名を伝えれば、会ってくれるだろう」
「デューク・マキシマム――! 王国騎士団長の――」
「そうだ。ミルとは勇者パーティの仲間だった」
「ええ、存じ上げております。ところで……そちらの方は?」
ギルド中の注目が俺だけに注がれる。
この冒険者たちは知らない。
俺が例のダンジョンのラスボスで、かつて勇者パーティを壊滅した男であることを。
そんなラスボスが、今では元勇者パーティのリーダーと行動を共にしているわけだ。
「俺はフェニックス・サンダーボルト。ここにいるデュークの……」
敵、なのか。
元敵、なのか。
今では相棒なのか。それともただの知り合いなのか。
「フェニックスはオレの友人だ」
「――ッ」
いいのか、デューク。
俺はお前のパーティを壊滅させた男なんだぞ!
しかも……なんだ?
デュークのヤツ、顔を赤らめてやがる。
これはどういう状況だろう。
というか、こういうキャラだったっけ?
「とにかく!」
急に声を張り上げるデューク。これにはみんなびっくりだ。
いきなりキャラに合わないことをするからこうなる。
「ここにはミルに会うために来た。次ミルがギルドに来たら、俺のことを伝え、この住所を渡してくれ」
オレたちが泊っている宿屋の住所だ、と言って、困惑した表情の受付嬢に手渡す。
クールキャラの急なデレに、驚いているのは俺だけじゃないということだね。
ギルドを出て、宿屋に向かう。
デュークはほんの少し焦ったような様子で、俺をチラチラを見てきた。
なんだろう。
この、隠していた好意がバレてしまったヒロインっぽいムーブは。
「どうしたの?」
こっちが気まずくなってきたので、港のあたりに戻ってきたところで聞いてみる。
デュークは俺のことを友人と紹介した。
勇者パーティにいた人間が、なぜラスボスを友達だと思えるのか。
「……」
「えーっと……」
急に黙り込むデューク。
こいつはどちらかと言えば無口なキャラだが、必要なことは口にするタイプだ。この謎ムーブに関する説明くらいはしてもらわないと困る。
「実は……オレは……貴様のことが、好きなんだ!」
「……は?」
もう一度言っておこう。
――は?




