第4話 ダンジョンの呪い
ショックだった。
自分が1位を獲れると確信していたのに、実はもっと強いヤツが1位をかっさらっていった時のように。
俺の天下はあっけなく、そして儚い。
そんなしょんぼりとした気持ちになりながら、馬車に揺られていた。
向かい側には、同じくしょんぼりマンと化したデュークが。
騎士団長になり、実力も磨いていたつもりだったんだろう。
だが、そんな俺たちが力を合わせても、結局敵わなかったわけだ。
おかしいな。
俺、この世界じゃほぼ敵なしラスボスだったんだけどな。
一度の狂った行動が、後になって俺を苦しめる。
「40階層で敗れるとは……」
「最悪だよ、これ」
さらに最悪なことに、以前使えていたダンジョン内での瞬間移動ができなくなっていた。
これも、支配者が別のヤツになったからだと考えることができる。
というか、そうとしか考えられない。
――おのれ、名前も知らない新しい支配者め……。
「そういえば、他の連中とは連絡とか取ってるの?」
「連絡? 手紙のことか?」
「あ、そうそう」
そっか。
この世界にはSNSとかないんだった。
この1年、友達を作って手紙のやり取りとかをしていたわけじゃないので、普通に失念していた。恥ずかしい。
「パーティが解散してから、一度も会っていない。情報は入ってくるが……」
「何か問題でも?」
誰がどう見ても問題ありそうな渋い顔をするデューク。
他のメンバー、みんな弱体化とかしてないだろうな?
「我々の切り札は勇者と呼ばれたアクセルにかかっていると考えていい。それと、かつてのダンジョンの支配者である貴様だ」
「それはどうも」
「だが、肝心なアクセルは……あの敗北以降、自信を失ったのか、表舞台から姿を消し、噂も聞かなくなった」
「……重傷だな」
あの時、こてんぱんにしすぎたのが良くなかったんだろう。
ナルシストだしムカついたから、他のパーティメンバーより多めに殴っておいたのだ。
それが体だけでなく自信も打ち砕いてしまったらしい。
「どこにいるのかもわからないってことか」
落ち込んだ呟きに、デュークが頷く。
彼はリーダー的存在だった。
パーティをリードし、いつも先頭に立って指示を出すような役割を果たしていた。
だが、パーティの主力は勇者アクセルだ。
アクセルが中心になり、モンスターと戦う。
そういう戦闘スタイル。
きっとアクセルはダンジョンに潜ってから覚醒するだろうから、一緒に連れていくことは必然だと考えていい。
「アクセルの居場所を知ってそうなメンバーは?」
「……いない」
「あ、これ詰んだね」
終わりだ。
もう俺はダンジョンの件から完全に手を引こう。
もしこのまま何も起こらないのであれば、特に問題はない。
実家を奪われたというだけで済む。そこまで危害はないだろう。
「俺はもう諦めて、猫のオスカーちゃんと一緒に隠居生活を送ることにするよ」
「それはできない」
「勝手に決められるのは困るな」
「このままだとダンジョンのモンスターが地上に溢れ出す。そうなれば、王国が滅びる、なんてこともあるかもしれない」
「王国が滅びたら、また別の国に行けば――」
「逃げる場所はない。貴様はダンジョンの元支配者。その肉体にはダンジョンとの記憶が刻まれている」
なんだその設定。
初耳だぞ。
「一度でもダンジョンに入った生命体は、一生ダンジョンの呪いに悩まされる。モンスターが地上に溢れてくれば、真っ先に狙われるのは我々だ。関係の深い貴様は余計に狙われるだろう」
「なんで俺、ダンジョンの支配者なんてやってたんだろ」
後悔しても遅い。
俺が支配者だった瞬間なんてほんの一瞬だ。
すぐに引退して普通の生活を送り始めたからな。
それに、俺は転生してこの世界にこの姿でいるわけで、望んでこうなったわけでもない。となると、やっぱり世界は俺に対して理不尽だ。
「再びパーティの仲間を集めるとすれば、まずはミルに声をかけるべきだろう」
「ミルか……今頃何してるんだろうね」
ミルというのは、小人のパーティメンバーだ。
戦闘面で頼りになることは当然だが、落ち着いているので安定感には必要不可欠な人材。
「前から思っていたのだが、貴様、勇者パーティのメンバーに詳しいのはなぜだ?」
「詳しいとはなんとことかな」
まあ、俺はかつてこのゲームをプレイしていたわけだし、名前や戦闘時の特徴くらいよくわかってるさ。
だが、それをデュークに伝えたところで、何かが変わるとも思えない。
こういうのは適当に誤魔化しておけばいいのだ。
「とにかく、ミルをさがせばいいってことだな。で、ミルは今どこにいる?」
「冒険者の街フィアンスフィアだ」
「冒険者の街、ねぇ」
王都の隣にある、冒険者の人口が6割の街、フィアンスフィア。
勇者パーティを辞めて行き着く先としては、納得できる。
「あの街では1番の知名度を誇るとのことだ。ミルの実力から考えれば……妥当なところではあるだろう」
「信頼度高いね。気に入った」
馬車に揺られながら、今後もそれなりに付き合いがあるであろう、仏頂面の男を眺める。
これから、俺が1年前に全滅させた勇者パーティを、また復活させる。
デュークは意外とあっさりしていたが、中には俺に対して強烈な憎しみを持っているヤツがいるかもしれない。
俺はそれがミル君ではないことを、心の底から祈った。




