第3話 新たな支配者の誕生
いろいろと困ったことになった。
ちょうど1年前に倒した勇者パーティのメンバー、デュークがわざわざ俺の家まで来て。
今まで1年間ストーカーしていたことを告白して。
最後にはなんて言った?
――ダンジョンの新しい支配者が誕生した、だって?
「もう一度言ってくれる?」
「貴様が1年間ダンジョンを留守にしていたことで、新たなダンジョンの支配者が誕生した。オレはそう言っている」
「……」
まさか、この世界のダンジョンにそんな裏設定があったとは。
ゲーム本編ではわからないことだな。
だいたい、勇者アクセルがラスボスのフェニックスを倒して全クリなんだし。
ラスボスが1階層で待ち伏せするなんていう、ちょっと恥ずかしい裏技を使ったせいで、一気に物語が終わりを迎えたからなぁ。
「確かに俺はこの1年間ダンジョンに潜っていない。近づいてすらいないとも」
別にデュークは俺のことを疑っているわけじゃない。
だが、彼はわざわざここまで来た。
ストーカーしていた過去を打ち明け、今起こっているであろう恐ろしい事態の報告をしてきた。
――その意味がわかるか?
「俺は無関係だ。よって、今後一切、ダンジョンの件に関わることはない」
頼むから、俺を巻き込まないでくれ。
デュークの切れ長の瞳。
紫に輝くその凛々しい目は、俺に協力を求めている。
わざわざ手伝ってくれなんて言われなくとも、その目を見るだけでわかってしまった。
「我々にとっても貴様にとってもメリットのある話だ。協力してくれ」
やっぱりね。
そうくると思ったよ。
「せっかく落ち着いた暮らしができると思ったのに、俺をまた戦場に引きずり込むつもりか」
「貴様の実力は間違いなくこの王国のトップクラスだろう。最高戦力を利用しない手はない。それに――」
「それに?」
「――このような事態になったのは、貴様がダンジョンの管理を怠ったから――そう考えることもできる」
「理不尽だ……」
こうなることを知っていたら、実家に帰るような感覚でダンジョンにちょくちょく足を運んでいただろうに。
ゲームではラスボスの行動を指定することはできない。
プレーヤーの都合で変えられるのは主人公である勇者アクセルの言動だけだ。
こうしてラスボスの行動を変え、王国の歴史を変えてしまった以上、どんなことが起こるのかは完全に未知である。
「はぁ」
一切緩まないデュークの顔を前に、小さな溜め息をつく。
やれやれ、って感じの溜め息ね。
しかたないなぁ、っていう雰囲気を出しながらの。
「それじゃあ、とりあえずダンジョンに行ってみよう。不確かなことは自分の目で見て確認するまでだ」
「そうか。それはありがたい」
「というと?」
「一般の騎士ではダンジョンに近づくことすらできない。魔力が一定数に達していなければ、ダンジョンに入れないようになっているようだ」
なるほど。
俺が支配していた頃――といってもほんの数分だけど――にはなかったシステムだ。
セキュリティが厳しくなったらしい。
もう夜中だというのに、ダンジョンまで行くことになるとは。
本気ダッシュで行っても良かったんだが、デュークが馬車を用意してくれていたので、お言葉に甘えて乗せてもらうことにした。
馬車を操縦するのは騎士団の副団長、マックス。
本編には登場しなかったキャラだ。結構なレアキャラかもしれない。
「団長、これ以上は進めません。徒歩で行くしかないかと思われますが……」
「わかった。フェニックス、降りろ」
「え、名前で呼んでくれるの?」
なんか嬉しい。
友達になったみたいだ。
「勘違いするな。我々は友ではない」
「そうすか」
つれないヤツだなぁ。
まあいい。
そのうちデレてくれることを期待しよう。
ダンジョンまではそれなりに距離があった。
馬車で近づくことのできる限界が、1キロといったところか。
副団長のマックス君は、どうやらあれ以上ダンジョンの方角に進むことはできないようだった。
――だとすると、かなり強力な魔力結界じゃないか?
そんな結界を張れるほど強いヤツがダンジョンの奥にいる――そう考えると、怖くなってきた。
せっかく勇者パーティに滅ぼされることを阻止して1年間生きてきたのに。
ここでやられたら台無しだ。
「デュークは大丈夫? 魔力とか」
「オレを誰だと思ってる?」
それはもちろん、それなりに強いキャラだと思ってますよ。
だが、こいつは俺に負けているのだ。
1年前に。
「まあ、大丈夫なんだろうけど」
デュークは俺の反応に満足したように鼻を鳴らし、それ以降は無言のまま進んだ。
話すことといったら、最近飼い始めた猫が可愛いってことくらいしかないしな。
そもそも俺たちがまともに話したのは今日が初めてだし。
前回は戦って俺が勝ち、その結果彼らの勇者パーティ人生を大きく壊してしまったわけだ。
――申し訳ないかって?
そりゃあもう。
俺の行動の責任は重いと思っているが、反省する必要はない。
俺も生き残るためにやったことだ。神様も許してくれるだろうし、むしろ褒めてくれるだろう。
ラスボスが序盤から登場して主人公を蹴散らすなんて、最高の娯楽だ、とね。
10分ほど歩いて、ダンジョンの入り口に到達する。
もうすでにここは森の中だ。
無論、周囲に人がいるはずもない。
「覚悟はできているか?」
「覚悟って何? 実家に帰ってきたのに家が知らないヤツに乗っ取られてるっていうショックに耐える覚悟ってこと?」
「そうだ」
ちょっとあっさりしているな、今回の相棒は。
「できるものなら、新たな支配者を倒す」
「そう簡単にいくとは思えないけどね」
結論、その通りだった。
俺たちは新しく誕生したというラスボスに会うことすらできず、ダンジョン40階層で敗北。
怪我をした状態で王都まで逃げ帰ってきた、というわけである。




