第2話 問題発生
俺が平和な未来を手にしてから、1年が経過した。
この1年、凄く充実していた。
ヒューマンなのでダンジョンの外に出たとしても、ラスボスが地上に侵攻しにきた、と勘違いされることはない。
普通の赤髪イケメン青年として、上手く人間界に溶け込んでいる。
ダンジョンの中で陰湿な暮らしを送ることもできたが、モンスターに囲まれていると落ち着かないし、暇だ。
だから地上に住んで、バイトをしながら生計を立てていくことにした。
ダンジョンは王都の外れの森の中にある。
少し歩けば――と言っても、普通は馬車で1日かけて移動する距離ではあるが――王都の中心部に着く。
俺がバイトしているのは、王都にある有名な酒場。
店主が訳ありも歓迎してくれるような器の広い人だったおかげで、俺は難なく仕事を見つけることができた。
今はこの酒場のバイトだけで十分に生きられるだけの収入がある。
というのも、俺は食事をしなくても生きられるという特殊体質で、その気になれば食費をゼロにすることだってできるからだ。
家賃さえ払えば、あとはそこまでお金を必要としない暮らし。
食べなくても生きられるとはいえ、やっぱり食事は楽しみたい。
そんなわけで、たまに3つ星の高級レストランに行って食事をしたりしている。
「フェニックス君って、出身はどこなんですかぁ~?」
「さあ、どこだろうね」
酒場に来る常連客は、女性が多い。
意外だと思われるかもしれないが、実はその理由は俺にあった。
イケメンであるということは素晴らしい。俺の噂は王都中の女性の間を駆け巡り、今では遠くの街からわざわざやってくる客もいる。
俺も罪な男だぜ。
賃貸の家に帰り、ベッドに寝転がる。
1か月前、子猫を拾った。
オスカーという名前をつけて可愛がっているが、実はメスであったことを昨日知ったのだ。
名前を変えてやるべきか悩んだものの、結局呼び慣れているオスカーで通すことにした。
「オスカーちゃんは可愛いにゃ~」
猫としゃべるっていうのは、いいね。
一人暮らしは退屈なことも多かったから、ちょうどいい。
前世でいろいろあったせいか、俺は女性が苦手だ。
だが、猫との会話であれば疲れないし、最高の癒しになる。オスカーちゃんは俺のベッドにちょこんと座ると、そのまま体を寄せて寝始めた。
――ああ、にゃんこ最高。
バイト先の酒場から、猫の餌になりそうな肉を持ち帰っているので、オスカーちゃんの食事は大丈夫である。
――コン、コン、コン――
落ち着いた、3回のノック。
これは……俺の家、だよな?
――コンコンコン――
警戒して反応しなかったら、今度はさっきよりも速いノックが聞こえてきた。
しかたない。
少し怖いが、開けるしかないか。
まあ、俺はそもそも強いわけだし、戦えば間違いなく勝てる。うん、問題ない。
「はーい」
ベッドに猫を残し、玄関に移動する。
『みゃー』
オスカーちゃんが鳴いた。
どうやら起きたらしい。
眠りを邪魔されたオスカーちゃんは少し機嫌を損ねたのか、俺の方まで来て猫パンチを繰り出してくる。
「ごめんな。ほら、お肉あげるから――」
――コンコンコン――
「あ、はいはい、開けまーす!」
――バコン――
なんだろう。
玄関から嫌な音がしたんだが。
ドアをぶっ壊してないだろうな?
「ちょっと! それはあまりに乱暴というか……」
「久しぶりだ。少し、話がしたい」
「デューク……」
「オレの名を知っているのか?」
なんと、玄関には――。
俺が1年前に倒し、ダンジョンから追い出した、デュークが立っていた。
誤解のないように言っておくが、勇者パーティを倒しただけであって、殺したわけじゃない。
それは大きな違いだよね。
もう来るなよって意味で、勇者パーティを壊滅させただけなのだ。
だからここにデュークが生きて存在していることは、別に驚くことでもなんでもない。
だが、問題は別のところにある。
どうして、彼は俺の家を知っているのか。
どうして、彼は今更ラスボスに会いにきたのか。
それなりに謎は多いが、冷静に話ができる人間であることは知っているので、警戒しながらもリビングに案内する。
「猫を飼っているのか?」
「1ヶ月前からね」
「……そうか」
デュークはクール系のキャラなのだ。
適当な雑談は向いていない。
「それで、なんで俺の家に来たの? ていうか、なんでここがわかった?」
これが何よりも重要である。
復讐に来たとか言われても、戦うつもりなんてさらさらないからね。
「貴様を監視していた。この1年、ずっと」
「え……」
もしかして、ずっとストーカーしてきてたのデュークだったの?
しつこいファンの女の子かと思ってた。なんかちょっと恥ずかしいな。
「貴様も知っているとは思うが、俺は勇者パーティが解散してから、国王軍の騎士団に入り、今は騎士団長を務めている」
「そうだったんだ……おめでとう」
全然知らなかった。
まあ、納得はできるけど。
「貴様の監視は任務ではなく、個人的なものだ。だが、騎士団の一員として、ここ1年のダンジョンの変化も監視し続けてきた」
「ダンジョンの変化か……」
そういえば、ダンジョンにはちょうど1年くらい帰ってないな。
実家ってわけでもないし、戻ってもすることないから、帰省する意味がないんだよね。
「貴様と戦った後から、モンスターの動きが鈍くなり、地上で暴れ回ることが一切なくなった。それは貴様がダンジョンを出たからだろう」
デュークの表情は変わらない。ずっと無表情に近い。
「この1年、貴様を見た限り、人間に敵意や害意を持っているようには見えなかった。実際、その通りだと考えていいのか?」
「そうだね。俺は平和に暮らしたいだけだし」
「……そうか。だが、ここ最近、以前のようにダンジョンのモンスターが地上に溢れ出し、暴走するという報告が何件もある」
「そんな……」
俺はそんな指示出してないぞ。
ダンジョンを出る時、外には危害を加えずに大人しくしろ、という命令を全モンスターに送ったのだ。
「知らなかったのか……」
「全然知らなかったんですけど」
「だが、それも無理はない。数日前、ダンジョンから膨大なエネルギーが放出された」
なんだか嫌な予感がする。
「それってつまり……」
「貴様が1年間ダンジョンを留守にしていたことで、新たなダンジョンの支配者が誕生した――王国騎士団はそう考えている」




