第15話 治癒魔術
エミリー曰く、今いろいろとエルフの街にいるのが気まずいので、1秒でも早く街を出る口実が欲しかったとのこと。
そんな中、1年ぶりに現れた元パーティメンバーからの誘い。
断る理由がないだろう、と。
それに、特に好きでもない相手と結婚させられ、親には腹が立っていたし、面白いことなんてひとつもなかったそう。
エルフの令嬢っていうのも大変だな。
「エミリーもまた合流できたということで、あとはアクセルとルゥをさがすだけだね。問題は、その2人が今どこにいるのかってことだけど――」
「あら、ルゥでしたらそこにいますわ」
「え?」
エミリーが指さした先は窓の外。
豪邸の中庭だ。
今日は天気がいい。
ぽかぽかな外で太陽の光を浴びながら昼寝しているのは、猫耳の可愛らしい少女じゃないか。
彼女こそ、パーティの癒し担当であるルゥ・アポカリプスだ。
正直なところ、俺はルゥが本当にパーティに必要なのかどうか疑っている。ゲームでもただの癒しキャラとしてしか登場しなかったし、結局最後まで活躍することはなかったからだ。
印象に残っているのは途中でエミリーのペットという認識が強まったこと。
やたらとエミリーに懐くので、ダンジョン攻略の最中はずっとエミリーが餌付けをしてやっていた。
本当なら餌付けとかしなくても勝手に食べているだろうに。
甘やかすからだ。
「まさか、こんな近くにいたなんてね」
ミルはほっこりするような可愛い笑みを浮かべると、俺たちがいる3階の窓から飛び降りた。
さすがの身体能力。
エルフに囲まれて戦っている最中に生き生きできるだけはあるね。
「あの馬鹿……」
デュークが窓の外を見て悪態をつく。
――何かあったのか?
「あ……」
ミルが飛び出した窓の外。
その下には、地面に着地した後のミルの姿が。
なんと、着地に失敗して両足首を折っている。どうしてこの距離から見ただけでわかるのかというと、彼の足首が反対方向に折れ曲がっているからだ。
「大変ですわ」
口ではそう言いつつも、比較的落ち着いた様子のエミリー。
ミルと同じように窓から飛び降りるなんてことはせず、冷静に階段を使って下におりていった。
「調子に乗るからだ」
デュークが呆れるのもよくわかる。
「あれ、治せるの?」
「エミリーの治癒魔術さえあれば、1時間程度で回復するだろう」
「もはやチートだな」
完全に反対方向に曲がってるけど、足首。
これを元通りに戻せるっていうのなら、どんな怪我でも治せちゃうんじゃないか。エミリーはこのパーティになくてはならない存在だ。
もしミルが回復しなかったら、パーティを追放しようと思っている。だからミルの今後の活躍はエミリーにかかっていると言ってもいい。
「俺たちも中庭に出ようか」
中庭に出ると、しけた顔をしたミルと、安心した表情のエミリーがいた。
「ボクはあえて足首を折ることで、エミリーの治癒師としての腕が落ちていないか確認したんだ」
ミルがなんか言っている。
「エミリー、こいつの治癒やめてあげて」
「え? いいんですの?」
「うん、なんか大丈夫っぽいから」
満面の笑みで答える俺。
だが、これでミルが焦り始める。
「これだとエミリーの実力を確かめられないじゃないか。ボクの尊い犠牲によって、テストしてあげているんだよ。ほら、エミリー、早く治して」
「はい」
「いや、俺は今、ミルがこのパーティで1番役に立たないのではないかと思っている。だからこれは、ミルが苦痛に耐えられるのかテストしてるんだ」
「ちょっと! フェニックス君!」
「あら、そうだったんですの?」
「そうそう、もしここでエミリーがミルを治せば、ミルはパーティから追放されるかもしれない」
「あらまあ……」
ミルはすっかり涙目だ。
大きな瞳がうるうるしている。
可愛いからって見逃してやらないぞ。
「ご、ごめんなしゃい……痛いので治してくだしゃい……」
あ、泣いた。
さすがにこれ以上追い詰めると拷問っぽくなってしまうからしないけどさ。
やっぱりミルを追放すべきなのかも。
エミリーの治癒魔術の腕は確かなもので、ミルの足首もすっかり元通りになり、腫れも引き、痛みも消えたとのことだ。
あと数時間は立たない方がいいとのことだが、ほぼ一瞬で完治したと言ってもいいレベルである。
同じ勇者パーティ。
その中でこんなにも実力の差があっていいものか。
デュークはまだいいとして、モンスターと戦えないミルなんてダンジョンでは話にならないし、ルゥはただのペットのような存在だ。
だが、エミリーは治癒魔術師系のエルフとして、しっかりパーティ内での重要な役割を担っているようだった。ビジュアルも抜群だし、言うことはない。
「ミル、デューク、久しぶりにゃ」
「やあ、ルゥ。元気だったかい?」
うるさくしていたせいで、お昼寝をしていたルゥを起こしてしまったらしい。
人型で二足歩行。
ヒューマンとの相違点は頭についた可愛い猫耳。
ほぼほぼヒューマンと変わらない見た目のルゥは、正真正銘の癒し枠だ。
小人のミルほどではないものの、かなり小柄で愛らしい。
エミリーのことがよほど好きなのか、体をスリスリして愛情をアピールしている。
「くんくん」
今度は、俺の匂いを嗅ぎ始めた。
一応俺は1年前にパーティを潰したラスボスだが、覚えていてくれたのか。
「やっぱりいい匂いだったにゃん」
想定外なことに、ルゥは俺の匂いが気に入っていた。そのままペタッと抱きついてきて、離れない。俺が1年前のラスボスであることに気づいているようではあったのに、どうしてこんなに懐くことができるんだ?




