第12話 モンスター恐怖症
エルフの街は冒険者の街から馬車で半日ほどの場所にある。
ゆったりと馬車に揺られながら、デュークとミルという、新たな旅の仲間に視線を向けた。
「なんだ?」
いきなりじっと見つめられたことが気になったのか、顔をしかめながらデュークが唸る。
「いや、別に」
「ついにオレのことを好きになってくれた、そういうことか?」
「は?」
「こっちの話だ」
そうですか、そっちの話ね。
少しでも気を抜くと、デュークはすぐに俺への好意を見せようとする。
どういうキャラなんだ、一体。
寡黙で冷静な頼れるリーダーはどこへ行ってしまったのか。
「エルフの街にはモンスターがいないといいけど……」
そんなガッカリ元リーダーの隣で、ボソボソ呟いているのがミルだ。
ハーフリングという小人族で、可愛らしい見た目とは裏腹に、切れる頭と動ける身体を持っている。
というのはあくまでゲームの中でも話で、実際はただのモンスター恐怖症おチビちゃんだ。
言葉だけはそれっぽいし、いつも冷静。
だが、モンスターとの戦闘時に役立つことはない。
器用に穴を掘って隠れるだけだ。
「やっぱりモンスターが怖いんだ。へぇ」
「いやいやいや、何を言っているのかな? ボクの力は強大すぎるから、モンスターが可哀想だなと思っていたんだよ。彼らも悪気はないんだ。ただ本能のままにボクたちを襲うだけだよ」
「本能のままに襲われたら本末転倒だから、変に気を遣わずにやっちゃったらいいんじゃないかな」
ミルの頬を伝う汗。
俺に詰められて焦ってるっぽい。
「気を遣うってことは、礼儀だと思うんだ。実力のある冒険者は、まずモンスターに敬意を払わなくてはならないからね」
「それなら、モンスターと正々堂々戦って、勝つことで敬意を示すこともできるはずだね、うん」
「……なかなかやるじゃないか、フェニックス君。認めるよ」
「それは光栄なことで」
「あはははは」
作り笑い感が凄い。
ちょっと可愛いので見逃してやろうかとも思ったが、ここは少し、はっきりさせておく必要がある。
「エルフの街に着く前に確認するけど、ミルは戦闘じゃあ頼りにならないし、デュークはそこそこ強いけどアホってことでいい?」
「オレがアホだと?」
「ボクが戦闘じゃ頼りにならない、だって?」
眉をひそめるデュークと、笑みを崩さないミル。
「これからとんでもなく強いヤツを相手に戦うわけだし、味方の力を把握しておいた方がいいと思うんだ」
俺は至って真剣だ。
茶番に付き合っている余裕はない。
この2人と組んでダンジョンに潜るより、ひとりで潜った方が成功確率が高いような気がしてきた。
「貴様の言いたいことはわかった。オレでは力不足ということだろう。それは十分承知しているが、このパーティを統率できるのはオレだけだ」
デュークは統率者。
リーダーとして、勇者パーティをまとめることができる。
そして、それは彼にしかできないことだ。
そう考えれば、確かにデュークはダンジョン攻略に必要なのかもしれない。
「ボクはその……正直に言うと、確かにモンスターは怖いし、戦った経験もない。でも、対人戦なら得意だし、ダンジョンの罠を見抜いたり、地形を把握したりすることは得意なんだ」
「モンスターが人型だったら戦えるってこと?」
「いや、モンスターはダメなんだよ。モンスターと聞くだけで身震いがする。だからモンスターって何度も言うのはやめてほしいね」
モンスターって何度も言っているのはお前だ。
「でも、キミはモンスターじゃなくてヒューマンだ。そうだろう? だから1年前にもキミと戦うことができた」
「確かに」
言われてみればそうだ。
ミルとの戦闘は、勇者アクセルの次に厄介だった記憶がある。
無駄のない動きと低い位置から繰り出される剣。
これにはラスボスの俺も若干の焦りを感じた。
「つまり、戦闘能力がないわけじゃないくて、モンスターとの戦闘ができないってことか」
「その通り!」
「どうにかして克服するっていうのは――」
「ごめんね、それは無理なんだ。モンスターは怖いから」
「それをどうにか――」
「無理なものは無理なんだよ、フェニックス君。キミ、苦手な食べ物とかはあるかい?」
急に苦手な食べ物を聞いてくるとは。
「レバーとかかな」
「なるほど、ボクも苦手だ。それじゃあ、そのレバーを今から食べろって言われたらどうする? キミは黙ってレバーを食べられるかい?」
「食べないだろうな、そりゃあ」
「そういうことだよ」
いや、多分違うぞ。
「レバーを食べることのメリットがないから、食べる意味がないだけだ。レバーを食べないと世界が滅ぶって言われたら、もちろん食べるよ」
「……」
何も言い返せなくなったミル。
ここまで来ると情けないぞ。
「さすがだよ、フェニックス君。世界のためにそこまでできるなんて。ボクだったら絶対にレバーは食べない」
「うん、ミルはパーティ追放ね」
「あはははは! 面白いことを言うね、フェニックス君は」
結構本気で言ったんだが、ミルにはまったく効果がなかったらしい。
ここで俺は悟った。
これ以上こんなことを続けていても、ミルがモンスターと戦うことはない。
彼は頑固で、口が達者で、アホなのだ。
「エルフの街が見えてきたみたいだ。話はここまでみたいだね。せっかく盛り上がってたのに。残念だよ」
ほんと、残念なヤツらだ。




