第10話 伝説のクエスト
伝説のクエストを受けることになった。
ひとりでギルドに行ったので、このクエストもできればひとりだけで解決してしまいたい。
なんといっても、俺はダンジョン出身のラスボスである。
地上のエンシェントドラゴン討伐なんて、大した問題じゃあないだろう。
俺にとっての最大の敵は、現時点でダンジョンに生息している真のラスボスのみ。
そいつを倒すことができれば、もう二度と同じことにならないよう、俺が本当にダンジョンの支配者として、最下層に君臨してやる。
ダンジョンを離れたことでこうなったんだ。
実家を再び取り戻したら、もう実家に住んでしまった方がいい。
「あのぅ……やる気になっているところ大変申し上げにくいのですが、このクエストは複数人での申し込みが必要になりますので……」
なんだよそれ。
もう少し先に行ってくれ。
マリちゃんの表情は俺に心底同情しているような感じだった。
そりゃあ、ギルドの真ん中でこんな恥をかけば、同情されるさ。
「わかりましたよ。ミルとデュークを連れてくればいいんですね?」
「ええ、それでしたら構いません」
「はいはい」
というわけで、海を眺めながらボーッとしていた2人を連れてきた。
穏やかな気分に浸っていたところ悪いが、恥ずかしくなって逃げ出したと思われる前に、ギルドに戻ってこなければならなかった。
しかたないだろう。
「エンシェントドラゴンの討伐ねぇ……」
「え、ミル師匠でも難しいの?」
「そりゃあまあ……伝説のクエストだし、ドラゴンと戦ったこととかないし……」
え、そうなの?
ミル師匠の場合、俺よりもずっと経験があるものだと思っていた。
ちょっと誤算だったかもしれない。
だが、デュークよりミル師匠の方が頼りになることは間違いない。このままミル師匠の意見だけを求めていこう。
「貴様の実力をもってしても、エンシェントドラゴンの討伐は不可能だ」
ギルドを出て、エンシェントドラゴンの討伐に向かいながら。
デュークが空気を読まない発言をしてくる。
「じゃあ、俺たちは今、自殺しにいってるってこと? 残酷すぎない?」
「貴様と一緒であれば、オレは死んでも構わないと思っている」
なにそれ。
ちょっと気持ち悪い。
「申し訳ないけど、あんまそういうこと言わないでほしいな」
「なぜだ? オレは自分の素直な気持ちを伝えているだけだ」
「なんだろう。そういうところなんだよ、うん」
ミル師匠は俺の言いたいことがわかるのか、余裕のある笑みを浮かべながら頷いていた。
「エンシェントドラゴンに殺されようとも、オレは貴様のことを大切に想っている」
頼むら絶好調のデュークを止めてくれ。
エンシェントドラゴンがいると思われている洞窟へとやってきた。
街からかなり離れたところにあるので、ここで暴れても街への被害は出にくいだろう。
問題はエンシェントドラゴンが空を飛べるのかということだったが――。
「エンシェントドラゴンの翼は、攻撃のためのものなんだ。飛空用じゃないよ」
ミル師匠が教えてくれる。
飛べないからこの洞窟で静かに暮らしているとのこと。
だったら別に討伐しなくてもよくないか、という話にはなるが、たまに街までやってきて甚大な被害を巻き起こすため、その脅威を一刻も早くなくしたい、とのことだ。
「洞窟に入ればドラゴンがいるんだよな。ちなみに、炎とか吐く感じ?」
「吐くね」
「他の攻撃手段は?」
「爪と牙かな」
「大きさは?」
「見ればわかるよ。まあ、ボクも見たことないんだけどね」
ちょっと質問攻めしすぎたかな。
ミル師匠の表情が引きつっている。
噂に聞いた程度の知識しかないわけだから、詳しく知っているとも限らないか。
少し彼に頼りすぎていたことを反省する。
「ミル」
洞窟の入り口に向かって少しずつ歩き出す。
警戒心を最大限まで高めた状態で、デュークが不意に口を開いた。
「どうしてこのクエストに協力した? 貴様、モンスターが――」
――ゴホゴホゴホ――
ミル師匠による、突然の咳払い。
急に風邪でも引いたんだろうか。
「えーっと、大丈夫?」
心配になったので、一応声をかけておく。
「あ、ああ、大丈夫だよ。さあ、早く進もうか」
「貴様、あのことをまだ話してないのか?」
「あのことってなんだろうね。ちょっとよくわからないなぁ」
なんかミル師匠、口笛を吹き始めたぞ。
そんなに余裕なんだろうか。
やっぱり頼りになる男だ。
ちっちゃな体には見合わない、大きな自信と余裕。さすがは作中屈指の人気キャラ。
「あ、出た」
洞窟を50メートルくらい歩くと、巨大なトカゲの進化版である、エンシェントドラゴンが現れた。
これはヤバい。
力の強さと大きさが比例するとは限らないが、明らかに生物としてのパワーが違う。
体育館に入りきらないくらいの、とんでもない大きさだ。
「確かにヤバいね。逃げる?」
「貴様が戦うと言えば、オレは戦う」
「相棒っぽいこと言うね」
実際、ミル師匠と合流するまでは相棒みたいなものだったしな。
「ミル師匠は――って、あれ?」
頼もしき小さな戦士、ミル師匠。
その姿をさがすが、どこにも見当たらない。小さくて見落としている、ってわけでもなさそうだ。
「どこ行った?」
「ヤツはモンスターと戦うことができない。そもそも、モンスターと戦ったことすらない」
「というと?」
デュークは呆れ顔だ。
それはまさに、少し前に俺たちがデュークに対して取っていた表情と同じものである。
「モンスターは怖い、とのことだ。だから戦いが始まれば、真っ先に逃げ出す」




