第87話 一緒に登校したい
朝食を食べ終え片付けを終わらせる。
その後、しばらく時間を置いて登校だ。
制服姿に着替えた蓮は、ふと以前桜季と共に登校したことを思い出す。
あの時は二人で一緒に登校した所をクラスメイト達に見られて、色々と質問攻めになってしまった。
桜季の方も同様だったので、それ以降はエントランスで別れて二人別々で登校している。
しかし、時には一緒に登校しても良いのではないか。
通学の途中で偶然出会って、そのまま二人で登校することだって別に不自然ではない。
であれば、たまには――
そんなことを考えていると、リビングにチャイムが鳴り響く。
桜季の準備が完了し、一緒にエントランスまで行く合図だ。
鞄を持ち玄関を開けると、やはり桜季が立っていた。
「それじゃあ行くか」
「はい」
普段であれば他愛もない話をしながらエントランスへ向かう。
しかし今日は違う。
会話が無く、廊下には二人の足音だけが規則正しく響く。
それはエレベータの中でも一緒だった。
エレベーターの下降する音のみが耳に響く。
(何か話さないと……)
だが、何を話せばいいのか分からない。
昨日までなら自然に出てきた話題が一つも思い浮かばない。
話題を考え口に出そうとする度に自分で却下してしまう。
そうこうしている間にエレベーターは一階へと到着。
二人揃ってエントランスへと足を踏み入れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
制服姿に着替えた桜季は、鏡の前で最後に髪を整える。
いつもより少しだけ念入りに、少しでも意識してもらえるように。
鞄を手に取ると、以前蓮と一緒に登校した日のことを思い出した。
あの日は二人で学校へ向かっただけでクラスメイト達に囲まれ、質問攻めになってしまった。
蓮の方も同じだったらしく、それ以降はアパートのエントランスで別れ、別々に登校するようになっている。
(でも……)
胸の奥に、小さな願いが浮かぶ。
もし今日だけでも一緒に登校出来たら。
学園へと向かう途中で偶然会って、そのまま二人で歩く。
恋人同士ではなく、仲の良い先輩と後輩。
そのくらいなら決して不自然ではないはずだ。
そんなことを考えた瞬間、自分の頬が熱くなる。
(だ、駄目……)
昨日、自分の恋心を自覚したばかりだというのにもうそんなことを考えてしまっている。
もし自分から『一緒に登校しませんか』なんて言ってしまえば、蓮を困らせてしまうかもしれない。
自分が質問攻めに遭うのはまだ構わない。
しかし、それで同じように蓮が迷惑を被ることは絶対に避けるべきだ。
自分の気持ちを一方的に押し付けて、蓮を困らせる様なことだけはしたくない。
(今まで通りで……)
そう自分に言い聞かせながら、小さく深呼吸をする。
部屋の外に出て玄関を施錠し、蓮の部屋のチャイムを押した。
「それじゃあ行くか」
「はい」
天気の話、今日の授業の話。
普段であれば何気なくしている会話がまったく思い浮かばない。
蓮の側からも会話が無く、廊下には二人の足音だけが規則正しく響く。
それはエレベータの中でも一緒だった。
エレベーターの下降する音のみが耳に響く。
(何か話題は……)
だが、何を話せばいいのか分からない。
口を開こうとしても、上手に口が動かない。
そうこうしている間にエレベーターは一階へと到着。
二人揃ってエントランスへと足を踏み入れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
エントランスへと到着すると、蓮は自動ドアの向こう側へと視線を向ける。
普段であればここで桜季とは別れて個別で登校。
だが、まだ別れたくない。
もう少しだけ一緒にいたい。
桜季のことが好きだと自覚した、だからと言って焦って関係を進めるつもりもない。
ただ、少しだけなら――
男女で一緒に登校。
別に恋人同士でなくとも、ただ偶然道で出会った友人同士で学園へと向かう。
それは別に不自然ではないだろう。
「…………」
一緒に行こう、そう口にしようとするが、言葉が出てこない。
妙に喉が渇く。
断られたら、迷惑だったら、そんな不安が頭をよぎる。
それでも、後少しだけ――そう思って蓮は勇気を出す。
「桜季」
「え…………?」
桜季が不思議そうに振り向く。
そんな桜季に、心臓の鼓動が高鳴るのを感じながら蓮は希望を口にする。
「今日は、一緒に行かないか?」
「…………え?」
桜季が驚いたように固まり目を見開く。
当然だろう。
以前に決めた二人のルール。
それに真っ向から反することを提案したのだから。
断られても仕方がない。
そう思って、『なんでもない。やっぱり別々に行こう』と口を開く、その直前――
「はい……」
桜季は胸元で両手を重ねて小さく微笑んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
エントランスへと到着すると、桜季は自動ドアの向こう側へと視線を向ける。
普段であればここで蓮とは別れて個別で登校。
しかし、今日はそれがとても寂しい。
出来る事なら一緒に登校したい。
決して急いで関係を進めようと思っているわけではない。
ただ、蓮のことを好きだと自覚した今、そのくらいの小さな我が儘を言ってみたい。
恋人同士ではなく、通学中に偶然出会った友人のように。
しかし、そう提案する勇気が出てこない。
自分の我が儘で自分が困るのは構わない。
ただ、蓮にまで迷惑をかけるわけにはいかない。
そう思って一歩踏み出そうとした時、後ろから声が掛けられた。
「今日は、一緒に行かないか?」
「…………え?」
振り向くと緊張した様子で蓮が立っていた。
桜季は驚きに固まり目を見開く。
(どうして……?)
何故、今日に限って一緒に行こうと蓮が提案してきたのだろうか。
その理由を考える前に、蓮の表情が焦ったように変わる。
このままではいけない。
たとえどのような理由で蓮が提案したのであろうとも、断るという選択だけはあり得ない。
「はい……」
気が付けば、ゆっくりとそう答えていた。
服の中に隠している、蓮から貰ったマーガレットのペンダントにそっと手を当てながら。




