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義理チョコキングと頑張り屋さん ~心優しい二人が寄り添っていく、幸せに包まれた半同棲生活~  作者: バランスやじろべー
第三章前編 恋の自覚

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第86話 琴乃の気付き

 朝食をテーブルへと並べ終える頃、桜季の部屋から琴乃がやって来た。


「おはようございます、蓮さん!」


「お、おう。おはよう」


「おはよう、琴乃」


 いつも通り元気いっぱいの琴乃とは対照的に、蓮と桜季の返事はどこか硬い。


「いただきます!」


「「いただきます……」」


 三人揃って手を合わせる。

 しかし、この日の食卓の雰囲気はいつもとは違った。

 普段であれば蓮や桜季が今日の予定を話し、琴乃が楽しそうに相づちを打ったり、もしくはその逆だったり。

 そう多くの会話で賑やかな朝なのだが、それとは違い静かだった。


「いやー、もうすぐ夏休みだよねー。中学って小学校と違って夏休みの宿題の量も多いんでしょ? 遊べるかなあ」


「えっと、そうだな。宿題多かったよな……」


「勉強にかかりきりってことはないと思うけど……」


 琴乃の言葉に蓮と桜季が相槌を打つ。

 しかし、どこか間の抜けた声色だった。


(……夏休み、このままでいいのか?)


 琴乃の話を聞きながら、蓮はそんなことを考えてしまう。

 桜季のことを好きだと自覚した。

 であれば、この夏に関係を進めるように努力するべきなのだろうか。

 しかし、それはあくまでも相手があってのこと。

 桜季の気持ちが分からない以上、下手に自分だけ盛り上がっては失礼だ。


(そりゃあ、桜季と一緒にちょっと遠くに出掛けたりとか……)


 そう、夏休みは普段の休日とは比べ物にならないくらいたくさんのことが出来る。

 泊まりに行くのは無理だとしても、二人で普段行かないような場所に向かったり。

 他にも何らかのイベントに参加したり。


(それで、恋人になれたら嬉しいけど……でも……)


 だが、自分の気持ちだけではどうしようもない。

 そんなことを考えながら、蓮はいつもよりもゆっくりとしたペースで朝食を食べていく。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 桜季も琴乃の言葉を聞きながら、動揺を隠すようにコーヒーを飲む。


(……な、夏休み。わたし、どうしよう……)


 蓮のことが好きだと自覚した。

 今の先輩後輩、友人である関係も楽しいのだが、今はもうそれだけでは寂しさがある。

 今よりももっと深い関係へ。


(一緒に蓮さんのお部屋でゆっくりと映画とか観たり、どこかに遊びに行ったり……)


 普段はやらないこと、出来ないことを一緒に楽しみたい。

 夏休みという特別な期間であれば、様々なことが出来るだろう。


(そして、蓮さんの彼女になりたい。だけど、それは……)


 しかし、それはあくまでも相手があってのこと。

 蓮が自分のことをどう思っているか分からない、であれば下手に関係を進めようとして、今の関係が壊れてしまうかもしれない。

 自分の気持ちを押し付けるようなことになってはいけない。

 そんなことを考えながら、桜季はゆっくりとサンドイッチへと手を伸ばした。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「それでね……ってちょっと二人共!」


「ん……?」


「え……?」


 いつも通りに二人と雑談のネタを話していた琴乃だが、どうやら二人の様子が普段とは違う。

 普段であれば桜季や蓮は自分の話にもっと耳を傾けたり、二人の方から話題を振ってくることも多い。

 しかし、今日に限っては琴乃の話を話半分に聞いているようで、返事もどこか間の抜けたものになっている。


「ど、どうかしたのか?」


「琴乃?」


「どうかしたのか、じゃないって! どうかしてるのはそっち!」


 食べる手を止め、びしっと目の前の二人を交互に指差す。

 すると二人はお互いに顔を見合わせ、そしてどこか戸惑ったように呟く。


「ど、どうかしてるって……なあ……」


「は、はい……。別に、そんな……」


「いや、だから絶対におかしいって!」


 蓮も桜季も明らかに挙動がおかしい。

 二人共お互いの顔を見て固まったり、あからさまに視線を逸らしたり。

 つい先日まではこんな感じではなかったのだが、今朝の二人はこれまでとは明らかに違う。


「昨日、大会で何かあったの?」


 少なくとも蓮を最後に見た昨日の朝は、二人共こんな感じではなかった。

 ちなみに昨日の夕食に関しては、大会が長引くことを考えてそちらで済ませてくれと言われたので、蓮とは会っていない。

 そう言えば、寝る前の桜季の様子もいつもと違ったように思えてくる。

 そう思って質問すると、蓮と桜季は同じように戸惑いながら返事をする。


「いや、別に何もなかったぞ」


「うん。連絡した通り、蓮さんが優勝して……」


 そう、蓮が優勝したことについては、桜季からメッセージで琴乃も知っている。

 それを見てすぐに蓮に祝福のメッセージを送ったところ、ありがとうと返信も来た。

 しかしそれだけでは何があったのか分からない。


「……………………」


「……………………」


「……………………」


 二人の様子を見比べながら、琴乃は小さく首を傾げる。


(……何だろう)


 大会で何かあったわけではない。

 それにトラブルというわけでもなさそうだ。

 二人共、目が合うたびに慌てて逸らしている。

 話しかけようとしては言葉に詰まる。

 これまで自然だったやり取りにぎこちなさが混じっている。


(……あれ?)


 その様子を見ているうちに、琴乃の中で一つの考えが浮かんでくる。


(もしかして、お姉ちゃん……)


 桜季が蓮に恋愛感情を抱いていることは知っている。

 それが、本人も気付いていないことも含めて。

 だが、今日の桜季の様子は――


(……もしかして、ついに気付いたの!?)


 そう考えると今日の様子にも説明がつく。

 好きだと自覚して、急に意識してしまっている。

 これまで普通に出来ていたことが、出来なくなってしまっている。

 それに――


(これ、まさかお兄さんも……?)


 蓮が桜季に対して良い感情を抱いているのは間違いない。

 だが、それは決して好きな異性へと向ける物ではなく、あくまでも仲の良い友人としての物、だったはず。

 少なくとも昨日までは間違いなくそうだった。

 だが――

 蓮もまた、桜季と目が合うたびに慌てている。

 慌てて目を逸らし、そしてまたチラチラと桜季の方を見ている。


(…………マジ?)


 改めて二人の様子を見比べる。

 蓮は落ち着かない様子でサンドイッチを口へと運び、桜季もどこか上の空でコーヒーを飲んでいる。

 そして時折目が合い、慌てて離す、これを何度か繰り返す。


(そっかそっか)


 おそらく自分の考えは当たっているだろう。

 大切な姉と、大切な兄のような存在。

 この二人が、お互いに好意を抱いている。

 だが、自然に次のステップへと進むにはまだ時間がかかるだろう。


(だったら、あたしも頑張らないとね!)


 ぎこちない二人を見ながら琴乃はそっと決意した。

 自分にとって、とても大切な二人の幸せを願って。

私用により、次回投稿は月曜日となります

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