第82話 エピローグ①
第二章のエピローグは二話構成です
七月上旬――
全国高校スイーツクリエイトグランプリの地区大会。
蓮と凜が出場した修峰学園家庭科部は昨年に続き見事に優勝の栄光を手にし、全国大会への切符を手に入れた。
大会が終わり、久美子と別れた蓮と凜、そして見学に来ていた桜季と美鈴は四人揃って近くのファミレスで遅めの昼食。
テーブルの上に注文した料理が並んだところで、四人揃ってコップを掲げる。
「えー、それじゃあせんぱい達の優勝を祝しまして、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
美鈴の言葉に(周囲の迷惑にならない様配慮しながら)四人でコップを掲げてこつんと当てる。
アイスティーを一口飲むと、その苦さと冷たさが火照った心と体に染み渡る。
「いやあー、今年も優勝しちゃったね! さすが!」
「まあな」
「去年もそうだったしな」
「とはいえ二人共ありがと。色々と助かったよ」
「ああ。蓮の言う通り、二人が居なかったら無理だった」
美鈴の言葉に蓮は凜と目を合わせて笑い合う。
とはいえ、今年は去年と比べはるかに険しい道のりだった。
それもこれも、今こうして目の前にいる桜季と美鈴の存在があってこそ。
決して自分達だけで、優勝という結果を手に出来たわけではない。
それは充分すぎるほど理解している。
「そんな謙遜しなくてもいいのに。ねえサッキー?」
「はい。お二人が頑張った結果です」
真っ直ぐにこちらを向きながら頷く桜季。
しかし蓮も凜も首を横に振る。
「いや、ホント二人には助けられたって」
「蓮の言う通りだぞ。美鈴も桜季も結構こっちに比重置いてくれてただろ?」
桜季が蓮の迷いを消してくれたこともそうだが、それからも二人はこちらを手伝ってくれていた。
部活の無い日の放課後、蓮と凜が家庭科室でケーキを作っている時に材料の準備をしてくれたり、味の感想を言ってくれたり。
そして、支えるように応援してくれた。
「そういうの、本当にありがたかったんだよ」
「だから、ありがとう」
「……はい」
「にひひ。そういうことなら」
控え目に頷く桜季と、ニヤッと笑う美鈴。
「っと。料理が冷めちまう。早く食べるか」
「うんっ、そだねっ!」
✿
料理を食べ終え食後のデザートとドリンクバーで一休み。
話題はこれから先の夏休みのことになる。
「もうすぐ夏休みだねー。ねね、家庭科部で合宿とかやんないの?」
「少なくとも去年はなかったな。そもそも家庭科部って合宿とか必要ないし」
「むーっ。みんなでお泊まりとか絶対楽しいと思うんだけどなあ」
残念そうに美鈴が俯く。
と、何か閃いた、と言った感じで目を輝かせた。
「それじゃあさ、今年から新しく始めない!? ほら、全国大会への特訓ってこととかさ!」
名案とばかりに身を乗り出す美鈴。
そんな美鈴に蓮は思わず苦笑してしまう。
「特訓だったら別に泊まり込む必要とかないしなあ」
「それに、参加人数絶対集まらないぞ」
家庭科部の面々を思い浮かべてみる。
大会への特訓という建前であれば、直接関係するのは蓮と凜のみ。
ただでさえ貴重な高校時代の夏休みを他の部員が参加したいと言い出すとは思えない。
いや、中には何人か賛成しそうな気もするが、大半は難色を示すだろう。
「むう……。それじゃあこの四人でどっか旅行に行くとかは!?」
「それこそ無理だな。未成年四人で泊まりがけってのは法律とか条例とか、あとは宿泊施設側のルールで制限される」
未成年の宿泊中に事件や事故が起こった場合や、契約の問題があり、普通に宿泊施設を利用することは無理だろう。
例外として保護者の同意書があれば宿泊は可能だが。
「むう……。残念だなあ」
「でも、日帰りの旅行とかは行けそうですよね?」
残念がる美鈴を励ますように桜季が代案を出す。
すると美鈴は顔をガバッと上げて桜季の手を取った。
「うん! サッキー、それだ!」
「え? わっ……!」
いきなりの行動に驚く桜季。
しかし美鈴は興奮したまま、夏休みの予定について考えを膨らませていく。
「夏と言えばプールとか海とか……」
「バーベキューとかもいいよな!」
「凜さん、それ賛成! あとはあとは――」
そのまま美鈴と凜の二人で盛り上がっていく。
蓮と桜季は時折頷いたりツッコミを入れたりするだけだ。
「あはは、二人共凄いですね。どんどんアイデアが出てきます」
「そうだなあ。まあ全部やるかは別として、色々と楽しめればなって思うよ」
「ふふっ、そうですね」
クスリと笑いながら紅茶を飲む桜季。
「あ、そだ。全国大会っていつくらいなの?」
「八月の終わりの方だな」
「そう。だから遊ぶ時間はあるぞ。さすがにお盆過ぎたらそっちに集中するけど」
地区大会を終えた今、全国大会まではまだ一か月以上。
もちろん試作や調整は続けるが、明日部時間はきっちりととれる。
「あ、あと夏祭り! これ行きたい!」
「花火も見たいですね」
「ああ、そう言えば花火大会もあるな」
蓮も思い出したように頷く。
自分達の住んでいる辺りから少し離れたところで開催される花火大会。
かなり人ではあるが、それゆえに雰囲気は最高だ。
「それいいね! あ、そだ。サッキー、浴衣着ない?」
「え? 浴衣?」
期待を込めて桜季を見る美鈴。
一方桜季は困惑した様子で見返している。
「うん! サッキー、絶対に似合うと思うし! ねえ蓮さん!」
「なんでおれに聞く? まあ、似合うとは思うが」
ただでさえ美少女の桜季が浴衣を着る。
相乗効果で更に目を引くことは間違いないだろう。
「え……? そ、そうでしょうか……?」
桜季は照れたように顔を赤らめる。
「……れ、蓮さんがそう言うなら…………」
恥ずかしそうに俯きながら、小さく呟く。
その様子に美鈴はにやりと笑った。
「決まりだね!」
「いや、まだ本人が着るとは言ってないだろ」
「えー? でも今の反応はもう半分オッケーって感じじゃん!」
「少なくとも嫌ではなさそうだったな」
凜がそう続けると、桜季は更に頬を染めた。
「じゃあアタシも浴衣着こっと!」
「美鈴なら明るい色が似合いそうだな」
凜がそう言うと、美鈴は目を丸くして、そしてぱあっと輝かせる。
「ホント? じゃあ水色とか向日葵柄とかいいかな!」
「なんか一気に夏って感じがしてきましたね」
嬉しそうに声を弾ませる美鈴につられるように、桜季も楽しそうに笑う。
「あとは日程だな。花火大会の日に全員予定が空いてればいいけど」
「大丈夫大丈夫! そこは合わせよう!」
美鈴は早速スマホで花火大会の日程を確認する。
「全国大会の試作もしっかりやって、遊ぶ時は思いっきり遊ぶ」
「ああ。それくらいがちょうどいいな」
地区大会を終えたばかりの解放感もあってか、会話の内容は自然にポジティブな物ばかりとなった。
全国大会という大きな目標はまだ残っている。
それでもその前に訪れる高校生らしい夏休み、それが心から楽しみになってきた。




