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義理チョコキングと頑張り屋さん ~心優しい二人が寄り添っていく、幸せに包まれた半同棲生活~  作者: バランスやじろべー
第二章前編 二人の関係と親友達

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第61話 コーディネート

 少し前――

 朝食を済ませた後、桜季は一人で美鈴との待ち合わせ場所へと向かった。

 駅前から少し離れた一角にあるセレクトショップの前で、どこか落ち着かない様子で立ち止まる。

 ガラス張りの店内には春物の服が整然と並び、柔らかな照明が店全体を優しく照らしている。

 自分とは縁の遠い場所だ、というのが率直な感想だった。


(……どうしてここなんだろう)


 念の為にスマホのメッセージ画面を確認する。

 美鈴から送られてきた集合場所は、間違いなくここだった。

 花見の待ち合わせ、というわけでもない。

 昨日美鈴から『待ち合わせの二時間前に来て』とメッセージが送られて来ただけだ。

 美鈴の意図が分からず戸惑っていると、ふいに店の扉が開く。


「あ、サッキー! こっちこっち!」


 すぐに店の奥から明るい声が飛んできた。

 視線を向ければ、美鈴が大きく手を振っている。

 まだ開店時間でもないのになぜ美鈴が中にいるのか。

 そんなことを考えながら桜季も店内に入ると、奥から美鈴よりも大人びた雰囲気の女性が立っていた。


「いらっしゃい。桜季ちゃん、よね?」


「え、あ……はい」


 突然話しかけられ、慌てて頭を下げる。

 随分と美鈴に似ている。

 もしかしたら姉なのかもしれない。


「この人、アタシのお母さん。ここのお店やってるの」


「えっ……!?」


 思わず見返してしまう。

 とてもそのような年齢には思えない。

 そしてここは、美鈴の母親の店ということらしい。

 驚いている桜季を見て、美鈴の母親は柔らかく笑った。


「そんなに緊張しなくて大丈夫よ」


「は、はい……」


 曖昧に返事をしながらも、桜季の頭の中はまだ混乱していた。

 その直後。


「よし、それじゃ始めよっか!」


 ぱん、と手を叩いた美鈴が、してやったりといった表情で桜季の両肩に手を回す。


「え、えっと……何を?」


「決まってるじゃん。今日の服選び!」


「服……?」


 予想外の言葉に、桜季は目を瞬かせた。

 確かにこれから四人で花見へ行く予定になっている。

 だが、それと服選びが結びつかない。


「わ、わたし、自分の服あるけど……」


 そもそもこの服で花見に行く予定だったのだ。

 しかし美鈴は首を横に振り、楽しげに口元を緩めた。


「いやいや、そういう話じゃなくてさ。サッキーが着てるのって、別に普通の普段着じゃん?」


「そ、そうだけど……」


 そもそも今日の目的は花見だ。

 加えて少し動くことを考えて、動きやすくて汚れても困らない服。

 桜季の中では、そのくらいの認識しかない。

 そんな桜季に対し、美鈴は真面目な顔で続ける。


「今回って、普通のお花見とはちょっと違うじゃん?」


「え……?」


「ほら、人多い公園とかじゃなくて、穴場なんでしょ?」


 凜が提案していた場所を思い出す。

 人混みを避けられる、静かな場所だと言っていた。


「うん。だから別にこれで――」


「だからこそだよ」


 自分が今着ている服で充分、そう言おうとしたのだが、美鈴は店内に並ぶ服へ視線を向けた。


「人が少ない場所ってさ、一緒にいる相手とか、その時の雰囲気とか結構印象に残るんだよね」


「印象……?」


 そう言われ、桜季は少しだけ想像する。

 桜の下で四人で過ごす時間。

 お弁当を食べたり、話したり、少し遊んだり。

 確かに、思い出として残る一日になるのかもしれない。

 少なくとも、これまでの日常の延長戦とは少し違って。


「外だから動きやすさも必要ってのはそうだよ。だけど、動きやすいだけだと雰囲気が合わない」


 美鈴は一本指を立てながら説明を続ける。


「だから、『ちゃんと動けて、ちゃんと可愛い』服が必要なの」


「か、可愛いって……」


 その単語だけで顔が熱くなる。

 だが、美鈴は気にした様子もなく続けた。


「せっかく春なんだしさ。どうせなら、季節感ある服の方が絶対楽しいって」


 そこまで言われると、確かにそんな気もしてくる。

 しかも、美鈴の言葉には妙な説得力があった。

 この店の空気感も含めて、ちゃんと考えているように感じられる。


「だから今日は、アタシがサッキーに合うやつ選ぶ!」


「え、でも……」


「大丈夫大丈夫。変なのにはしないって」


 にっと笑う美鈴。

 その笑顔には押しの強さがある。

 けれど同時に、友達として純粋に楽しんでいる感じもあった。


「それにさ――」


 にやり、と美鈴が少しだけ悪戯っぽく笑う。


「せっかくなら、蓮さんに『おっ』って思わせたいじゃん?」


「えっ!?」


 瞬間、桜季の肩が跳ねる。


「み、美鈴!?」


「あはは。ほら、女の子は男の子に見られて可愛くなるって言うじゃん? せっかくだから蓮さんに褒めてもらえるように頑張ろっ!」


「れ、蓮さんは……!」


 関係ない、そう言おうとしたが、言葉が出てこない。

 美鈴の言う通り、普段とは違う服で蓮の前に現れたら、何と言ってくれるのか――


「ほら、行こ!」


「あっ、ちょ、ちょっと……!」


 そのまま腕を引かれ、美鈴と共に店内を回る。

 並べられていく服を前に、桜季は完全についていけなくなっていた。

 だが――少し、本当に少しだけ。

 どんな格好になるのか気になっている自分もいた。



 ✿



「よーし、それじゃまずはテーマ決めからだね!」


 桜季が姿見の前に立つと、美鈴は腕を組みながら真剣な顔で唸り始めた。


「テーマ……?」


「そ。服ってね、最初に方向性決めるの大事なの」


 言いながら、美鈴は店内のラックを次々と見て回っていく。

 美鈴の母親も楽しそうに美鈴と意見を交わしている。

 その後ろを桜季は少しおどおどしながらついて回る。


「今回はお花見だし、五月だし、外歩くし、多少遊ぶんでしょ?」


「う、うん。軽く体動かすかもってことだよね」


「なら、まず動きにくい服は却下ね」


 びしっと断言される。


「ロングスカート系も可愛いけど、今回は違うかなあ」


 美鈴はそう言いながら、ラックから何着か服を引き抜いた。

 白のカットソー。

 薄手の淡いブルーのカーディガン。

 そして、春らしい明るめの色合いのクロップドパンツ。


「今回はこっち系!」


「え……?」


 普段の自分ではあまり選ばない服装に、桜季は目を瞬かせてしまう。


「え、だ、だめかな?」


 美鈴が少しだけ不安そうに聞き返してくる。


「い、いや……だめっていうか、その……」


 視線が自然とクロップドパンツへ向く。

 スカートほど可愛らしすぎず、それでいて普通の長ズボンより軽やかだ。

 足首が見える分、春っぽさもある。


「ほら、これなら動きやすいしさ」


 美鈴は桜季の隣へ並ぶと、服を身体へ軽く合わせてみせた。


「あの二人、運動好きっぽいし、ちゃんと動ける方がいいって」


「それに、桜季ちゃんって清楚系だから、こういう少しカジュアル寄りなのにしてもいいと思うわよ?」


 美鈴の母も自然に会話へ加わってくる。


「ギャップ出るのよねえ。真面目そうな子がこういう春っぽい格好すると」


「ギャップ……」


 鏡越しに自分の姿を見ながら、桜季は小さく呟く。

 まだ服を当てているだけ。

 それなのに、いつもの自分とは少し違って見えた。


「うん、絶対似合う」


「ええ。本当に雰囲気変わりそう」


 二人揃って頷く。

 そこまで断言されると、段々そんな気もしてくるから不思議だった。


「……蓮さん、なんて言うかな」


 ぽつりと零れた呟きに、自分でハッとしてしまう。

 しかし目の前の二人はそれを聞き逃してくれなかった。


「おっ」


「おおー?」


「ち、違っ……!」


 即座に反応してきた二人に、桜季は顔を真っ赤にして視線を逸らした。


「あははっ。いやでも絶対びっくりするって。蓮さん、サッキーのこういう格好まだ見たことなさそうだし。ほらほら、次これ試着!」


「えっ、あっ……!」


 ぽんぽんと服を渡され、気付けば桜季の腕の中は春物の服でいっぱいになっていた。


「だ、大丈夫かな……」


「大丈夫大丈夫」


 美鈴はにっと笑う。


「サッキー、素材めちゃくちゃ良いから!」


「そ、素材って……」


「うん。だから今日はアタシ達に任せといて! ちゃんと蓮さんに褒められる感じに仕上げるからさ!」


「だ、だからそう言うんじゃ……!」


 多少強引に背中を押され、桜季は半ば流されるように試着室へと入っていくのだった。


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