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義理チョコキングと頑張り屋さん ~隣の姉妹にご飯を食べさせたら、半同棲生活が始まった~  作者: バランスやじろべー
第二章前編 二人の関係と親友達

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第57話 訪れた親友達④

 蓮がふと時計を見上げると、時刻はそろそろ正午になろうとしていた。

 一度気にするとお腹が空いてくる。


「そろそろ昼飯の時間だな」


「ああ。おれと凜は元々ここで食べる予定だったけど、二人はどうする?」


 そもそも元々の予定では桜季と美鈴は別行動の予定だった。

 その為一応確認する。


「アタシ達は外でどっか適当に食べる予定だったから」


「はい。元々買い物に行く予定でしたし」


 二人の返答を聞き、蓮はゆっくりと頷いて立ち上がる。


「オッケー。それじゃあ二人も一緒に食べるか? 凜もいいよな?」


「そりゃな。そのつもりで言ったし」


「え、いいの?」


「でも、さすがに申し訳ないというか……」


 目を輝かせる美鈴と、申し訳なさげに呟く桜季。

 しかし蓮も、そして凜も笑って頷く。


「かまわないって」


「ああ。皆で食べた方が美味いしな」


「やったーっ! ありがと、せんぱい!」


「えっと……ありがとうございます……。あ、わたしも手伝いますね」


 そう言って桜季が立ち上がって蓮に続く。


「あ、アタシも手伝う?」


「いや、凜と座っててくれ」


 立ち上がりかけた美鈴に蓮は首を横に振る。

 蓮の部屋のキッチンは三人で一緒に料理をするほど広くはない。

 それに家庭科部での様子を見るに、美鈴も料理初心者だ。

 であれば蓮と桜季で作った方が早い。


「あ、うん。ありがと、せんぱい」


 そう言って素直に腰を下ろす美鈴。

 こういったところで変に意地にならず、素直なのは美鈴の長所だろう。


「あ、そだ。ちゃんとお金は払うから」


「別に気にしないでいいぞ」


「ダメだって! 親しき中にも礼儀あり。そういうところはきちんとしないと!」


 キッチンに入り冷蔵庫を開けると、リビングから美鈴と凜の声が聞こえてきた。

 そういったところ、美鈴もかなり真面目なのは蓮としても好印象だ。


「さて、と」


 凜の持って来た食材と、元々蓮の部屋の冷蔵庫の中身。

 それを見ながらメニューを考える。


「蓮さん、何を作るんですか?」


 横から桜季が覗き込みながら聞いてくる。

 興味深そうな視線で近距離で見上げてくる桜季に、先程のこともありドキリとしてしまう。


「んっと……、そうだな。オムライスとハンバーグ。それにサラダってとこだな」


 動揺を外に出さないように注意しながら、食材を取り出し桜季に渡しながら答える。


「オムライス、ですか!?」


 瞬間、桜季が嬉しそうに目を輝かせた。

 誕生日の時にも振る舞ったオムライス。

 その魅力は桜季にとっては特別の様だ。


「ああ。ビーフシチューは作れないけどな」


「いえ、蓮さんのオムライス、楽しみです」


 本当に楽しみというように、桜季が柔らかく笑う。

 ここまで期待されすぎると、それはそれで困ってしまうのだが。


「よし、それじゃあ作っていくか」


「はいっ!」


 桜季はニコニコとご機嫌な感じでエプロンを手に取り着用する。

 すると、リビングから美鈴の声が飛んできた。


「あっ、サッキー、そのエプロン可愛い!」


「え?」


 リビングに座っている美鈴の目は桜季のエプロンに釘付けだ。


「どこで買ったの?」


「えっと、この前蓮さんと一緒にショッピングモールで……」


「あれ、っていうかそれ『Saki』って名前入ってるじゃん!」


「う、うん。蓮さんが刺繍してくれて……」


「えっ、せんぱいが!? すっげーっ!」


「さすが蓮だな」


 驚きと尊敬が混じった視線が蓮の方へと飛んで来る。

 あまりに素直なリアクションに、蓮も若干照れくさくなってしまう。


「とはいえ文字の方は桜季が作ったからな」


「えっ、そうなの? サッキーも凄いじゃん!」


「え? いや、でも文字だけだから……」


「それでも凄いって! っていうかその……『Recchan』って何?」


「えっと、これ、このウサギの名前。ソファーに座ってる、誕生日に先輩から貰った手作りのぬいぐるみ――」


「は!? え、これ手作り!?」


 ソファーに目を向けた美鈴の声が一段階大きくなった。

 席を立ちソファーへと向かい、れっちゃんを手に取って隅々まで見回す。


「すっげー! 何それ! 女子力高くない!?」


「お前それ褒めてんのか?」


「褒めてる褒めてる! いやでも普通やらないって!」


 興奮した様子でまくし立てる美鈴。

 その横で、凜も感心したように呟いた。


「あいつ、昔からこういうのは上手なんだよ」


「え、マジで?」


「ああ。手先は器用だしな」


「へえー……」


 じっと蓮を見る美鈴。

 調味料を用意しながら美鈴の視線を感じ、なんとなく居心地の悪さを覚える。


「っていうかさ」


 にやり、と口元を吊り上げる美鈴。


「それ、誕生日プレゼントでしょ?」


「ああ。つっても流れであげたやつだけどな。元々桜季の誕生日だってのは知らなかったし、知ってても多分誕プレは用意しなかった」


 そもそもあの時点での蓮と桜季の関係は、少し仲の良い先輩後輩だ。

 誕生日を知っていたからと言ってわざわざプレゼントを渡すような関係でもないし、用意したところで桜季は受け取らなかっただろう。

 下手をしたら関係が崩れていた可能性もある。


「おれとしても部活の練習で作っただけで……ってなんだ、その顔は?」


 リビングから向けられる二組の視線の種類が変わったように感じる。

 なにやらニヤニヤと、先程と同じ類のものだ。


「んーん、別にー」


「ああ。別に何も」


 別にも何も、間違いなく含むところがあるだろう。

 目は口程に物を言う、という言葉をこの二人にプレゼントしたい。


「……だったらまあせっかくの誕生日だし桜季もウサギ好きだし」


 少しばかり言い訳っぽく付け足してしまう。

 蓮としては本当の事しか言っていないのだが、少しばかり肩身が狭い。


「それでそれで、れっちゃんって名前はどうして?」


「え、えっと……その、蓮さんに貰ったから……」


 ジャガイモの皮を剥いていた桜季が恥ずかしそうに答える。


「っと、桜季。ちょっと危ない」


「え? あ、すみません。ありがとうございます」


 慌ててピーラーを持つ桜季の手を押さえる。

 いくら防刃手袋をしているとはいえ、手元を見ないのは危険だ。


「あ……」


 蓮が掴んだ手首に桜季の目が向く。


「あ、ごめ……」


「い、いえ……」


 慌てて手を離すと桜季は少しだけ視線を泳がせながらも、再び手元へと目を落とした。

 だがその頬は、ほんのりと赤いままだ。


「にひひ」


「ククッ」


 リビングから、わざとらしいくらいの声が飛んでくる。

 うるさい、と言ってやりたいのはやまやまだが、倍返しが来そうなので軽く睨む程度に留めておく。


「いやいや、でもさあ」


 れっちゃんを抱えたまま美鈴が続ける。


「誕生日にもらった手作りぬいぐるみに、せんぱいの名前付けたんだね」


「え、う、うん、そ、そうだけど……」


 俯きながら頷く桜季。

 一応、ピーラーは台の上に置かれている。


「せんぱい、サッキーにすっごく愛されてるね!」


「え? い、いや、それは……」


「なにを言って……!」


「せんぱいの作ったぬ・い・ぐ・る・み!」


 してやったり、と言った表情で笑う美鈴。

 隣では凜が背中を丸めて笑っているのを隠している。


「「――ッ!!」」


 わざと誤解させるような言い方をした美鈴に見事に引っ掛かってしまった。

 桜季の方は恥ずかしさからかしゃがんでしまい、リビングに顔を出さないようにしている。


「お前な……」


 恥ずかしさを隠しながら蓮がツッコむ。


「えー? 間違ってないじゃん」


「明らかに別の意図があっただろうが」


「えー?」


 美鈴はまったく悪びれた様子もなくあからさまにとぼけ、れっちゃんを抱えたまま笑っている。

 とはいえツッコミを入れれば即座にカウンターが飛んで来るだろう。


「……桜季、大丈夫か」


 キッチンの足元でしゃがみ込んでいる桜季に声をかける。


「だ、大丈夫です……」


 小さく返ってきた声は、明らかに大丈夫ではなかった。

 しばらくして、ゆっくりと立ち上がる。


「とりあえずリビングは無視して料理に戻るか」


「は、はい……すみません」


 慌ててピーラーを手に取る桜季。

 先程よりも慎重に皮を剥き始めた。


「あはは、ごめんねサッキー」


「もう……!」


 ぷいっと拗ねたように顔を背ける。

 その際に一応手は止めていたが。


「桜季、ジャガイモ終わったら水にさらしといてくれ」


「は、はい」


 まだ少しぎこちない返事。

 それでもちゃんと動こうとしているあたり、らしいと言えばらしい。

 その様子を横目で確認しながら、蓮は自分の作業を進めていく。

 背後ではまだくすくすと笑い声が聞こえるが、今は気にしない。

 さっさと作って、黙らせるに限る。

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