第54話 訪れた親友達
「…………………………………………」
「…………………………………………」
蓮の部屋のリビング。
テーブルの上には四つのコーヒーカップが並んでいる。
そのうち二つは蓮と桜季の分。
そしてあとの二つは
「ニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤ」
「ニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤニヤ」
二人の前で、これからの話を待ちわびている二人の分だった。
「す、すみません……」
「いや、おれも悪かったし……」
隣に座りながら申し訳なさそうに頭を下げる桜季に、蓮も首を横に振る。
そう、今のこの状況は決して桜季のせいではない。
ただ、色々とタイミングが悪かっただけ。
というか、そもそも朝の会話の時点でもう少し警戒しておくべきだった。
そう反省したところで後の祭り。
この二人はもう説明するまでテコでも動かないだろう。
✿
朝、蓮と桜季、それに琴乃はいつもの通り蓮の部屋で朝食を食べていた。
「美味しい! さすがお兄さん!」
今日のメニューは琴乃のリクエストによりエッグベネディクトとオニオンスープとサラダ。
エッグベネディクトにはベーコンとアボカドがセットで載っている。
「ありがとな。でも桜季と一緒に作ったんだぞ」
「い、いえ……。ですが味付けだってほとんど蓮さんが……」
「いや、桜季もちゃんと手伝ってくれてるって」
ナイフを入れるとポーチドエッグが静かに崩れ、黄金色の黄身がとろりと溢れ出す。
ソースと混ざり合いパンへと染み込んでいくそれを切り分けて口へと運ぶ。
「うん、美味しい。卵、ちゃんと出来てる」
桜季の作ったポーチドエッグは、蓮から見ても上出来だ。
蓮の言葉に、桜季は少し恥ずかしそうに頬を赤くしながらエッグベネディクトを口に運ぶ。
一口食べると、美味しそうに表情が緩んだ。
「ベーコンの塩気とソースが凄く合っていますね。美味しいです」
「まあな」
蓮はそっけなく答えながらも、少しだけ口元が緩む。
こうして美味しいと言ってくれるのは嬉しい。
二口、三口と口に運ぶ桜季に蓮も自然と口元が緩むのを自覚する。
「ねえねえお兄ちゃん、これ凄いよ!」
琴乃は口いっぱいに頬張りながら無邪気に声を上げた。
「なんかこう……とろっとして、ふわっとして、あとパンがじゅわって!」
「ふふっ。琴乃、食感しか言ってないよ」
「だってそうなんだもん!」
桜季の指摘に小さくむくれる琴乃。
そんな二人のやり取りが微笑ましい。
そんな和やかな空気の中で、ふと蓮はコーヒーに口をつけながら思い出したように言った。
「そうそう。今日、凜が来るから」
「峰岸先輩が、ですか?」
「凜……さん? お兄さんの友達?」
スープを飲みながら琴乃が首を傾げる。
「ああ。昨日連絡あってさ。昼くらいに顔出すって」
ゴールデンウィークということで、今日は蓮の部屋で一日遊ぶ予定が入っている。
「夕方まではここで過ごす予定。桜季は?」
「あ、はい。わたしも美鈴が来る予定です」
「そっか。それじゃあ夜はいつも通りだな?」
「はい。お昼は二人で食べる予定ですけど」
ちなみに琴乃は今日は部活ということ。
昼食の弁当は蓮が既に作り終えている。
「それじゃあ今日はお互いに友人と過ごすってことで」
「はい」
✿
ピンポーン
蓮の部屋のリビングにインターホンの音が響き渡る。
確認すると蓮がエントランスに到着したところだった。
『よう蓮! 来たぞ!』
いつもより蓮の声が弾んでいる。
おそらくはゴールデンウィークということでテンションが上がっているのだろう。
「オッケー、今開ける」
解錠操作をしてエントランスを開け、受話器を元に戻す。
ピンポーン
数分後、今度は玄関のインターホンの音がリビングに響いた。
「もしもし。凜か?」
『ああ』
「すぐ開ける」
玄関へと向かい鍵を開ける。
ドアが開くとそこには凜が立っていた。
「おはよ」
「おう、おはよ。ってことで蓮、ちょっとこっち来てくれ」
「ん?」
玄関の外を指差しながらニヤニヤと笑いながら手招きする凜。
通路に何かあるのだろうか。
よく分からないままサンダルを履き、凜に言われるまま玄関を出る。
すると凜が無言で横を指差したので、そちらの方を向く。
「…………え?」
「やっほー、せんぱい! おっはーっ!」
「…………白川?」
凜と同じくニヤリとした表情を浮かべた美鈴がそこにいた。
加えて
「ちょっと美鈴…………え?」
「あ…………」
一瞬遅れて美鈴に手を引かれ、玄関から出て来た桜季と目が合う。
つまりこれは――
「さて。それじゃあ蓮。教えてくれるよな?」
「ねえサッキー。説明してくれるよね?」
楽しそうにニヤニヤと笑う二人に、蓮と桜季はどう説明するべきか頭を抱える。
「……あの、それは……」
桜季も何か言おうとするが、上手く言葉が出てこない様だ。
焦りながら、助けを求めるような視線を向けてくる。
「はいはいストップ~」
ぱん、と美鈴が手を叩いた。
「とりあえずさ、ここで立ち話する内容じゃなくない?」
「それはそうだな」
凜もあっさり同意する。
そして蓮の方へと向き直った。
「中、いいよな?」
「……どうぞ」
もはや拒否権はないと判断し、蓮はため息混じりに中へと案内した。




