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義理チョコキングと頑張り屋さん ~隣の姉妹にご飯を食べさせたら、半同棲生活が始まった~  作者: バランスやじろべー
第二章前編 二人の関係と親友達

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第49話 少しだけ意識する朝

「蓮さん。おはようございます」


「ああ、おはよう」


 インターホンが鳴り玄関を開けると、当然ながらそこには桜季が居た。

 目的はもちろん朝食を一緒に作る為。

 しかしその心境は昨日までとは少し違う。

 二人の関係が変わったわけでもない。

 ただ、お互いの保護者にこうして一緒に料理を作る許可を貰っただけ。

 ふと桜季の顔から視線落とせば、胸元で揺れるネックレスが目に入る。

 マーガレットの花のネックレス。

 妹想いの桜季にピッタリのイメージ。

 そして同時に、自分の胸元にも同じように蓮の花が揺れている。


(……ちょっと、意識しちゃうよな)


 その考えを振り払い、料理の方に集中する。

 なにしろ桜季はまだ初心者だ。

 失敗や怪我をさせるわけにはいかない。


「今日は何を作りますか?」


「ああ、今日はピザトーストを作ろう」


「はいっ」


「まずは――」


 蓮の指示通りに桜季が手を動かしていく。

 ピーマンやベーコンを切って、パンに載せて。

 楽しそうに料理をする桜季の横で、蓮は少しばかりの胸の高鳴りを感じながら、野菜スープ作りに取り掛かった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(わ、わたし、おかしなことしてないよね……?)


 朝の挨拶はちゃんと出来ただろうか、そんなことを考えてしまう。

 一昨日、自分の瞳と折り合いをつけることが出来た。

 蓮が綺麗だと言ってくれて嬉しかった。

 母や妹と血が繋がっていないことに関しても。

 そして昨日は――


(蓮さん……)


 ふと胸元に揺れるネックレスの感触を感じる。

 自分の瞳の様だと言ってくれたマーガレット。

 そして――


『桜季のその瞳は綺麗だって、そう思ってる人が最低一人はいることを』


 その時のセリフを思い出すと顔が熱くなる。


(綺麗だって……。ってそ、そうじゃない! 瞳、あくまでもわたしの瞳のことだから!)


 勘違いしないように心の中で釘を刺す。

 しかし、それを少し寂しくも感じてしまう。

 チクリ、と胸を小さく刺すような感覚。


(って駄目だって! 今は料理に集中しないと! 蓮さんが真剣に教えてくれてるんだから!)


 そう、あくまでも今は料理の時間。

 本来、一人で料理を作れる蓮が、自身の時間を割いてまでこうして料理を教えてくれている。

 であれば、桜季としても中途半端は許されない。

 自分でもよく分からない感情を頭の奥に押しやって、蓮の指示通りに朝食を作っていく。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「蓮さん、出来ました」


 指示通りに桜季がピザトーストのトッピングを終えたので、蓮はそれを確認する。


「うん、オッケー」


 チーズもソースも問題なし。

 まだ料理の経験が少ない桜季だが、ピーマンや玉ねぎを切る時の包丁さばきは蓮から見ても当初よりも上達している。

 これなら上達も早いかもしれない。


「よし。それじゃあ後はオーブンで焼けるのを待つ。その間にコーヒーとかの準備をしちゃおう」


「はい、分かりました。お湯沸かしますね」


「ああ。スープももうすぐ出来るから」


 ピンポーン


 そんなことを話していると、リビングにチャイムの音が鳴り響いた。

 おそらく相手は琴乃だろう。

 念の為インターホンを確認すると、受話器の向こうから琴乃の元気な声が聞こえて来た。


「玄関開いてるから入って来て」


「うんっ!」


 すぐに玄関が開く音がして、数秒後に琴乃が姿を現す。


「お兄さん、おっはよーっ!」


「ああ、おはよう」


 元気に挨拶する琴乃に蓮も挨拶を返す。


「朝食、もうすぐ出来るからな」


「はーい!」


 琴乃はニコニコとしながら席に着いた。

 なにやら胸元のネックレスに視線を感じる。


「蓮さん。焼けたみたいです」


 キッチンからの声にそちらを振り向くと、桜季がオーブンの前で今か今かと扉を開けるのを待っていた。


「ああ。それじゃあお皿に移すか」


「はいっ」


 オーブンの扉を開けると、美味しそうな香りが鼻へと届く。

 少し焦げたトマトベースのピザソースとチーズの香り。

 嫌でも食欲が湧いてくる。


「わあっ、美味しそーっ!」


 運ばれてきたピザトーストに、琴乃が目を輝かせる。

 他にもサラダとスープをテーブルに並べて朝食の完成だ。


「それじゃあ、いただきます」


「いただきます」


「いただきまーす!」


 三人の声が重なり、朝の食卓が始まる。

 まずはサラダを一口。

 自家製ドレッシングと相まって美味しい。

 そして次はメインのピザトースト。

 一口齧るとカリッと焼けたパンと、とろけたチーズの風味が口の中に広がった。


「……うん、美味いな」


「だねっ! これすっごく美味しい!」


 目の前では琴乃がピザトーストを幸せそうに頬張っている。

 それを見て桜季も嬉しそうにピザトーストを小さく齧った。


「お姉、凄いじゃん!」


「いや、わたしは具材を切って載せただけだから……」


 少し申し訳なさそうに答える桜季。

 それをフォローするように蓮は口を開く。


「まあ、これからだな。少なくとも包丁はだいぶ上手に使えるようになってきてると思うぞ」


「そ、そうでしょうか……?」


「ああ。一つ一つ覚えていけばいいさ」


「はい。ありがとうございます」


 そう言って桜季は軽く微笑んで、コーヒーを飲む。

 なんだか気恥しくなり、蓮はサラダを取ろうとサラダボウルに添えられているトングに手を伸ばした。


 ピトリ


「あっ……」


「えっ……?」


 同じタイミングで伸ばされた桜季の手と軽く触れ合ってしまう。

 思わず二人揃って手を引いてしまう。

 そのまま二人の視線が交差する。


「……………………」


「……………………」


 言葉が出てこない。

 しかし、心臓の鼓動はどんどんリズムを高めている。


「…………あっと、悪い」


「い、いえ……。その、すみません」


「……………………」


「……………………」


 再び会話が止まってしまう。

 たった今触れた手の感触が頭から離れない。


「ねえ、二人共何やってるの?」


 すると桜季の隣から呆れたような声が飛んできた。


「「ッ!?」」


 慌てて桜季から視線を外しそちらを向くと、やはりというか琴乃から呆れたような視線を向けられていた。

 気恥ずかしくなって再びトングへと、今度は桜季が手を伸ばしていないことを確認して、蓮は手を伸ばす。


(……なんだろうな)


 落ち着かない。

 理由は分からないが、先程から妙に意識してしまう。


「あっ、今日雨が降るみたいですよ!」


 向かいに座る桜季が、どこかぎこちないような声で話題を変える。

 おそらくは桜季の方も、この空気に耐えられなかったのだろう。


「そうだな。傘を忘れないようにしないとな」


「はい。琴乃もだよ」


「分かってるって。折り畳みバッグに入れて持ち歩いてるし」


「おれも折り畳みは持ち歩いてるな」


「わたしもです。それなら三人とも安心ですね」


 どうやら話題は美味く反れたらしい。

 先程の良く分からない空気は見事に切り替わった。

 そのまま天気の話題やニュースを見ながら、朝食の時間は過ぎて行った。



 ✿



「蓮さん。そろそろ出発しましょうか」


「そうだな」


 食後の片付けを終え朝のニュースを見ていると、普段の登校の時刻が迫ってくる。

 桜季は一度自室へと戻り、制服に着替えて玄関を出た。


「それじゃあ蓮さん」


「ああ。行くか」


 先日一緒に登校した際に、それぞれ友人に『付き合っているのか?』と疑念を持たれた為に、朝の登校はそれぞれ別々に行くことにしている。

 自分達の部屋を出てエレベーターで一階に降り、エントランスまでの短い距離。

 それが、二人で一緒に登校できる短い短い時間だ。


「今日はお買物、どうしましょうか?」


「そうだな。冷蔵庫の中も減ってきたし、放課後買いに行くか」


「分かりました。それではスーパーで待ち合せですね」


「ああ。食べたいものがあったらそれまでに考えてくれよ」


「はいっ」


 そんな会話をしながらエントランスを過ぎ道へと出る。


「それじゃあ、またな」


「はい。それでは」


 そう言葉を交わして一緒に登校できないことを少し残念に思いながらも修峰学園への道を歩き出した。

 後ろを歩く桜季、その距離を、少しだけ遠くに感じながら。

 ここから第二章です、よろしくお願いいたします。

 前話でも述べましたが、ここからは月・水・金曜日更新を基本としていく予定です。

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