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義理チョコキングと頑張り屋さん ~心優しい二人が寄り添っていく、幸せに包まれた半同棲生活~  作者: バランスやじろべー
第一章後編 共に過ごす日々

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第48話 エピローグ③

 夕方。

 蓮の部屋のキッチンで、桜季は蓮と並んで夕食の準備。

 いつもと同じ光景のはずなのに、なぜかどこか落ち着かない。

 物理的な距離は変わっていない。

 それでも、隣にいる蓮の存在をやけに強く意識してしまう。

 ふと、胸元のネックレスを意識してしまう。


「よし。それじゃあ落し蓋をするか」


「は、はい。分かりました」


 少しだけ声が上ずってしまう。

 気付かれていないかと、ちらりと蓮の方を見ると――


(……あ)


 蓮の胸元で、蓮の花のネックレスが揺れた。


「桜季?」


「あ、いえ……」


 視線が合いそうになって、慌てて逸らす。

 その時――

 ピンポーン

 玄関のチャイムが蓮の部屋の中に鳴り響く。

 蓮がインターホンの方へと向かった後、キッチンに残った桜季は大きく胸を撫でた。


「おじゃましまーす!」


 しばらくすると、玄関の方から琴乃の声。

 料理の方も一段落したので、桜季もリビングへと足を向ける。


「あ、琴乃」


「お姉」


 丁度ひょい、琴乃が顔を出した。

 そして桜季と蓮を交互に見てニヤリと笑う。

 その視線は二人の胸元を行ったり来たり。


「へぇ〜」


「どうかしたのか?」


 不思議そうな顔で問いかける蓮。

 そんな蓮に、琴乃は桜季に向けるニヤッとした視線とは違い、普通の顔で問いかける。


「ねね、お兄さん。あの後、お姉とどっか行ったりした?」


「いや、帰り道でフリーマーケットやってたから、ちょっと覗いてただけ。その後で買い物して帰って来た」


 なんてことないように答える蓮。

 しかし琴乃は蓮の返答に気を良くしたのか、ニヤリとした視線を桜季へと向ける。


「へぇ〜、フリマねぇ」


 琴乃は興味深そうに頷きながら、じっと二人を見比べる。

 そして――


「ってことはさ、それ、フリマで買ったの?」


 自分の胸元を指差しながら問いかけてくる。


「ああ。フリマの中のハンドメイドコーナーでな」


「ってお姉それ、お兄さんが言ってたマーガレットじゃん!」


 桜季の胸元を指差しながら、嬉しそうにうんうんと頷く琴乃。


「お兄さんのは……えっと…………」


「蓮の花だ。つまり、おれの名前の蓮と同じ。桜季が選んでくれたんだ」


 少し照れながら蓮が答える。

 すると琴乃は更に目を輝かせた。

 わくわくと言った感じでこちらへと詰め寄って来る。


「へえーっ、そうなんだ! お姉が!」


「う、うん……。蓮さんがわたしのこれを選んでくれたから……」


「えっ!? ってことはお姉のそれ、お兄さんが選んだの!?」


「ああ、そうだぞ」


「へえ~っ、そっかそっか!」


 なにやら腕組みをして、うんうんと頷く琴乃。


「お互いに相手が選んでくれたのを買ったってことだね!」


「いや、ちょっと違うな」


「え?」


 蓮にあっさりと否定されて琴乃がきょとんとする。

 どういうことかという視線で桜季と蓮を交互に見る。

 そんな琴乃に、蓮がゆっくりと説明する。


「自分のを買ったんじゃなくて、お互いに贈り合ったんだ」


「うん。このネックレス、蓮さんから贈ってもらったんだ。それで、わたしも蓮さんに――」


「えっ、マジ!?」


 言い終わるより先に琴乃の声がリビングへと響いた。

 そんな琴乃に、蓮が少し静かにしてくれと人差し指を立ててジェスチャー。

 一応このアパートは防音もしっかりしているが、とはいえ大声を出せば周りへと聞こえてしまう。

 それを分かっているのか、琴乃は申し訳なさそうにコクコクと頷く。


「ってことはさ、お揃いで買ったとかじゃなくて、プレゼントし合ったってこと!?」


「う、うん…………」


「まあ、そうだな……」


「そっかそっか。なるほどなるほど……」


 そう言いながら、二人の胸元のネックレスを食い入るように見てくる。

 穴が開きそうなほど、とはこのようなことを言うのだろうか。

 そして琴乃は一歩下がり、二人に向かって微笑んだ。


「うん! 二人共似合ってるよ」


「ありがとな」


「うん、ありがとう」


 琴乃の言葉に少し照れながら、桜季は胸元に触れる。

 隣では蓮も少し照れたように、ネックレスを触っていた。


「ね、ね! 写真撮っていい!?」


「写真?」


 答える前から琴乃はスマホを取り出した。


「うん! お兄さんとお姉の写真! お揃いのネックレスしてるとこ!」


「え、えっと……」


 ウキウキとする琴乃とは対照的に、桜季はどうしようかと蓮を見る。

 蓮も少し戸惑ったような表情をしていた。


「ど、どうしましょう……」


「そ、そうだな……」


 断る理由があるわけではない。

 けれど、なんとなく気恥ずかしい。


「一枚だけ! すぐ終わるから!」


 琴乃がぐいっと身を乗り出す。


「……まあ、一枚だけならいいか?」


「そ、そうですね……」


「やった!」


 少し考えた後、二人で折れる。

 琴乃は満面の笑みで、カメラアプリを起動したスマホをこちらの方へと向けて来た。

 そのまま一度画面を確認した後、少し不満げな表情でスマホから視線を外す。


「二人共、もうちょっと近づいて!」


「えっ」


「いや、これくらいで――」


「ダメだって! それじゃあちゃんと写らないからさ!」


 琴乃が蓮と桜季の腕を持ち、半ば強引に二人の距離を縮めてくる。

 腕が触れ合い、その感触に蓮と共に表情を硬くしてしまう。


(ち、近い……)


 桜季の胸がドクン、と大きく鳴る。


「ほらほら二人共! 表情硬いよー! ほら、もっと笑って!」


 更なる注文に蓮と共に困ったような視線を交わした後、言われた通りに笑おうとする。

 しかし緊張してかどうにも上手く笑えない。

 それは隣の蓮も同様で、いつもとは違いなんだか表情が引きつっていた。


「む、難しいな……」


「そ、そうですね……」


 笑えと言われてもどう笑っていいか分からない。


「別にこのままでもいいと思うけどな」


「はい。無理に笑わなくても……」


「なに言ってんの! お兄さんもお姉も一緒に写真撮るのが嫌ってわけじゃないんでしょ!?」


 スマホを構えたまま不満げな琴乃。


「何か楽しいこととか嬉しいこと考えてみるか?」


「楽しいことや嬉しいこと……」


 そう言って何か考えてみる。

 自分にとってのそれは――


「最近、蓮さんと一緒にいるのが楽しいです。こうして一緒にお料理をして、一緒に食べて。そういった一つ一つがわたしにとっては……」


 正直に口にする。

 むろん、今までの生活が楽しくなかったわけではない。

 しかしここ数日、蓮と共に過ごすことがとても楽しい。

 自分の中で、毎日この時間を心待ちにするくらいには。


「そ、そうか……ありがとな」


「い、いえ……」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



(そっか。桜季はそう思ってくれているのか)


 桜季の言葉に、蓮は胸が暖かくなる。

 自分と一緒に過ごすことを楽しいと感じてくれている。

 そしてそれはこちらも一緒だ。

 これまでは独りで料理を作り、独りで食べていた。

 たまに凜や久美子と食べることもあったが、基本的には自分だけ。

 どんなに上手に料理を作ろうとも、どこか物足りないものを感じていた。

 しかしそれが今は――桜季と琴乃と一緒に過ごすようになって、本当に幸せな食卓へと変化した。

 それに気付いて蓮はふっ、と笑う。


「それならおれだって。こうやって一緒に過ごすのは楽しいよ」




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そう言ってくれた蓮の言葉に、桜季は胸が暖かくなる。

 自分だけではない、こうして共に過ごす時間を蓮もそう感じてくれていた。

 それが分かり、自然と顔に笑みが浮かぶ。


「ありがとうございます。えっと、お揃いですね……」


「ああ、同じだな」


 そう笑顔を向け合ったところで


 パシャ


「「え?」」


 琴乃のスマホからシャッター音が聞こえて来た。


「あはは、二人共、今あたしのこと忘れてなかった?」


 スマホから視線を外した琴乃が、笑いながらそう問いかけてくる。

 思わず蓮の方を見ると、蓮も顔を真っ赤にしていた。


「あはは、いいじゃんいいじゃん! ほら、これ見て!」


 そう言って差し出されたスマホの画面には、二人で笑い合う姿が写っていた。

 カメラ目線でもなくお互いを見て、その他のことは一切気にしないで、まるで二人だけの世界のようで。

 その胸元にはお揃いのネックレスが光っていた。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その日の夜。

 蓮はスマホを充電器にセット。

 そこで、ふと夕食前のことを思い出す。

 スマホを操作すると、琴乃に送られてきた写真が表示される。

 そこに写っているのは自分と桜季。

 互いに笑い合っている一枚。

 ただ自然に笑っているだけの写真。

 だが――


「……なんか、いいな」


 ぽつりと零れた言葉に、自分でも少しだけ驚く。

 改めて写真を見直す。

 胸元にはお揃いのネックレスが光っている、しかしそれだけ。

 特別何をしているわけでもない、ただの日常の一場面。

 だが、むしろ、こういう時間が――


(楽しい、んだよな)


 ふと、机の上のスタンドに目が行く。

 そこには蓮の花のネックレスが掛けられている。

 思い出すのは、少し照れながら笑っていた桜季の顔。

 ほんの少しだけ頬が緩んでしまう。


(まあ……)


 目を閉じる。


(桜季といると、楽しいしんだよな)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その日の夜。

 自分の部屋に戻った桜季は、そっとスマホを手に取った。

 画面を操作すれば、琴乃から送られてきた写真が表示される。

 そこに写っているのは自分と蓮。

 互いに笑い合っている一枚。

 ただ自然に笑っているだけの写真。

 だが――


「……あ」


 思わず小さく声が漏れる。

 カメラ目線ではなく、互いに向き合って笑っている姿。

 自分でも覚えていないくらい、自然な表情だった。


「こんな顔、してたんだ……」


 指先で画面をなぞる。

 胸の奥が、じんわりと温かくなる。

 ふと、胸元に触れる。

 そこには昼間、蓮が選んでくれたネックレス。

 マーガレットの、小さな花。


『そんな時はさ、思い出して欲しいんだ。桜季のその瞳は綺麗だって、そう思ってる人が最低一人はいることを』


 選ぶ時に言ってくれた言葉。

 それを思い出し頬が緩んでしまう。


「蓮さん…………」


 出会ってから一か月も経っていないのに、それでもかけがえのないたくさんの出来事、思い出が脳内によみがえる。

 はじめはただ道を聞いただけ、そのまま家庭科部に招待され入部することになった。

 ナンパに絡まれている所を助けてくれた、妹のお弁当を作るのを手伝ってくれた、火傷をさせても笑って気にしないでいい、と。

 誕生日を祝ってくれて、プレゼントまで。

 そして今は、母が不在の自分に料理を教えてくれている。

 ふと、机の上のスタンドに目が行く。

 そこには蓮から貰ったウサギのぬいぐるみ。

 ネックレスを首から外してウサギに掛ける。


(蓮さん……)


 ドクン

 胸が大きく揺れる。


「え…………?」


 蓮のことを考えると、胸がドキドキとして、顔が熱くなっていく。

 また明日、蓮と一緒に朝食を作る。

 それが何よりも楽しみで。


(うん。そうだよね……。明日になれば、また会えるんだし…………)


 そうベッドに体を預けながら、小さく微笑んだ。

 この気持ちはまだ分からない、でも、明日になればまた幸せが訪れる。

 今の桜季にはそれで充分だった。

 今話で第一章は完結となります。ここまでお読みいただきありがとうございました。

 第二章は来週月曜日から投稿を予定しています。

 また、実生活の方で色々と忙しくなっている為に、投稿頻度を月・水・金曜日にする予定です。ご了承下さい。

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なんてことないように答える蓮。  しかし桜季は蓮の返答に気を良くしたのか、ニヤリとした視線を桜季へと向ける。 ※しかし[桜季]は蓮の ココは琴乃では?
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