第47話 エピローグ②
昼食を終えた後は手芸品のエリアへと足を運び、並べられた作品を見て回る。
シートや台の上には様々な小物や編み物、手作りのアクセサリーが並んでいた。
こういった知識は全くと言っていいほど無い桜季だが、どれも丁寧に作られているのは分かる。
一方で隣の蓮は、やはりというか自分よりも知識があるようで、時々店の人と話したりもしている。
「これ、可愛いですね」
桜季はブレスレットをそっと手に取り、蓮に見せる。
「ほんとだ。これ、全部手作りなんだろうな」
蓮も小さなネックレスを手に取って、ビーズの細かい模様を指先でなぞる。
「ありがとうございます。そうなんです、全部手作りで一点ものなんですよ」
店主の女性は笑顔で、二人の様子を見ながら話しかけてきた。
四十歳前後に見える、いわゆる普通の主婦のような感じの人。
「凄いですね、これ。ビーズレーシングの編み込みとか」
「ありがとうございます。分かっていただけるんですか?」
「はい。私も以前作ったことありますので。テグスの玉止めとか難しいんですよね。それに、結構目が疲れたり」
「ええ。まあ、私は時間はたくさんあったので。それに昔からこういうの作るのが好きだったんですよ。そして趣味が高じて――」
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それぞれの店や出店者に特徴があり、詳しい知識がない桜季でも見ていて飽きない。
中には自分達と同じ高校生くらいの年齢で集まっているグループもある。
テーブルの上の看板を見ると、別の高校の手芸部による出店の様だ。
その看板もおそらくは自分達で作った物のようで、ポップな文字やたくさんの絵柄が描かれている。
出店者達も楽しそうにおしゃべりをしながら、ときたま足を止める客に説明をしている。
「ウチではこういった活動はしないのですか?」
「まあ、な。一応去年は活動実績を作る為に参加しようって話もあったんだけど。でも、こういった活動ってそれなりに商品の数を集めないといけないだろ? 正直、質と量を考えると難しいんだよな。それにウチは家庭科部であって、手芸のみをやってるわけじゃないし」
「あ、そういうことですか」
確かに蓮の言う通り、出店する以上は(いくらフリーマーケットと言えど)一定の質と量は重要になる。
修峰学園の家庭科部では、それをクリアするのは難しいだろう。
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「あ、ちょっとそこのお兄さんとお姉さん!」
あと少しで全店を見終えるというところで、ふと声が掛けられた。
その声に桜季と蓮は顔を見合わせ、そして声の方を向く。
そこには二十歳程度の女性がパイプ椅子に座ったままこちらに向かって手招きしていた。
淡いグレーのオーバーサイズTシャツに、ダメージデニムのクロップドパンツを合わせていた。
肩までの金髪は軽くウェーブがかかり、太陽の光を浴びて輝いている。
そして何よりもアクセサリ。
ネックレスにブレスレット、指輪やピアスなど、様々なアクセサリを至る所に着けている。
「そうそう、君達! ちょっと見て行ってよ!」
かなりのハイテンションで手招きして来る様子は、どこか美鈴を思い起こさせた。
「見てみるか」
「はい」
蓮と共にブースの前へ行くと、そこには様々なシルバーアクセサリが並んでいた。
「ねね、彼氏さん! 可愛い彼女さんにプレゼントとかどう!? そっちの彼女さんも!」
「えっ!?」
店主の言葉に桜季の心臓がドキリと震える。
病室で言われたこともあってか、今の不意打ちに動揺してしまう。
一方で隣の蓮は桜季とは違い、普段通りの笑みを浮かべて訂正する。
「あ、いえ。彼氏彼女とかじゃなくて、友人同士です」
「あ、そうなの? いやー、ごめんね。なんか凄くしっくりきちゃってて!」
特に悪びれるでもなくあはは、と笑いながら軽く謝る店主。
(でも、今のわたしと蓮さんって、そういうふうに見られてたってこと、だよね……?)
決して嫌な気分ではない。
むしろ、そう見られることが――
「ほら、これとかどう!? お兄さんに似合いそうじゃない!?」
そう言って、一つピアスを手に取り見せてくる。
シルバーの薄いプレートがいくつも連なり、フリンジのように軽やかに揺れるデザインだ。
チェーンや小さなリングが細かく組み合わさっていて、揺らすと絶妙にリズムよく動く。
派手だけれど、カジュアルな服にも違和感なく合わせられそうだ。
「あ、いえ。おれはピアスは着けないので」
「わたしもピアスは着けません」
「あ、そうなの?」
桜季はピアスをしたことがないし、これからする予定もない。
蓮も耳に穴の跡がないことから同じだろう。
「それじゃあピアス以外のやつも見て行ってよ!」
そう言われて他のアクセサリーの方へと視線を向ける。
指輪、ネックレス、ブレスレット。
すると、蓮がこちらを向いて、再び商品の方へと視線を戻す。
かと思えば再び桜季の顔、というより少し下、首の部分へと視線を向けられる。
「蓮さん?」
不思議そうにそう問いかけると、答える代わりに蓮はその中の一つを手に取った。
それは――
「ネックレス……?」
「お、お兄さんお目が高いね!」
テンション高めな店主を横目に、蓮が手にしたそれをまじまじと見る。
小さなチェーンブロックを繋いだ作りで、小さな花が付いている。
花びらの一枚一枚にはわずかに凹凸があり、まるで本物の花のようだ。
そして、この花は――
「マーガレット……?」
その花の意味は――
「ああ。桜季に似合いそうだって思って」
昨日の会話を思い出す。
これまでずっと隠していた、母から受け継いだ黄色の瞳。
まるでマーガレットの様だと――
「蓮さん……」
上手に言葉が出てこない。
「ほら、せっかくだから着けてみたら!?」
「え? でもいいんですか?」
身を乗り出してくる店主に思わず蓮が問い返す。
「うん! ほらほら遠慮しないで!」
「えっと……どうする?」
「その、着けて……みたいです」
蓮の問いに、桜季は自分の素直な気持ちを口にした。
蓮が選んでくれた、自分に似合うと言ってくれたネックレス。
その姿を自分でも見てみたい。
「それじゃあお兄さん! お姉さんに着けてあげなよ!」
「え? いや、自分で……」
「いやいや! 自分で着けるのって難しいよ! ってわけでさ、お兄さん!」
「えっと……それじゃあ着けるか?」
「は、はい……。お願いします…………」
そう言って、桜季は蓮に背を向け、そっと後髪を横へとかき分けた。
ややあって、自分の胸元にマーガレットが回される。
そして、首にヒヤリとした冷たい感触。
カチッという小さな音がして、留め具が取り付けられたのが分かった。
「出来たぞ」
「あ、ありがとうございます」
「ほらほら! 鏡見てよ!」
店主が差し出してくる手鏡を受け取り、自分の胸元を写す。
そこにはとても綺麗な花が、中央が黄色く光り輝くマーガレットがあった。
「うん。やっぱり桜季に似合ってる」
いつの間にか正面に移動していた蓮が、うんうんと優しく笑いかけてくる。
その言葉に心が震える。
「ありがとうございます」
本当に嬉しい。
なによりこれを蓮が似合うと言って選んでくれた事実が。
値段も手頃だし、これなら買ってもいいかもしれない。
しかしそれより早く、隣から蓮の声。
「それじゃあ、こちらいただけますか?」
「え?」
予想もしていなかった言葉に桜季は驚いてしまう。
慌てて蓮の方を見るが、蓮は先程と同じように、いや、少し照れながらも頷いた。
「れ、蓮さん……! さすがにそれは……」
「気にするなって。だってさ、桜季はやっと一つ乗り越えることが出来たんだろ?」
「そ、そう、ですけど……」
瞳についての嫌な思い出を、蓮の言葉で乗り越えることが出来た。
しかし、だからと言ってそれは――
「でもさ、みんながみんなおれと同じように思ってくれるかは分からない。でも、そんな時はさ、思い出して欲しいんだ。桜季のその瞳は綺麗だって、そう思ってる人が最低一人はいることを」
「蓮、さん…………」
涙が溢れてしまいそう。
懸命にそれをこらえ、ぎゅっと唇を噛んだ。
ここで泣いてしまったら、この時間ごと壊れてしまいそうで。
そこでふと、売り場の方へと目を向ける。
そこにあった一つのネックレス、それをゆっくりと手に取ってまじまじと見つめ、そして蓮の方を向く。
「桜季?」
「これ、蓮さんに似合いそうだなって」
「これ……蓮の花、か?」
「はい。蓮さんの名前のお花です」
派手な装飾はない。
だが、幾重にも重なる花びらが静かに開くように作られていて、光を受けるたびに陰影が浮かび上がる。
「お、いいじゃん! ほら、お兄さんも着けてみなよ!」
「蓮さん。後ろを向いて下さい」
「あ、ああ……」
蓮が後ろを向いて、桜季に着けやすいように少しかがんでくれた。
そして蓮の首元へとネックレスを取り付ける。
蓮の正面に回ると、その胸元に蓮の花が輝いていた。
「とても似合ってますよ」
「そ、そうか。ありがと……」
照れたように視線を逸らす蓮。
普段と違ったその仕草に、桜季もつい笑ってしまう。
「それでは、こちらの方いただきますね」
「え?」
今度は蓮が予想外だというように、驚いた表情で桜季を見る。
しかし桜季としても、これは譲る気持ちはない。
「わたしがこの瞳のことを乗り越えられたのは、間違いなく蓮さんのおかげです。だから、ここはわたしにプレゼントさせて下さい」
「…………ありがとな、桜季。これ、大切にするよ」
「はい。わたしも大切にしますね」
「いやー、いいねいいね。お似合いだよ、ほんと」
そう楽しそうに声を上げる店主にそれぞれ代金を支払い、店を後にする。
胸元のネックレスの存在と、その意味を意識しながら。




