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義理チョコキングと頑張り屋さん ~心優しい二人が寄り添っていく、幸せに包まれた半同棲生活~  作者: バランスやじろべー
第一章後編 共に過ごす日々

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第37話 夕食後の片付け

「「「ごちそうさまでした」」」


 食事を終えると、三人で手を合わせる。


「はぁー……美味しかったぁ……」


 そう言って椅子の背もたれに体を預ける琴乃。

 桜季も幸せそうな笑みを浮かべている。


「そんなに食べて大丈夫か?」


「大丈夫ですよ。今日はいっぱい動いたし」


 そう言いながら琴乃は笑う。

 確かに茶碗二杯に加えて肉じゃがも何度かおかわりしていた。

 その様子に蓮は苦笑する。


「まあいいけどな」


 そう言いながらキッチンから大きめのタッパーを持って来て残った肉じゃがを入れてしまう。

 蓋を軽く押さえて閉め、それを冷蔵庫へ。

 そしてリビングに戻り、テーブルの上の食器を手に取り桜季の方を向く。


「それじゃあ洗い物するか」


「あ、はい」


 すぐに桜季も立ち上がった。

 蓮が教えるのは料理だけじゃなく片付けまで含めて。

 いつも通りの真面目な頑張り屋としてやる気に満ちている。


「じゃあ、一緒にやるか」


「はい」


 どこか嬉しそうに桜季が頷いた。

 一方で琴乃は食器をキッチンへ運んだ後にリビングへ。

 調理と同じく教わるのは桜季だけだ。

 そんなに広くないシンクに二人で並ぶと、肩が触れそうな距離になる。

 シンクの中に器を並べると、蓮は蛇口をひねって軽く温水を流した。


「まずはこれな。器に残ったのを水で流す」


 蓮は茶碗を軽く傾け、水で内側を流す。


「こうやって先に軽く流しておくと、後で洗うのが楽になる。まあ、これはなんとなく分かるだろうけど」


「はい」


 桜季も自分の茶碗を同じように軽くすすぐ。


「それから洗う順番」


「順番、ですか?」


「ああ。油が少ない物から洗う」


 蓮はスポンジに少しだけ洗剤を付け、軽く泡立てる。


「コップとか箸とか、そういうのからな」


「どうしてですか?」


「油っぽいのから洗うとスポンジがすぐ汚れるから」


「あ……、確かにそうですね」


 桜季は納得したように小さく声を漏らす。

 そしてスポンジを持ち洗剤を付けて、ゆっくりとコップを洗い始めた。

 だが桜季の手元を見て蓮は小さく声を上げる。


「桜季。スポンジはもっとしっかりと泡立てて」


「え?」


「その方が洗剤と汚れがしっかりと接触して汚れが落ちやすい」


「あっはい。分かりました」


「これくらいでいい」


 そう言って蓮はスポンジを軽く絞り、泡を整える。

 桜季は少し恥ずかしそうに頬を染めた。


「すみません……」


「謝るほどのことじゃないって。これから覚えていけば良いんだからさ」


 そう言って蓮は桜季の手元を見る。


「それ、こうやって持つと洗いやすいぞ」


 蓮は桜季の手に軽く触れ、コップの角度を直す。

 その瞬間、桜季の肩がぴくりと動いた。

 シンクは広くないため、自然と二人の距離も近くなる。

 蓮の手が離れると、桜季は小さく息を吐いた。


「出来そうか?」


「は、はい」


 少しぎこちなく答えながら、桜季はコップを洗う。

 先ほどよりも滑らかに、円を描くように手を動かす。

 その様子を見て蓮は頷いた。


「うん、そんな感じ」


 桜季は自分の手元を真剣に見つめながらスポンジを動かしていく。

 その時、桜季の手元で泡が跳ねて顔に向かって飛ぶ。


「あ……っ」


 頬に白い泡が付いた。

 だが桜季の両手はスポンジとコップで塞がっていて拭くことはできない。


「あ……」


 困ったように視線を泳がせる桜季を見て、蓮はすぐに察する。


「ちょっと待ってろ」


 キッチンペーパーを一枚取り、桜季の方へ身を寄せる。


「じっとしてて」


「え……?」


 頬にそっと当てる。

 その瞬間、桜季の頬がびくりと揺れる。

 息を止めたように動きが固まる。

 紙越しでも分かるほど、柔らかい感触が指先に伝わった。

 その事実に蓮の手が一瞬止まった。

 慌てて誤魔化すように、軽く拭き取る。


「あ、えっと……」


「その……」


 紙を頬に当てたまま、桜季と顔を合わせて固まってしまう。


「ふ、拭くぞ……」


「は、はい……お願いします……」


 ゆっくりと手を動かして、桜季の頬から泡を拭う。

 柔らかな弾力の上を滑る感触が指に伝わる。


「ん……」


 くすぐったいのか桜季の口から淡い声が漏れる。

 その声色に蓮の顔が赤くなるのが分かる。


「……取れたぞ」


「……あ、ありがとうございます」


 桜季も小さく礼を言い、視線を落とす。

 再び洗い物に戻るが、スポンジを動かす手はどこかぎこちない。


(…………柔らかかったな)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 桜季はスポンジを動かしながら、頭の中はたった今のことでいっぱいになっていた。

 頬にはまだ蓮の指の感触が残っているよう。

 キッチンペーパー越しに触れたはずなのに、指先の感触だけがやけに鮮明に感じられた。


(さっきの……)


 心臓が小さく跳ねる。

 隣に立つ蓮を意識しないようにしても、どうしても気になってしまう。

 ほんの一瞬だけ横を見る。

 目が合いそうになってすぐに視線を逸らした。


(……意識しすぎだって。先輩はただ泡を拭いてくれただけなのに)


 誤魔化すようにスポンジを動かすが、手はどこかぎこちない。


(でも……なんだか…………)




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 しばらくすると食器を洗い終えたので水で洗剤を落としていく。


「すすぐ時は食器の裏に注意。意外と洗剤残るから」


 蓮は茶碗をひっくり返し、底の部分を水で流す。


「……なるほど」


 感心したように呟く桜季。

 洗い終えた食器を水切りラックへと立てるように並べる。


「うん、それでいい」


「本当ですか?」


「ああ。ちゃんと乾きやすい置き方だ」


 その言葉に、桜季はほっとしたように微笑んだ。


「良かったです」


 残っているのは鍋だけとなった。


「もう少しですね」


「だな」


 蓮は鍋をすすぎながら言う。


「洗い物って、慣れるとそんなに大変じゃないだろ?」


「はい……」


 桜季は静かに頷き、そしてくすりと笑って見上げてくる。


「料理もそうですけど……」


「ん?」


「こうして一つずつやってみると、思っていたより難しくないんですね」


 そう言って、桜季は少しだけ照れくさそうに笑った。

 蓮はその表情を見て、少し胸がドキリとする。

 桜季のような美少女にその様に笑いかけられると心臓に悪い。

 恥ずかしさを隠すように洗い物へと視線を向けた。

 最後の鍋を水切りに置くと、シンクの中は空になった。


「よし、終わり」


 蓮がそう言うと桜季は嬉しそうに頷く。


「お疲れさまでした」


「お疲れ」


 そして二人で顔を見合わせ、小さく笑った。

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