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義理チョコキングと頑張り屋さん ~隣の姉妹にご飯を食べさせたら、半同棲生活が始まった~  作者: バランスやじろべー
第一章後編 共に過ごす日々

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第36話 いいお嫁さん

「出来たぞーっ」


 料理が完成し、琴乃に声を掛ける。


「やった! ご飯だーっ!」


「今並べるからな」


 そう言って蓮と桜季はリビングのテーブルへと料理を運ぶ。

 テーブルの中央にはもちろん肉じゃがの入った鍋。

 出汁の効いた肉じゃがの香りが湯気と共に鼻へと届く。

 副菜と汁物として、ほうれん草のお浸しと豆腐とわかめの味噌汁。

 そして茶碗に白米を盛って夕食の完成だ。

 蓮と桜季はエプロンを外し、琴乃と共に席に座る。


「うわあ……! 凄い! これ全部お兄さんが作ったんですか?」


「肉じゃがは途中まで桜季も手伝ってるぞ」


「ちょっとだけだけど……」


 少しだけ申し訳なさそうに答える桜季。

 蓮は鍋から肉じゃがをそれぞれの器へと取り分ける。

 これで夕食の準備は完了したので、三人揃って手を合わせた。


「いただきます」


「いただきます」


「いただきまーすっ!」


 挨拶を済ませた後、早速肉じゃがへと箸を運ぶ。

 まずジャガイモを噛みしめると、中の方まで味が染みておりいい出来映えだ。

 ふと前を見れば、桜季と琴乃も美味しそうに顔を綻ばせる。


「美味しいです」


「うん! お兄さん、美味しい!」


 昨日と同じように笑顔での感想。


 それを聞けて蓮も嬉しい。


「ジャガイモ、凄くホクホクとしていて……」


「うん! 味も染みてるしね!」


 美味しそうに食べる二人を前に、蓮も豚肉を口に運ぶ。

 こちらも味が染みており、いい感じの仕上がりだ。


「お味噌汁も美味しいです」


 肉じゃがの合間に味噌汁やお浸しにも箸を伸ばす。

 どれを食べても二人共美味しそうな反応が返ってくる。


「ご飯が進みますね、これ」


「うん! 白米にとっても合いますよ、これ! ……あっ」


 琴乃が自分の茶碗を見て小さく声を漏らす。


「どうした?」


「ご飯、もうなくなりました」


 そう言いながら、琴乃が茶碗の中を見せてくる。

 まだ食べ始めてそれほど経っていないのに、中は既に空だった。


「つい夢中で食べちゃって……」


 琴乃は少しだけ照れくさそうに笑う。

 蓮も思わず笑みを浮かべる。


「おかわりするか?」


「してもいいんですか?」


「もちろん」


「じゃあお願いします!」


 元気よく差し出された茶碗を受け取り、蓮は炊飯器からご飯をよそう。

 大盛りにして琴乃へと渡すと嬉しそうに受け取った。


「ありがとうございます!」


「琴乃、そんなに急いで食べなくても……。ちゃんと噛んでる?」


「噛んでるって! だってこれ、本当に美味しいんだもん!」


 そう言ってまた一口二口と口へと運ぶ。

 つられて食べ過ぎてしまいそうな食べっぷりだ。

 蓮の茶碗もすぐに空になってしまう。


「おれも二杯目食べるかな」


 そう言って自分の茶碗にも二杯目をよそう。

 湯気の立つ白米が、更に食欲を刺激して来る。

 ふと桜季の方へと目を向けると、桜季の茶碗の中も空になっていた。


「桜季はどうだ?」


「あ……。い、いえ、自分でよそいますから……」


「遠慮するなって。ほら」


「あ……。それではお願いします」


 蓮が手を伸ばすと桜季はおずおずと茶碗を渡してくれる。

 同じように白米を盛って桜季へと渡すと、丁寧に頭を下げて受け取った。


「肉じゃがも味噌汁もまだまだあるからな」


 自分の器に肉じゃがと味噌汁を盛り付け食べていく。

 少し遠慮がちに食べる桜季と、嬉しそうに食べる琴乃。


「自分で作ってみて、どうだ?」


 ふと桜季に問いかけてみる。

 桜季は箸を置いて、少し考えてから口を開いた。


「そう、ですね……。野菜の皮を剥いたり切ったりしただけですが、なんだか特別な感じがします。でも、たったそれだけなのに充実感があるというか……」


 はにかみながら、桜季はもう一度自分の目の前に置かれている肉じゃがへと視線を落とす。


「大きさも不揃いでまだまだこれからと言った感じですが、こうして食べてみると本当に嬉しいというか……」


「ま、料理ってのはそういう物だな。自分が関わってみると、ちょっとだけ特別に感じるし、美味しく思える」


「はい。まさに今実感しています」


 そう言って微笑む桜季の表情を見て、蓮は少しだけ照れくさそうに視線を逸らした。

 桜季は小さく頷き再び肉じゃがを口へと運ぶ。

 一方で琴乃は美味しそうに食べながら、満足そうに頷く。


「ねえお兄さん、これって作るの難しいの?」


「ん? いや、そこまでこだわらなければそんなに難しくはないぞ」


 作っている時に桜季にも言った通り、こういった煮込み料理は作る難易度が低い。

 だからこそ初めに教えたのだ。


「それじゃあお姉もすぐに作れるようになるの?」


「まあ、そのうちだな」


 蓮がそう言って先の方を向くと、桜季は少し驚いたように蓮を見る。


「その、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だって。今日だってちゃんと皮剥き出来たし、野菜も切れただろ?」


「最初は少し失敗してしまいましたが……」


「まあ、そんなもんだ。おれだって最初は失敗すること多かったしな」


「そうなのですか?」


 驚いたような目で桜季が見てくる。

 そんな桜季に、蓮は苦笑しながら頷いた。


「そりゃあな。野菜を焦がしたこともあるし、肉が生だったこともある。包丁で怪我をしたこともある。だけど、何度も繰り返し経験を積んでいって、徐々に上達していったんだ」


「そうなのですね。その、わたしは蓮さんが上手に作っている姿しか見ていなかったので、少し意外です」


「まあ、な。だからさ、桜季だって練習を重ねればちゃんと上達すると思うぞ」


「はい。ありがとうございます」


 蓮の言葉に桜季は顔を上げ、少しはにかみながら笑った。


「それでは、今後ともよろしくお願いします」


「ああ。まずは煮込み料理を覚えよう」


「はい」


 遠慮がちではあるが、どこか嬉しそうな桜季の声。

 それを聞いて、蓮もにこりと笑う。


「まあ、まずは夕食を食べてしまうか」


「はい。冷めてしまってはもったいないですからね」


「うん!」


 そして三人は再び食事へと戻っていく。

 しばらくすると琴乃が箸を止めて肉じゃがを見ながら考えこんでいた。


「どうかしたのか?」


 蓮が問いかけると琴乃はニヤリと笑って蓮を見る。


「これ、お姉が作れるようになったら、絶対いいお嫁さんになりますよね」


「――えっ」


 突然の言葉に、桜季の手がぴたりと止まる。


「だって優しいし、真面目だし。それに料理も出来たら完璧じゃないですか」


「こ、琴乃……」


 桜季は顔を赤くして視線を落とす。

 先程まで普通に食べていたのだが、急に箸の動きがぎこちなくなった。

 蓮は味噌汁を一口飲みながら苦笑する。


「急にどうした?」


「えー? お兄さんもそう思いません?」


 けろりとして答える琴乃。

 隣では桜季が慌てたようにオロオロとしている。


「ねえお兄さん! お兄さんもそう思いますよね!?」


「まあ、そうかもな」


「え……? そ、それって…………」


 蓮の言葉に桜季は顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 隣では琴乃がにやにやと意味ありげに笑っている。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



『お姉が作れるようになったら、絶対いいお嫁さんになりますよね』


『まあ、そうかもな』


 琴乃の言葉、そして蓮の発言。

 それを思い返し、桜季は自分の心臓がより速く鼓動を奏でだしたことに気付く。


(それって……)


 それを考えてしまった瞬間、顔が一気に熱くなる。


「桜季?」


 ふいに正面から蓮の声。

 それを聞いてびくりと体が反応してしまう。


「どうかしたのか?」


「え? だ、大丈夫です……」


 何でもないように答えるが、声が裏返ってしまった。

 不思議そうに蓮が見てくる。

 その反応に、桜季も自分の頭に思い浮かんだことが勘違いだと気付いた。


(そ、そうだよね……。別に、誰のお嫁さんってわけじゃ……)


 その様子を見て、隣の琴乃がくすくすと笑う。


「お姉、分かりやすい」


「わ、分かりやすいって……何が?」


「にひひ。なんでもなーい!」


 そんなやり取りを、対面で蓮が微笑ましそうに眺めていた。


「あ、あの、蓮さん。どうかしましたか?」


「いや、こうして賑やかなのって久しぶりだなって」


「あ、す、すみません。騒がしくしてしまって……」


 慌てて謝るが、逆に蓮は首を横に振った。

 そして優しい表情で言葉を続ける。


「いや、そうじゃなくてさ。一人で無言で食べるよりも美味しく感じるなって」


「あ…………」


 そう言われて桜季も理解する。

 蓮は高校生になってから一年以上独り暮らし。

 自分達のように、家族で食卓を囲む回数などたかが知れているだろう。

 だからこそ、昨日今日と、こうして誰かと一緒に夕食を食べる時間は自分達以上に貴重なのだと。

 桜季はゆっくりと頷く。


「こうして誰かと一緒に食べるご飯って、やっぱりいいですね」


 どこか嬉しそうにそう告げると、蓮は少しだけ照れくさそうに頭をかく。

 いつも大人びている蓮が少し子供っぽい。

 学校とは違い、こうした部分も昨日今日で何度か目にしてきた。

 なんだかとても可愛らしい。


「蓮さんの言う通り、みんなで食べるご飯は美味しいです」


 桜季はそう答えて、もう一口肉じゃがを食べる。

 甘じょっぱい出汁の味が口の中に広がる。

 隣では琴乃が相変わらず幸せそうにご飯を食べている。

 温かい食事に穏やかな会話。

 ゆったりとした心地よい時間が流れていた。

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