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義理チョコキングと頑張り屋さん ~心優しい二人が寄り添っていく、幸せに包まれた半同棲生活~  作者: バランスやじろべー
第一章後編 共に過ごす日々

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第35話 肉じゃが作り

 蓮と桜季は買い物を終えアパートへ。

 桜季は一旦自室へと帰り、その間に蓮も着替えて片付けを行う。

 それから炊飯器の用意をしたりしているとインターホンが鳴った。

 確認するとやはり桜季だったので玄関を開ける。


「それでは蓮さん。よろしくお願いいたします」


「ああ。それじゃあ始めるか」


「はい」


「っと、その前にこれ着てくれ」


 そう言って蓮は用意していたエプロンを桜季へと渡す。

 朝は簡単な調理だったのでエプロン無しで行ったのだが、これからは着用した方がいい。


「ありがとうございます」


 素直に受け取って桜季がエプロンを着用。

 こうして見ると、元々の落ち着いた雰囲気も相まってとても家庭的に見える。

 見た目だけは、だが。


「スーパーでも話した通り、今日は肉じゃがを作ろう」


「はい」


「まずはジャガイモと人参の皮剥きだな」


「分かりました」


 そう言って桜季は用意されていたジャガイモを手に取りピーラーを近づけ――


「ちょっと待った!」


 慌てて蓮が止める。

 蓮の言葉に桜季はジャガイモとピーラーを持ったままびくりと固まった。


「ストップ。皮を剥く前に、まず水で洗おう」


「あっ……! すみません、つい忘れてしまいました」


「落ち着いて。焦らなくていいから」


「は、はい。……スー……ハー……スー……ハー……」


 緊張をほぐす為か、桜季は一度深呼吸をして呼吸を整える。

 徐々に落ち着いてきたようで、再びジャガイモを手に取った。


「それでは、改めていきますね」


「ああ」


 ジャガイモを洗い、まな板へと置く。

 そしてピーラーを当てて、一気に動かした。

 あまりの勢いに、蓮は背筋が少し寒くなる。


「ちょっと待った。さすがに危ないからもう少しゆっくりとやろう」


「は、はい」


 そう言って桜季は今度はゆっくりとピーラーをジャガイモへと当てたが、蓮にはその手が少し震えているような気がした。


「ちょっと貸してくれ。一つ、おれが手本として剝くよ」


「わ、分かりました。お願いします」


 桜季から手渡されたジャガイモの皮を、ピーラーでゆっくりと剥いていく。

 それを隣から食い入るような視線で見つめる桜季。


「こんな感じだな。質問はあるか?」


「いえ、大丈夫です」


 今度こそ、と言った感じで桜季が再びジャガイモと向き合う。

 しかしピーラーを持った手は、まだ少し震えていた。

 少なくともこの状況ではやはり刃物は使わせたくはない。

 しかしいつまでもこの調子では成長も出来ないだろうと考えたところで、蓮はあることを思い出す。


「あ、そうだ。ちょっと待ってくれ」


 そう言いながら台所の戸棚の下部を開ける。

 程なくして目当ての物、一組の手袋を取り出す。


「これを着用して切ってくれ」


「分かりました。えっと、これは何ですか?」


 手袋を着用しながら、興味深そうに桜季が聞いてくる。


「防刃の手袋。スライサーなんかの指を切りやすい物を使う時に着用する奴だ。とりあえず慣れるまではピーラーとか包丁とか、そういうのを使う時はちゃんと着けて作ろう。怪我をしたら元も子もないからな」


「そんな便利な物があるのですね。ありがとうございます」


 防刃手袋を着用して、今度こそ桜季が皮剥きに挑戦する。

 だが、ピーラーはジャガイモの上を思い切り滑ってしまった。


「きゃっ!」


 慌てて桜季が声を上げる。

 幸いなことに手袋のおかげで怪我はないようだが。


「大丈夫か?」


「は、はい。すみません。滑ってしまいました」


「ちょっといいか?」


 そう言って蓮は桜季の横から左手を伸ばし、ジャガイモを持つ桜季の手を軽く包み込んだ。

 あわあわとした桜季がこちらを見上げてくる。


「れ……蓮さん?」


「ジャガイモはこう持った方が良い。それとピーラーも」


「は、はい……」


 蓮は桜季の両手に自分の手を重ねゆっくりとピーラーを走らせる。

 はらり、と皮が落ちた。


「こんな感じだな。大丈夫か?」


「は、はい……。そ、それでは……」


 慌てて蓮から顔を逸らし、桜季はピーラーを走らせる。

 ぎこちなさはあるものの、上手に一剥き。


「こ、こうでしょうか?」


「うん、大丈夫。そのまま続けていこう」


「分かりました」


 次いで二つ目のジャガイモへ。

 それを横目で確認しつつ、蓮は出汁の準備に並行して取り掛かった。



 ✿




 桜季と共に材料の下処理を終わらせる。

 ジャガイモやニンジンは乱切りにされ、玉ねぎもさく切りにして水に漬ける。

 そして桜季の練習はここまで。

 一度にさまざまなことをやっても覚えきれないだろうということで、ここから先は蓮が進めていく。


「それじゃあ下処理は終わりってことで、炒めていくか」


「分かりました。肉じゃがは煮込むだけではなく最初に炒めるのですね」


「ああ。肉は軽く焼くことで肉汁が外に出にくくなるし、ジャガイモなんかは型崩れを起こしにくい」


「なるほど。勉強になります」


 興味深そうに桜季が頷く。

 その横で蓮は鍋に油を入れて一口大に切った肉を炒める。

 ある程度色が変わったところで野菜も投入して軽く火を通した後に、鍋に出汁や砂糖、料理酒を投入。

 徐々に食材の香りがキッチンの中へと広がっていく。


「お出汁の美味しそうな香りですね」


 リラックスした表情で桜季が呟く。

 蓮は手を止めずに桜季の言葉に頷いた。


「ああ。料理を作ってる最中の、こういった香りって好きなんだよなあ」


「わたしは料理をしてこなかったのですが、それは分かります。昨日のビーフシチューもとても美味しそうな香りでした」


「あはは、ありがと」


 そう答えながら、蓮は鍋の中の灰汁を取って捨てる。

 灰汁をそのままにする方が美味しいという意見もあるそうだが、蓮としてはこちらの方が慣れ親しんだ調理法だ。


「ちなみに、だ。昨日のビーフシチューも、大まかなところでは作り方ってのは変わらないんだ」


「そうなのですか!?」


 桜季が驚いた様に声を上げる。


「ああ。もちろん、あれはデミグラスソースにかなり力を入れて作ってはいるけどな。でも、大本の所ってのは変わらないんだ。今回は出汁とかを入れたけど、代わりにルーを入れればカレーになる。肉も牛肉にしてビーフシチューのルーを入れればビーフシチューになるし、固形のコンソメを入れればポトフにもなる。肉じゃがだって出汁とかみりんとか入れずに水とめんつゆで作ることも可能だ」


「あ、確かに言われてみればそうですね」


 ああ、といった感じで納得する桜季。

 そもそも煮込み料理というのはほぼ共通した調理手順で可能だ。

 もちろんルーに頼らないスパイスカレーやこだわりのデミグラスソースなど、力を入れることは可能だが。


「だから初めのうちにこういった料理を教えておきたかったってのもある。色々と応用が利くからな」


「そうだったのですね。ありがとうございます」


「お礼を言われることじゃないって。それと、煮込み料理ってのは、火を通す時間がそこまでシビアじゃないってところもあるんだ」


「シビアじゃない、ですか?」


「ああ。簡単な料理だと野菜炒めとかそういうのもあるけどさ、あれはあれで火加減とかの細かい調整が必要だし、少しミスすると焦げてしまうだろ?」


「はい。分かります」


 少し苦笑しながら桜季が答える。

 もしかしたら失敗した経験でもあるのだろうか。


「だけどさ、こうした煮込み料理ってのはそういうの、そこまで気にしなくても良いから。もちろん煮込み過ぎると型崩れとか多少味が落ちるとかはあるけど、それでも普通に食べられる物が出来るんだ。だから少し作り置きすることも可能だし」


「確かにそうですね。前日に作ったカレーを翌日に温めたりもしますし」


 話しながら、醬油とみりんを入れ弱火にして落とし蓋。

 煮詰めながら塩で味を調える。

 しばらくして味を確認して火を止める。

 後は一度冷まして味をしみこませれば完成だ。

 その間に味噌汁や副菜の準備を済ませた後に、小休憩ということでリビングへと移動。

 すると桜季のスマホが着信を知らせた。


「蓮さん。琴乃が帰ってきたようです」


「そうか。それだったらもうこっちに来てもらうか?」


「えっと、ご迷惑ではないでしょうか?」


「別に気にしないって。そっちの部屋に一人でいるのもあれだしな」


「分かりました。ありがとうございます」


 そう桜季が答えて数分後、蓮の部屋のチャイムが鳴る。


「はい」


『あ、お兄さんですか? 琴乃でーす!』


 受話器を取れば、予想通りの声が聞こえてきた。

 桜季に目配せで琴乃が来たことを知らせ玄関へ。


「お邪魔しまーす!」


 そう言って琴乃が蓮の部屋へと入って来る。


「お姉、ただいまー」


「おかえりなさい。って言ってもここはわたし達の部屋じゃないんだけど」


 元気よくあいさつする琴乃に桜季が苦笑しながら答える。


「まあ気にすることじゃないだろ」


 フォローのように蓮が告げると、琴乃はうんうんと嬉しそうに笑った。


「ほら、お姉が気にし過ぎなんだって!」


「いや、蓮さんに迷惑でしょ?」


「本当に気にしなくていいからな」


「す、すみません」


「だから謝らなくてもいいって」


 申し訳なさそうに頭を下げる桜季に、蓮も笑って答える。

 蓮としては、むしろそのくらいに思ってくれる方が気が楽だ。

 これからしばらくの間一緒に食事を共にするのだし、変に気を遣ったり、気を遣われたりすると疲れてしまう。


「くんくん。なんかいい香りが凄いね!」


「今日のメインは肉じゃがだ。今は一度冷まして味をしみこませているとこ」


「肉じゃが! 凄い、楽しみですっ!」


 肉じゃがと聞いて、琴乃は目を輝かせる。

 まあ、昨今の日本人で肉じゃがが嫌いな人の方が珍しいだろう。


「さて、それじゃあそろそろ再開するか」


「はい、分かりました」


 椅子から立ち上がり、桜季と二人でキッチンへと移動。

 先程の肉じゃがを再度過熱し、味噌汁や副菜も完成させた。

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