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義理チョコキングと頑張り屋さん ~隣の姉妹にご飯を食べさせたら、半同棲生活が始まった~  作者: バランスやじろべー
第一章前編 家庭科部へようこそ

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第2話 特別感など無いありきたりな出会い

 ―――――――――


 春は何の季節か? という問いには人それぞれの答えがあるだろう。

 例えば別れの季節。

 卒業を機に遠くへ行ってしまう友人との別れ。

 そんな答えもあるかもしれない。

 また逆に出会いの季節という人もいるだろう。

 環境が変わることにより新たな人々と出会う機会が一番多いのが春という季節だ。

 新年度が始まって早数日。

 無事に高校二年生へと進級した男子学生であり、アパートで一人暮らしをする蓮もその例に漏れることはない。

 環境の変化による発生した新たな出会いという物もあった。 

 とはいえ蓮にとって別段目新しいような変化ではない。

 単に進級によるクラス替えにより、昨年度とは別のクラスメイト、友人が出来たといういわゆる当たり前の変化である。

 住んでいるアパートの隣の部屋にクール系の美人が引っ越してきたとか、あまつさえ同じクラスの隣の席になったとか、そういった特別な出会いは断じてなかった。

 そしてこの日の放課後も、蓮は目新しくもない新たなる出会いを経験することになる。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「余裕はあるけど、少し急いだ方がいいかな」


 放課後、教師からの頼まれごとを片付けた蓮。

 この後は所属する部活で新入生に対する体験入部イベントが行われる。

 時間はまだ余裕があるのだが、とはいえ早めに到着するにこしたことはない。

 そんな速足で部室へと向かう蓮の耳に、困ったような二人の女子の声が届いてきた。


「……ってここどこー? 全く、まだ入学して一週間も経ってないのに場所なんて分かるわけないっつーの!」


「でもどうしようもないでしょ?」


「だけどさー、このままじゃどうしようも……」


 背後から聞こえた二人の会話に自然と足が止まる。

 おそらくは目的地が分からなくなってしまったのだろう。


(しょうがない、ナンパだと思われるかもしれんが助けを出すか)


 いきなり見ず知らずの男子から『案内するよ』と言われればナンパを警戒されるかもしれない。

 とはいえ蓮としてはこの状況で素直に自身の目的地へと向かうのも躊躇われる。


(まあ、間違われたらその時はその時だ。何より見て見ぬふりは嫌だしな)


 そんなポジティブ思考で不安を頭の隅へと追いやり振り向こうとした蓮だが、それよりも先に先程の女子の声が再び耳に届いた。


「あれ? あそこにいるの、もしかして先輩かな?」


「え? あ、そうかも。聞いてみようか。あの、すみません」


 丁度振り向こうとした瞬間に掛けられた声に、蓮は思わず固まってしまう。

 そんな蓮の姿を不思議に思ったのか、女子が再度声を張り上げる。


「あれ、聞こえてないのかな? すみませーん!」


 最初よりも大きな声。

 おそらくは自分に対して向けられているであろう声に、蓮は慌てて振り返った。

 そこに居たのは予想通り下級生の女子が二人。

 周囲に自分達以外の学生の姿は見えないので、今の声はやはり自分に掛けられたと思って間違いないだろう。

 しかし二人共目を引く容姿をしている。

 充分すぎるほど美人と表現しても良い顔立ちをしている。

 もちろん人には好みという物があるのだが、おそらくは大半の男子学生も美人、可愛い、綺麗といった感想を持つであろうことは間違いない。

 だが、二人に共通しているのはそのくらいだ。

 一人は平均かそれより少し低めの身長、そして綺麗な長い黒髪を持ったいわゆる清楚系女子。

 そしてもう一人は平均よりも高めの身長で、そして長い金髪を後ろで束ねている。

 加えて黒髪の方は制服をピシッと着こなしているようだが、金髪の方は胸元を緩めたりピアスやネックレス等のアクセサリーを着用したりとかなり気合の入った服装をしている。

 これがギャル系女子とかいう存在か、などと思わなくもない。

 蓮の通う修峰学園では服装についての規定はかなり緩い。

 故にこのような格好をしていても特別問題になることはない。

 髪を染める生徒もいるし、アクセサリーを身に着けている生徒もいる。

 とはいえここまで気合を入れた格好をしている者は少ない、というか、昨年一年間で蓮はまだ見たことが無かったが。


「あ、良かったー。気付いてくれたー」


 蓮の反応に金髪女子がほっとしたようにその大きな胸を撫で下ろす。

 先程蓮に掛けられたのとは別の声。

 ということは、最初に声を掛けたのは黒髪女子の方ということか。

 その黒髪女子は少し申し訳なさそうな表情で蓮の顔を見上げている。

 一方で金髪女子は親しげに蓮に話し掛けてくる。


「すみません。あの、アタシ達一年なんですけど、先輩、で合ってますよね?」


「ちょ、ちょっと美鈴。その言い方はちょっと失礼じゃ……。す、すみません、せん、ぱい……?」


「いや、気にしなくていいぞ。それで、おれは二年だけど」


 蓮が答えると金髪女子の顔がぱあっと明るくなり、黒髪女子の方は良かったというように胸を撫でた。


「すみません先輩。物理準備室の場所を教えていただけませんか?」


「あのですね、アタシ達、これを物理の準備室まで持って行くように言われてたんですけど道に迷っちゃって」


 そう言った二人の前には段ボール箱が四つ置かれている。

 それぞれ二つずつこれを運んできたということだろう。


「物理の準備室か。えっと……まずこの廊下を真っ直ぐ突き当たりまで行って」


 廊下の先を指差し説明を始める。


「はいはい」


「左に曲がってすぐの階段をそのまま昇って」


「はいはい」


「それで右に曲がって次の曲がり角を更に右に――」


「え、ちょ、ちょっと待ってください……。ヤバ、こんがらがって来た」


 説明の途中で頭を悩ませる金髪女子。

 確かにここから物理準備室まではそこそこ距離があるし、道のりも複雑となっている。

 逆の立場であれば蓮としても普通に説明されただけでたどり着ける自信はない。


「申し訳ないんですけどちょっと待ってもらっていいですか? メモしますんで」


「……いや、自分で言っててなんだけど、結構説明むずいわ」


「あ、そうですよねー」


 メモの為かスマホを取り出そうとした相手を制止する。

 よしんば上手に説明出来たところで、相手がそれを理解出来るかは別だ。

 下手をすれば更に迷ってしまう可能性もあるだろう。

 となれば蓮が取るべき行動は一つ。


(まあ、物理準備室ならそんなに離れてないしな……)


 幸いなことに蓮の目的地である部活の活動場所は彼女達の目的地からそう離れてはいない。

 ならば問題はないだろう。


「おれの向かってる先もそっち側だし案内するよ」


「え、マジで!? ホントに良いの!?」


「ああ。今言ったようにおれもそっちに用事あるからな」


「うわ、ラッキー。ありがとね、せんぱい!」


 蓮の提案に金髪女子がにひひ、と笑いながらお礼を言って来る。

 というか出会ってすぐの先輩に対してもうフランクな口調だ。

 一歩間違えれば生意気という印象や、先輩への最低限の経緯すらない失礼な印象を持たれるだろうが、それを全く感じさせないし言われた当人である蓮も嫌悪感などは一切沸いてこない。

 人から好かれやすいタイプなのだろう。


「え、で、でも……」


 もう一方の黒髪女子が小さな声で金髪女子を止めて、視線を動かして蓮を見る。

 視線と声色から察するに、先輩である蓮に迷惑を掛けることを申し訳なく思っている――ことに加え、多少の警戒もあるようだ。

 まあ蓮としてもその考えは分からないでもない。

 困っている美少女に手助けをして、代わりに連絡先なりなんなりを要求するというのがナンパの常套手段ということだろう。


「別にそう警戒しなくても良い。そっちの方に用事があるのは本当だしな」


「え、えっと……す、すみません……」


 おそらく黒髪女子の方も、警戒していることが蓮に伝わったのが分かったのだろう。

 好意に対してそのような態度を返してしまったことについて居心地が悪そうだ。

 申し訳なさそうに頭を下げてくる。


「いや、まあ警戒するのは構わないぞ。確かに傍から見ればナンパっぽいからな」


「う…………ほ、本当にごめんなさい…………」


 再度頭を下げる黒髪女子。

 とはいえ蓮としては別に気分を害したわけでもないし、そこまで謝られることでもない。


「だから気にするなっての」


「あはは。それじゃあせんぱい、案内よろしくお願いしますね」


「よ、よろしくお願いします」


 明るい笑顔の金髪女子と、まだ申し訳なさそうな黒髪女子。

 そんな対照的な二人が床に置いてあった段ボールを持ち上げようとする。


「よい、しょっと! しっかしこれホント重いなー!」


 女子が運んでいる物だからそこまで重くないだろうと思ったのだが、残念ながら蓮の予想は外れたらしい。

 声には出さないもののもう一人の方も険しい顔をしてそれを持ちあげる。


「っと、二人共、それ一個ずつよこせ」


「え?」


 さすがに後輩女子二人が重そうな荷物を抱えているのに、自分一人が手ぶらで歩くわけにもいかない。

 そんなわけで両手を前に出し一つずつ段ボール箱を渡すように要求する。


「え? 良いんですか? 道教えてもらうのに」


「別に構わないぞ。それ結構重いだろ」


「うわ、ホントありがとうございます!」


 渡りに船、といった感じですぐに抱えた段ボールをこちらの方へと差し出す金髪女子。

 下手な遠慮などせずに渡されたその上の箱を蓮はすぐに抱え、もう一人の方を向く。


「ほら、そっちも。この上に載せてくれ」


「い、いえ……。さすがにそれは申し訳ないです」


「いや、結構キツいだろ。もうふらついてるし」


「で、ですが……」


 こうして一つ持ってみるとその重さがより分かる。

 男子かつそこそこ鍛えている蓮にとってはなんてことない重さだが、世間一般の女子にしてみれば充分に重いだろう。

 実際に黒髪女子の方はこの状態で足下が既に怪しい。


「と、とにかくこれはわたしが持って行きます。ご厚意だけありがたく受け取っておきますね」


 と言われても、さすがにこれは危なっかしい。

 階段で躓いて怪我でもされたら目覚めが悪い。

 とはいえこのまま素直に箱を渡せと言ったところでこの相手は首を縦に振ることはないだろう。

 であれば――

 一つの考えに至った蓮は、金髪女子の方へと向き直り


「おい、もう一つの方もこの上に載せろ」


 と要求した。

 金髪女子は一瞬目をぱちくりとさせ、そして蓮の意図するところに気付いたのか持っていた段ボールをすぐに蓮の抱えていた上へと積み重ねる。

 それで手ぶらになった金髪女子は黒髪女子の方へと向き直って


「アタシは手が空いたしそっちの一つ持つね」


 そう言って二つ抱えている段ボールの上の方を、相手の返事を待たずに奪い取る。


「あ……ちょ、ちょっと……」


 慌てる黒髪女子。

 まあそれも当然だろう。

 これでは実質的に、蓮が二人から段ボールを一つずつ受け取ったのと何も変わらない。

 とはいえ建前というものは存在する。


「さて、それじゃあ行くか」


「あ、ありがとう、ございます……」


 もうここに至ってはこれ以上のやり取りは不毛だろう。

 そう判断したのか黒髪女子の方が少しむずがゆそうにお礼を言ってくる。


「礼を言われることじゃない。おれはそっちの荷物しか受け取ってないからな」


 蓮が受け取った荷物は、あくまでも金髪女子の持っていた物のみ。

 事実上のことはどうであれ、建前としてはそういうことだ。

 そして荷物を抱えた蓮は、二人の目的地である物理準備室の方へとゆっくりと歩き出す。


「ホントありがと、せんぱい! あ、そうだ。アタシは白川美鈴。よろしくね!」


 思い出したかのように美鈴と名乗った女子が自己紹介をしてくる。

 そんな美鈴に蓮は立ち止まり、苦笑してしまう。


「……いや、多少は警戒したらどうだ?」


「え? ああ、別にいいじゃん。名前くらいバレたところでどうってことないし、それにせんぱい良い人っぽいし!」


「なんだそりゃ」


 ニマッと笑う美鈴。

 まあ蓮としても悪い印象を持たれるよりもよほどいいが。


「いやー、アタシってこう見えて人を見る目あるんだ! だからせんぱいはなんだか信用出来そうだなって」


「まあ、そう思ってくれるのは有難いけどな。っと、おれは光井蓮だ」


 相手が名乗った以上、こちらも名乗るのが礼儀だろう。

 ということは、この場にいる三人の内、二人が名乗りを上げたということで。


「っというわけでさ、ほら、サッキーも挨拶しなって!」


 残る一人のサッキーと呼ばれた黒髪女子に美鈴がそう促す。


「いや、別に無理強いするもんじゃないだろ」


「あ、いえ。大丈夫です。すみません、確かに最初は少し警戒していましたけど、でも美鈴の言う通り先輩はそういうところ信用出来そうな人ですので」


 そう言って頭を下げる黒髪女子。

 そして再び頭が上がると、蓮と出会ってから初めて見せる笑顔が浮かんでいた。


「わたしは渡利桜季と言います。よろしくお願いします、光井先輩」




 ―――――――――



 これが将来人生を共にする二人、光井蓮と渡利桜季の出会い。

 住んでいるアパートの隣の部屋にクール系の美人が引っ越してきたとか、あまつさえ同じクラスの隣の席になったとか、そういった特別感など一切ないごくごく普通のありきたりな出会い。

 しかしこの出会いこそが、この二人の人生を大きく変えることになる運命の分かれ道となるのだった。

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