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義理チョコキングと頑張り屋さん ~隣の姉妹にご飯を食べさせたら、半同棲生活が始まった~  作者: バランスやじろべー
第一章中編 頑張り屋さんの家族

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第26話 妹とお弁当

 朝の四時半、いつもよりも遥かに早い時刻に桜季は目を覚ます。

 当然ながら本日早起きした理由は琴乃の弁当を作る為。

 本人は遠慮してコンビニで買っていくと言っていたのだが、遠足というイベントにそれは絶対に味気ない。


(良し! 絶対に美味しいの作るから!)


 妹に最高の弁当を。

 そう決意して、身支度を整えた桜季はキッチンへと向かう。

 昨日蓮に教わった通りに卵焼きに取り掛かる。


(気泡をちゃんと潰して……)


 蓮のアドバイスを思い出しながら卵焼きを作る。


(うん! これで大丈夫)


 完成した卵焼きは、昨日初めて作った物とは雲泥の差があった。

 続いて人参のナムルと焼きポテトも完成。

 ローストビーフ用のワサビソースを小分けの容器に詰める。

 そして昨日作ったローストビーフ。


「光井先輩……」


 小さく呟きながら、ローストビーフを切っていく。

 怒るどころか自分の心配をしてくれた。

 謝り続ける自分に『気にするな』と、あんなにも穏やかに。

 胸の奥がじわりと温かくなる。


「だから……今日は、ちゃんと作らなきゃ」



 ✿



「ふぅ……」


 ローストビーフを載せ終え、一度一息入れて汗を拭う。

 時計を見るともう一時間以上が経過していた。


「これで完成。うん、ちゃんとできた」


 目の前の弁当箱を見て充実感が押し寄せる。

 ご飯の上には厚切りのローストビーフ、そして人参のナムルと焼きポテトと卵焼き、付け合わせのミニトマトで色合いも素晴らしい。


「ありがとうございます、先輩」


 完成した弁当を見て、ぽつりと感謝の言葉が漏れる。

 こうして完成させることが出来たのは、昨日蓮が優しく教えてくれたから。

 再度胸の中で蓮に感謝していると、遠くから扉の開く音が聞こえる。

 そちらの方へと目を向けると、ちょうど琴乃が起きて来た所だった。

 パジャマ姿のまま目をしぱしぱとさせ、まだ若干寝ぼけているようだ。


「おはよう、お姉」


「おはよう、琴乃」


 朝の挨拶を交わしたした後、琴乃は一度洗面所へと向かう。

 戻って来た琴乃は多少は覚醒したのか、目を開いて室内を見回す。


「あ、お姉。ご飯の支度ありがとね」


「ううん、気にしないで」


「ってかさ、いつもより早くない?」


 不思議そうに問いかけてくる琴乃。

 確かに母が怪我してから朝食の準備は桜季が行っている。

 とはいえ料理など数えるくらいしか経験のない桜季に出来るのは、せいぜいパンを焼いたり買ってきたサラダやインスタントスープの準備をするだけ。

 大きな手間ではない為に、これまではもっと遅くに起きていた。


「どうしたの? 今日こんな早く……って、あれ?」


 そう言って視線を落とした琴乃がキッチンに置かれている弁当に気が付いた。


「え?」


 すぐにキッチンへと駆け寄ってくる。

 そして弁当箱を指差して固まった。


「……これ、まさかお弁当?」


「う、うん……」


 桜季が自信なさげに頷くと、琴乃は一瞬きょとんとした。

 次の瞬間、目がパッと見開かれる。


「えっ……? なんで…………?」


「なんでって、今日は遠足でしょ?」


「う、うん……。でも、あたしコンビニで買うって……」


「そんなの味気ないから。だから作ったの」


 琴乃は弁当箱と桜季の顔を、何度も繰り返すように見比べる。

 まだ信じられないというように。


「でもお姉、料理なんて出来なかったんじゃ……」


「うん。だから勉強したんだ」


「お姉……………………」


 しばらくぼうっと固まる琴乃。

 そして桜季の胸へと飛び込んで来た。


「わっ!」


「お姉、ありがと!」


 嬉しそうに抱き着く琴乃。

 その表情に、桜季は頑張って良かったと実感する。


「ちゃんと教わって作ったから、味は……大丈夫、だと思う……」


「なに言ってるの! お姉が作ってくれただけでもう嬉しいんだって!」


 そう言いながら桜季の胸の頭をうずめてくる。

 琴乃の言葉に桜季は胸の奥が軽くなる。


「ていうか、とっても美味しそうじゃん! なにこれ、ローストビーフ?」


「う、うん。琴乃、お肉好きでしょ?」


「好き! お姉、ありがとね!」


「あはは、どういたしまして。ちょっと待ってね、朝ご飯作っちゃうから」



 ✿



 放課後、桜季がアパートへ戻った桜季が玄関を開けると、すぐに中から琴乃が姿を現した。


「お姉、おかえり! お弁当ありがとね! とーっても美味しかったよ!」


 まだ靴すら脱いでいないのに飛び込んで来た琴乃の言葉に、桜季は驚きつつも胸が温かくなる。


「ただいま、琴乃」


  琴乃の目は輝いていて、本日の遠足が楽しかったであろうことは間違いがない。


「本当に美味しかったよ! 卵焼きふわふわだったし、それにあのローストビーフ! なにあれ、美味しすぎなんだけど!」


「ほ、本当に?」


「うん! 厚切りなのに柔らかくてさ、ソースのピリ辛具合もお肉に合って!」


「そうなんだ。良かった……」


 胸を撫で下ろし安堵する。

 靴を脱いでリビングへと向かう途中も、琴乃は嬉しそうに思い出を語ってくれる。


「遠足、友達とアスレチックしたりすっごく楽しかったけどさ、やっぱり一番はお弁当の時!」


 そう言って琴乃はリビングのソファにぴょんっ、と飛び乗った。

 ウキウキとした表情で、今日の内容を語りだす。


「お昼になって友達と一斉にお弁当開けるでしょ? そしたらね、隣の子が『え、なにそれ!?』って言ってきてさ」


「そうなの?」


「うん! みんな『お店のやつじゃないの!?』とか『すっごく美味しそう』って!」


「そ、そんなに?」


「そうだって!」


 琴乃は得意げに胸を張る。

 桜季としては、料理経験のない自分が作ったお弁当がそんなに褒められるとは思ってもみなかったので驚きでいっぱいだ。


「で、『お姉ちゃんが作ってくれた』って言ったら、めっちゃ驚かれた!」


「そ、そんなに……?」


「そんなに、だよ!」


 楽しそうに語る琴乃の言葉に、先ほどまで感じていた不安が徐々に晴れていく。

 そんな桜季に、琴乃は弁当箱を取り出して蓋を開ける。

 そこには米一粒すら残っていなかった。


「ほら! 全部食べちゃった!」


 笑いながら告げる琴乃と弁当箱を見て、桜季は頑張って良かったと心から思う。


「それにね」


 琴乃は少し声を落として、こっそり話すように続ける。


「『お姉ちゃん、すごく妹想いだね』って言われたんだ」


「……え」


「だから、ちょっと自慢しちゃった」


 えへへ、と照れたように笑う琴乃。


「そんなに自慢すること?」


「するでしょ。だって、お姉が作ってくれたんだよ?」


 何でもないことのように言われたその一言が胸に響く。

 桜季は弁当箱を受け取り丁寧にシンクへ置く。


「じゃあ、また作ろうか」


「ほんと!? やった、楽しみ!」


 作り方は蓮にレシピも貰ったし、昨日教えてもらった通りになぞれば良い。

 平日の夜は無理だが、時間のある休日に復習がてら作ってみるのも良いだろう。

 くすりと笑い合う声が部屋に広がる。

 料理が得意になったわけではないし、まだ失敗だってするだろう。

 それでも、こうして妹が喜んでくれるのなら――



 ✿



 スーパーで買って来た弁当を夕食に食べ、桜季は琴乃と共用の自室へと戻る。

 琴乃はお風呂に入っている為に、しばらくは自分一人の時間だ。

 椅子に腰を下ろしてスマホのメッセージアプリを立ち上げる。

 相手はもちろん蓮。


『こんばんは』


 送信してすぐ、少しだけ胸がどきりとする。

 ほどなくして既読が付き、すぐに返信が送られてくる。


『こんばんは』


『昨日はありがとうございました 妹も喜んでくれました 先輩のおかげです』


『喜んでくれたのなら良かった でもそれは渡利が頑張ったのが一番だぞ』


 桜季としては間違いなく蓮のおかげだと思っているのだが、こうして自分の努力を認めてくれるその言葉が心地良い。

 自分でも顔が緩んでいるのが分かる。

 それを気にすることなく、桜季は再びメッセージを打ちこむ。


『妹がまた食べたいと言ってくれました 今度余裕がある時に、家で復習として作ってみようと思います』


『そうか、頑張れ なにかあったら聞いてくれて構わないからな』


 こうして自然に優しくしてくれる蓮の言葉に、桜季の胸はじんわりと温かくなる。

 文字だけなのに、まるで隣で見守ってくれているかのような安心感。


『はい ありがとうございます 心強いです』


『無理しないようにな』


『はい おやすみなさい』


『おやすみ』


 これで蓮とのメッセージのやり取りは終了。

 しかしそこに表示されているメッセージを、桜季は繰り返すように眺める。


「お姉、お風呂あがったよー!」


 ガチャリ、とドアが開いて、琴乃が戻って来た。

 風呂上がりということで、肌が少しほてっている。


「ってあれ?」


 すると琴乃が不思議そうな顔をして桜季を見つめてくる。


「どうかしたの?」


「お姉、なんだか嬉しそう」


 蓮とのやり取りを眺めていた時の表情を見られてしまったようだ。

 すると琴乃は何か含むような目を向けてくる。


「お姉、今誰とメッセージのやり取りしてたの?」


 ニヤニヤと期待するような、からかうような問いかけ。

 慌てて画面をブラックアウトさせる。


「あ、もしかして彼氏?」


「か、彼氏!?」


 琴乃の言葉に、一瞬蓮の顔が頭に浮かび、慌てて振り払う。

 決して彼氏彼女という関係ではない、ただの仲の良い先輩後輩というだけだ。


「あ、もしかして図星?」


「ち、違うよ! 彼氏なんていないから! ただの先輩!」


 顔が真っ赤になってしまったのが自分でも分かる。

 別に嘘をついているわけでもないのだが焦りが止まらない。


「ふーん。あ、その先輩って、前に言ってた男の人?」


「そ、そうだけど……」


「ふーん、そっかそっか」


「な……何……?」


「ううん、べっつにー。それよりお姉、お風呂入ったら?」


「わ、分かってる……!」


 別に何も間違ったこともやましいことも無いのだが、これ以上話していると墓穴を掘りそうだ。

 すぐに部屋を出て風呂場へと向かう。

 背後からニヤニヤとした視線を感じながら。



 ✿



「光井先輩…………」


 熱いシャワーを浴びながらも頭の中に浮かぶのは蓮の顔。


(べ、別にそう言うのじゃないから……!)


 これはあくまでも尊敬や憧れ、彼氏彼女とかそういった物では断じてない。

 そう自分に言い聞かせながら、桜季はゆっくりと浴槽に浸かった。

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