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義理チョコキングと頑張り屋さん ~隣の姉妹にご飯を食べさせたら、半同棲生活が始まった~  作者: バランスやじろべー
第一章中編 頑張り屋さんの家族

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第23話 後輩からのお願い

「……渡利?」


 凜の隣でこちらを見ている桜季を見て蓮が声を上げる。

 桜季の後ろでは、不安そうな表情の桜季を支えるように、美鈴が桜季の肩を支えている。

 家庭科部の先輩後輩という関係上、桜季と美鈴が蓮を訪ねることにそこまで違和感は無い。

 しかし昼休みの教室まで尋ねて来るほどの関係でもない為に、何かあったのかと考えてしまう。

 とはいえこのまま席に座っているだけというわけにもいかないので、蓮は廊下の方へと向かった。


「こんにちは、光井先輩。お昼休みをお邪魔してしまい申し訳ありません」


 開口一番丁寧に蓮に頭を下げる桜季。

 正直ここまで礼儀正しい態度をとられるとそれはそれで困惑してしまう。


「いや、別に雑談してただけだから構わないって。どうかしたのか?」


「はい。その……」


 言いよどむ桜季。

 そんな桜季の後ろから美鈴は励ますように背中をパンパンと叩いている。

 美鈴に励まされたのか桜季は顔を上げ、蓮の顔をまっすぐに見上げて再び口を開く。


「すみません。光井先輩にご相談があるのですが……」


「相談?」


「はい……」


 いつもとは違い桜季の顔には少しばかりの陰りがある。

 声の方もはきはきとした感じは消え失せて、絞り出すような細い声色だ。


「ここじゃあ言いにくい事か?」


「はい……。申し訳ありませんが、場所を移動してもらっても構いませんか?」


 蓮の教室の真ん前かつ皆がそれぞれが目立つ人間である為に、ここは話をするには少々適さない場所だ。

 現に今も教室内から好奇の視線がいくつも向けられている。

 時計を確認するとまだ昼休みの終わりまでは時間がある為に、どこか静かな場所へと移動した方がいいかもしれない。


「分かった。それじゃあ移動するか。家庭科室でいいか?」


「はい。お手数をお掛けして申し訳ありません。峰岸先輩もありがとうございました」


「せんぱい、ありがと」


「ああ。気にしないでいいって」


「それでは失礼します」


「失礼しまーす!」


 取り次いでくれた凜にそれぞれ頭を下げる後輩二人。

 そして蓮は二人と共に、家庭科室へと移動した。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 二人に連を取り次いで、凜は教室内へと戻っていく。

 蓮に何の話があるのか気にならないでもないが、とはいえ無理に首を突っ込むことはしない。


「あの子でしょ? さっき話してた二人って」


「確かに二人共可愛かったよねー」


 蓮が消えた教室内では、ただいまの光景を見たクラスメイトがそんな会話を繰り広げている。

 丁度話題に上がっていた為に、タイミングが良いのか悪いのか。


「ミッチーに何の用だろうな?」


「もしかして告白?」


「いやいや、あの調子じゃ告白ってことはないだろ」


「ん-、まあ多分ね」


「凜的にはどうなんだ?」


 すると武夫が凜の下へ向かって聞いてきた。


「見ての通りだろ。あれで告白だったら驚くわ」


 凜は椅子に座りながら首をかしげる。

 確かにこれまで蓮は桜季に対し、色々と教えてきてはいる。

 その雰囲気が堅苦しい物ではなく、仲の良い先輩後輩として、友人としての空気が作られているのも分かる。

 とはいえ凜の見たところ桜季はあくまでも蓮のことを尊敬出来る先輩としてしか見ていないのは、そう外れてはいないだろう。

 それに加えてあの切羽詰まった表情から告白でないことは当然だ。


(じゃあ何なのかって話だけどな……)


 そんなことを思いながら、凜は蓮の出て行った教室の出入り口へと視線を向けた。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「まあここならいいか。どうする、一応鍵を掛けとくか?」


 蓮は話を聞かれないように念には念を入れるべきか分からないのでそう提案する。

 桜季や美鈴としては男性と鍵のかかった部屋に二人きりというのは気まずいかもしれない。

 なのでそこの判断は二人に委ねることにした。


「いえ、大丈夫です。確かにあまり人に聞かれたくはありませんが、聞かれてまずい内容ということでもありませんので」


「サッキーがそうならアタシも構わないよ」


「そうか、分かった」


「お心遣い、ありがとうございます」


 そう言って再び頭を下げる桜季。

 そして相談の内容を口にする。


「その、相談についてなのですが、前置きとして、わたしの母が先日入院してしまったのです」


「入院!?」


 予想外の内容に蓮はつい驚いてしまう。

 その大声に先は一瞬驚いたが、すぐに表情を戻して話を続ける。


「はい。交差点で轢かれそうになったお年寄りの方をかばって。命に別状はないし後遺症もないだろうとのことですが」


「そうか……まあ一安心っちゃ一安心か」


「はい」


 入院と聞いた時は驚いたが、とにかく桜季の母は重体ではなさそうなので不幸中の幸いということだろう。

 とはいえそれは桜季の家庭内の問題であり、蓮がどうこうできるようなものだとも思えない。


「それでですね、これまで家でのお料理は全て母が作っていました。他の家族、わたしを含めて中学生の妹がいるのですが、わたしも妹も料理には縁が無くて、その……現在はお弁当やお惣菜を買って食べているような状況なのです」


「なるほどな」


 恥ずかしそうにその内容を告げる桜季に蓮は頷く。

 とはいえ程度の差こそあれ料理のできない高校生はそこそこ多いとは思っているし、慣れないことをすればそれだけ時間が掛かる。

 あくまでも蓮が例外なだけであり、別に桜季がそれを恥ずかしく思うことはないだろうが。


「つまり相談ってのは料理を教えてくれってことか?」


「はい……。ですがその、今はお弁当やお惣菜で問題ないのですが……」


 桜季の言葉に連は首を傾げる。

 現状それで問題ないのであれば桜季が今すぐに料理を覚える必要は無い。

 にもかかわらず料理を教えて欲しい理由として考えられるのは


「栄養価とかの問題ってことか?」


 そう考えたのだが桜季は首を横に振って否定する。


「いえ、そういったことではありません。むろん今後のことを考えればそれも必要になってくるのですが、差し当たっての問題として、もうすぐ妹の遠足があるんです。なのでお弁当が必要となるのですが、その、お惣菜系だと消費期限の問題がありまして」


 確かにスーパーの総菜等は基本的にはその日の内に食べるように期限が設定されている。

 故に当日の朝に買って来るのは難しいだろう。


「もちろん消費期限を少しくらい過ぎても問題無いとは思うのですが、万一ということもありますし……。一応、コンビニのお弁当という手もあるのですが、せっかくの遠足なのでスーパーやコンビニの物ではなくもっと良いお弁当を用意したいな、と」


「なるほど。そういうことか」


「はい……。こういったことを頼める相手というのが光井先輩しか思いつかず……。非常に申し訳ないのですが、わたしにお弁当の作り方を教えていただけないでしょうか?」


 再度頭を丁寧に下げる桜季。


「せんぱい、アタシからもお願い!」


 同じように美鈴も頭を下げる。

 蓮はこれまでの部活で何度か桜季と話しているし、その活動内容を見ている。

 基本的には真面目であり、普段から真剣に取り組んでいる。

 そんな桜季がこうして(桜季としては)自分勝手な願いを口にするくらい妹のことを大切にしているということだろう。

 形は違えど蓮自身、姉や義兄に色々と優しくしてもらった経験があり、であれば力になりたい。


「ちなみに遠足ってのはいつあるんだ?」


「それが、その……明後日です……」


「明後日!?」


 ということは、事実上準備期間としては今日と明日のみということだ。

 蓮のその言葉に再度桜季が申し訳なさそうに眉を落とす。


「はい……。あ、あの、無理ならば……」


「いや、大丈夫だ。何とかしよう」


 桜季の言葉を遮って蓮は口を開く。

 確かに時間は少ないがやってやれないわけではない。

 なによりこれだけ妹のことを大切にしているのだ。

 姉に大切にされて育ってきた蓮としてはその願いはぜひとも叶えてあげたい。


「光井先輩……」


 蓮の返答により落ち込んでいた桜季が顔を上げ、その表情が明るく変化していく。

 おそらくは困った末に、駄目元で蓮を頼って来たのだろう。

 形の上では単なる部活の先輩でしかない蓮にそう頼むには、相当な葛藤があったはずだ。


「あ、ありがとうございます!」


「ありがとう、せんぱい!」


「まあ明日だな。突発的な部活ってことで家庭科室を使わせてもらうか」


 家庭科部の部活動は基本的に火曜日と金曜日に行っている。

 明日は木曜日であるが、さすがに私用で家庭科室を使うわけにもいかないので形だけ体裁は整えておく必要がある。


「は、はいっ! 本当にありがとうございます!」


「礼を言うのはまだ早いって」


「いえ、本当に感謝しています。部活の後輩でしかない私の無理なお願いを聞いて下さって」


 その言葉に少しばかり蓮が苦笑してしまう。

 確かに連と桜季は部活の先輩後輩同士という関係だけではあるが、だからといって部活内でも普通に話もしているし仲も悪くない。

 それに何度かメッセージのやり取りもした仲だ。

 そんな後輩の願いなら蓮としても手伝うことに何の問題もない。


「一応確認しておくと、好き嫌いとかはあるのか?」


「嫌いな物は無いはずです。好きなものは、お肉、ですね」


「分かった。放課後までにメニューは考えておく」


「申し訳ありませんがお願いいたします」


 再度桜季が深く頭を下げる。


「それじゃあ放課後は買い物だな。一応、部活とは別の扱いだから食材は自腹になるけど」


「は、はい。それは大丈夫ですが……」


「ん? どうかしたのか?」


 歯切れの悪い桜季の態度に、蓮は首を傾げる。

 そんな蓮に対し、横から美鈴が理由を口にする。


「せんぱい。その買い物って一緒に行くってこと?」


「ん……?」


 美鈴の言葉で蓮も桜季が何を気にしていたのか理解した。


「なんならおれが材料だけ買ってきて、後で代金貰っても構わないが」


「い、いえ。さすがにそれは失礼すぎます! えっと、放課後ですね。分かりました。昇降口の所でよろしいでしょうか?」


「ああ」


「あ、せんぱい。アタシも参加していーい?」


「ん? 別に構わないぞ」


 美鈴の言葉に蓮はすぐに頷く。

 下手に異性と二人きりになるよりはその方が良いだろう。


「それじゃあ凜にも声を掛けとくけど問題ないか?」


「あ、はい。私は大丈夫です」


「アタシもだいじょーぶ! それじゃあせんぱい! よろしくね!」


「ああ。それじゃあそろそろ戻るか」


 ふと室内の時計を見ると、昼休みの終わりまで五分程度しか残っていなかった。

 家庭科室からそれぞれの教室まではそこそこ距離がある為に、もうそろそろ戻った方が良いだろう。


「はい。本当にありがとうございました」


 部室を出る蓮に対して桜季は、本日何度目か分からないお礼を言いながら頭を下げた。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「良かったね、サッキー!」


 教室へと戻る道すがら、美鈴が桜季の背中をたたきながら嬉しそうに話しかけてくる。


「うん。本当に先輩には感謝してるよ。いきなりこんなお願いしちゃったのに助けてくれて……」


 もしかしたらなれなれしすぎるお願いだったのではないか。

 これまでに築いてきた良い関係を壊してしまわないだろうか。

 その様な考えも浮かんだのだが、やはりというか蓮はそう言ったことは全くなく、嫌な顔一つしないで受け入れてくれた。

 これで妹のお弁当は何とかなるだろう。


(ありがとうございます、先輩)


 そう桜季は心の中で呟きながら、義理チョコキングとあだ名される先輩の顔を頭に思い浮かべていた。

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