第22話 訪ねてきた後輩
「へー。彼女出来たんか」
「おめでとー」
「ああ。ありがとな」
昼休み、他愛のない雑談の中で、クラスメイトの津田信弘に彼女ができたという話題が上がった。
話題の信弘はまさに幸せと言った感じで、嬉しそうに頷き口を開き説明を続ける。
「昨日の放課後にな」
「部活の後輩だっけ?」
「そうそう。告られてさ」
「マジで? まだ四月だぞ。早過ぎね?」
凜の指摘に蓮もそうだなと思う。
後輩ということはまだ一年生。
四月も終わっておらず、知り合ってからまだ間もないはずだ。
「いや、元々知り合いだったんだよ。近所でさあ」
「あ、なるほど。幼馴染ってことか」
「うん。それで俺の方もまあ……昔から好きだったし?」
「なんで疑問形?」
「うっせえ。照れてんだよ! 言わせんなって!」
軽く怒りながらも楽しそうな信弘。
まあ(おそらく)初めての彼女ということで幸せの絶頂という事だろう。
友人の朗報に蓮も嬉しそうに笑みを浮かべる。
「え、マジ? 信弘に彼女?」
「ほんとー?」
やはり高校生ということでこういった話題に敏感なのか、男女問わずに人が集まって来た。
そのまましばらくは信弘の話題で盛り上がる。
彼女について、どのような子なのか、どのようなところが好きになったのか。
「後輩かあ。俺のとこの後輩も結構可愛いんだよな」
「いや、後輩ってだけじゃ無理だろ。そこに幼馴染って属性が追加されないと」
冗談を言いながら笑い合う男子達。
蓮としてもこういった話題には多少なりとも興味があるので皆の話に聞き入る。
「てか後輩ってことはさ、凜とミッチーのとこも可愛い子入ってたって話あったよな?」
すると話題の矛先が自分の方へと向いてきた。
思わず凜と顔を合わせてしまう。
「なんだそれ。そんな話は聞いたことないぞ。なあ?」
「ああ。オレも知らねえ」
蓮同様に凜も何のことかと首を傾げた。
話があったよな、と言われてもそのようなことに心当たりはない。
しかし男子の何人かはその話題に心当たりがあったのか、そういえば、と頷いている。
「あ、それは俺も聞いたことがある。あれだろ? 今年の主席入学者とその友達」
「なんかいつも一緒に居るよな」
「そうそう。二人共タイプは違うんだけど凄え美人で」
その言葉で誰のことを指しているのかを蓮も理解する。
凜の方もそういう事かと頷いていた。
間違いなく桜季と美鈴の二人だろう。
蓮から見ても二人共容姿が整っており充分に可愛いという形容詞を付けても良いと思っている。
それが普段から二人揃っているのだから目立つのも当然か。
だからといってそれが恋愛感情に結びつくわけでもないのだが。
「それにさ、お前ら二人はちょいちょい部活以外でも絡みあるじゃん。この前食堂で一緒に飯食ってたみたいだし」
「昇降口で話してたこともあったよな」
「んなもん普通の絡みだろうが」
「蓮の言う通りだぞ。部活の後輩と話すのなんて特に違和感ないだろ」
確かに連も凜もあの二人と学校内で話をする時もある。
とはいえそれは偶然出会った時くらいで、特に示し合わせてのことではない。
「まあ絡みはあるわけだろ? そっからの進展ないのか?」
「ない。進展させる予定もない。なあ?」
「連の言う通りだ」
クラスメイトの言葉に連も凜もノータイムで答える。
あの二人のことは気に入ってはいるが、それは異性としてという意味ではない。
「マジかあ。つっても家庭科部なんて男子お前ら二人だけだろ? ハーレム状態じゃん」
「だから何だっての。男女は関係ないだろうが」
凜がそう答えると、クラスメイトの男子達は揃ってはあ、とため息を吐く。
そして何というか微妙にかわいそうな者を見る目を向けてきた。
「お前らそれでも年頃の高校生か?」
「見ての通りだ。おっさんに見えるのか?」
「行動が思春期真っ只中の高校生に見えねえからそう言ってんだよ。いいか、思春期の男子ってのは常に彼女が欲しいと思ってるもんだろうが!」
「そうそう。つか凜なんてその気になればすぐに彼女の一人や二人作れるだろうが」
「その気になっても二人は作らねえよ」
呆れた顔で答える凜。
蓮も凜もそんなに節操無しではない。
「ミッチーだってそうだろ。そりゃあ義理チョコキングとか言われてるけどよ、まあまあ人気あるわけだし」
「……一応、褒めてるんだよな?」
ジト目を向けて蓮が問いかける。
まあ義理チョコキングというあだ名に悪意はないだろうが。
「ほら、部活中にちょっといー感じになったりとかないのか?」
「そうそう。ほら、あの可愛い後輩ちゃん達から『先輩、今度先輩のおうちにお料理を教わりに行っても良いですか?』とかよ」
「あるわけねえだろ。現実とフィクションの境目が分からなくなったか?」
「気持ち悪いし似てない変な声出すな」
無理に高音を作って女子の声をまねたクラスメイトに凜が軽いチョップ。
とはいえ相手も本気で言っているわけではないことは蓮にもわかる。
あくまでもこれは、クラスメイトとしてのくだらない雑談だ。
「大体、男女比で言えば吹奏楽部とかだってそうだろうが」
家庭科部にて男子の割合が低いのは認めるが、他にも男子の方が圧倒的に少ない部活もいくつかある。
蓮の言葉に、吹奏楽部に所属する男子、上川武夫へとクラスメイトの視線が向いた。
しかし武夫は苦笑いしながら手を前に出して横に振る。
「ないない。つかさ、そもそも女子の質が段違いだろ。家庭科部の方がレベル高えって!」
ははは、と笑う武夫に連は呆れて溜息を吐く。
確かに家庭科部に所属する女子の見た目が良いのは認めるが。
それに武夫は一つ大事なことに気が付いていない。
蓮と凜はため息をついて、武夫にそれを伝えることにする。
「女子の可愛さについてはおれの口からは何とも言わないけどよ」
「お前、よく教室内で隠さずに大声でそんな話題出せるな」
「ん? どーゆー意味?」
蓮と凜の言葉が分からず笑いながら首を傾げる武夫に、蓮は少し離れたところにいる女子生徒の方を指さす。
瞬間、そちらを見た武夫の顔が即座に引きつった。
吹奏楽部に所属する女子生徒、宮部詩織と真田芹那が引きつった笑みを浮かべながら歩いてくるところだった。
「げっ…………!」
慌てる武夫だがもう遅い。
二人は既に顔に青筋を浮かべて武夫をロックオンしている。
「へえー。なんか面白い話してるねえ。悪かったね。レベル低くて!」
「よし! シメるか!」
「ちょ待っ……! いてえっ!」
言い訳を言う暇もなく、詩織と芹那による制裁が振り下ろされる。
「こぉの野郎! 誰のレベルが低いって!?」
「上川の分際で人の事言えるツラか!」
「ちょっ、悪かったって! ストップストップ!」
まあ、二人共冗談だということは分かっている様だし、本気で怒っているわけでもない。
多少は思うところもあるだろうが。
「ったく、失礼だよね」
「ほんとほんと」
何発か叩いたところで制裁は解除されたようだ。
呆れた顔で頷き合う詩織と芹那。
そして芹那がぐるりと蓮の方に顔を向ける。
「でさ、ミッチー。その子達、そんなに可愛いの?」
食い気味に問いかけてくる芹那。
詩織の方も興味深々で近づいてくる。
「お前らも話題に入ってくんのかい」
「そりゃあ気になるしね」
「ってわけではいミッチー、答えて!」
とはいえ蓮としてはこれはどう答えるか悩むところだ。
とりあえず当たり障りのない答えを考える。
「さあな。人の外見の基準は人それぞれだからな」
「えー、なんかそう言われると凄く気になるんだけど」
「ミッチー的には?」
「…………どうこたえても角が立ちそうだな。つか凜にも聞けよ」
「いや、ミッチーの方がからかいがいあるし」
「つか峰岸いないし」
「あん?」
いつの間にか、先程までの場所から凜が消えていた。
危機察知していち早く逃げたのだろうか。
ということで、当然ながら話の矛先は蓮一人へと向く。
「ってことでさ、はいミッチー。その子、ミッチーからみて可愛いの?」
「あたしらとどっちが上?」
どう返答してもろくなことにならない質問が飛んでくる。
先程の言葉通り、明らかにからかう気満々だ。
返事に悩む蓮だが、そこへ親友の声が耳に届く。
「おいレン! 客だぞー!」
「客?」
教室の前方から聞こえてきた凜の声。
どうやら逃げたわけではなく、知り合いが訪れていたらしい。
凜の声に、蓮はこれ幸いと立ち上がってそちらへと向かう。
一方で詩織と芹那は邪魔が入って悔しそうな顔をしていたが。
だが、同時に何人かの男子の口から驚愕の声が響いた。
「っておい!」
「え? マジで?」
凜の言葉に、そちらの方を向いたのは蓮だけではない。
蓮を訪ねて来た客を見て、何人かが再び蓮の方へと振り返る。
「おいミッチー! いったいどういうことだよ!」
どういうことといわれてもそれは蓮にも分からない。
廊下では凜の横で、今しがた話題に上がっていた桜季が少しばかり居心地悪そうにして、美鈴と共に蓮の方を見つめていた。




