第19話 ショッピングモールでの邂逅②
蓮と凜はアルバイトを終えた後、部活の買い出しの為にショッピングモールを訪れた。
蓮としてはついでに買いたい参考書もあるし、凜もスポーツショップに寄りたいとのこと。
「さてと、どこから行く?」
「まず本屋。かさばらないのから」
「オッケー」
二人共そこそこ買いたい物があるので、順序を決めてしまう。
人込みの中書店へと向かおうとしたところで、蓮の耳に聞きなれた声が届いた。
「お気持ちだけで結構です」
「――ん?」
ここの所、何度か聞いた女子の声。
凜もそれに気付いたようで、声の方へと振り向こうとすると、今度は別の声が聞こえて来た。
「……あの、アタシ達、待ち合わせしてるんで」
こちらも最近何度も耳にした声。
しかしその声色は普段とは違い、若干強張っているようにも聞こえる。
声のした方向を確認すると、予想通りの二人、桜季と美鈴の姿があった。
その前には年上とみられる男性が二人。
必死に話しかけている男性二人に対し、桜季と美鈴はどう考えても迷惑しているようにしか思えない。
ほぼ間違いなくナンパだろう。
蓮はそちらの方へと足を向けた。
同時に言葉にせずとも凜も同じように足を進める。
確かに桜季も美鈴も外見はすこぶる美少女だし、ナンパ師が声を掛けたいと思うのも無理はない。
とはいえ、今の二人の態度から拒否反応を示していることは理解して欲しいものだ。
いや、理解した上でなお絡んでいるのかもしれないが。
(荒事にならなきゃ良いがなあ……。まあ、そん時はそん時だが……)
蓮も凜も荒事は好きではないが、とはいえこの状況を見過ごすことはできない。
それに、荒事は好きではないと言うだけで、苦手というわけでもない。
もちろん起きないに越したことはないが。
「……あの、アタシ達、待ち合わせしてるんで」
「あ、だったらその相手が来るまでの間だけでも良いからさ!」
「いや、えっと……」
「もう相手は来た。それじゃあな」
蓮がそう口にした瞬間、四人の顔が蓮と凜の方を向く。
一瞬遅れて、桜季と美鈴が驚いたような表情に変わる。
それを気にせずに、今度は凜が口を開く。
「つーわけで、それじゃあ」
女子二人を庇うように、ナンパ師の前に体を入れる。
すると男達は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。
「いや、別に。ちょっと声掛けただけだし」
「邪魔する気はなかったからさ」
それだけ言って足早に去っていった。
ナンパ師二人の姿が見えなくなると、蓮と凜は桜季と美鈴の方へと振り返る。
「なんか状況から割って入った方が良かったと思ったんだが、これで良かったか?」
「せ、先輩……。ありがとうございます……」
「せんぱい、ありがと」
少し震えるように口にする桜季と、落ち着いたように深呼吸する美鈴。
「……大丈夫か?」
「え? は、はい……。あっ……」
「おっと」
一歩踏み出そうとした桜季だが、まだ恐怖が残っているのかバランスを崩してしまう。
慌てて蓮が手を差し出し、倒れるのを防いだ。
「……まだ、大丈夫そうじゃないよな」
「す、すみません……」
「気にするなって。渡利や白川が悪いんじゃないし」
「蓮の言う通りだぞ。とりあえず座っとくか」
とりあえず近場のベンチへと移動し、二人を座らせる。
とはいえ美鈴の方はもう大丈夫そうではあるが。
「いやー、せんぱい、ほんとーにありがと」
「ありがとうございます」
ベンチへと移動すると、二人が律儀に再度お礼を言ってきた。
「気にするなって。なあ」
「ああ。てか二人も買い物か?」
「うん。アタシ達はさっきまで映画観て、それから買い物に行こうと思ったんだけど」
「そこでお店の場所を確認してたら――」
「あの二人に絡まれたと」
「は、はい……」
そう言いながら桜季は立ち上がるが、表情から不安は晴れていないことは分かる。
「あ、あの、先輩……」
「ん?」
「その、ありがとうございました。もう、大丈夫ですので……」
「いや、どう見ても大丈夫じゃないだろ」
「そうだよサッキー!」
蓮がそう指摘すると、美鈴も心配するように同意して桜季の顔を覗き込む。
桜季は申し訳なさそうに俯いた。
「ちなみに、買い物ってのは何を買う予定だったんだ?」
「え、えっと……」
桜季は蓮の顔を見て言いよどむ。
それに対し蓮は、これは聞いてはいけないことを聞いてしまったのか? と不安を感じる。
確かに他人、それに異性に言いたくないような物だってあるだろう。
「あ、悪い。言いたくなければ……」
「い、いえ、そうではないのですが……」
「サッキー、お菓子作りの道具を買いたいんだって。もっと上手になりたいから」
歯切れの悪い桜季の横から美鈴が口を出して来た。
それを聞いて、若干桜季が焦るような表情を見せる。
対照的に美鈴の方は、別に気にしなくてもいいというように笑っていた。
「別に隠すようなことじゃないじゃん」
「そ、そうだけど……、その、光井先輩に対しては、少し恥ずかしいって言うか……」
「いや、別に恥ずかしい事じゃないだろ」
上達する為に練習する。
例え現状は上手でなくとも、それは決して否定されるべきものではない。
むしろ蓮としてはそういった努力をする人間は応援したい。
「凜」
「ああ」
蓮が凜の方を向くと、それだけで凜も言いたいことを察したように頷く。
このまま二人と別れた後、あのナンパ師二人に出くわしたら面倒だろう。
そして蓮は桜季と美鈴の方を振り向き
「じゃあ、おれ達が付き合うよ」
「「え……?」」
蓮の提案に驚く桜季と美鈴。
「え、良いの!?」
「で、ですが……」
嬉しそうに目を輝かせる美鈴に対し、桜季は申し訳なさそうに呟く。
客観的に見れば、自分達の都合でこちらの手を煩わせるようなことになるのでそれも当然かもしれない。
とはいれ蓮としても、この後に再度トラブルがあることは充分想定出来るので、もう少し押してみることにする。
「気にすんなって。それにな、このままだとまたああいった相手に絡まれるかもしれないだろ?」
「……は、はい…………」
先ほどの出来事を思い出したのか、肩を震わせる桜季。
この状態では、まず間違いなく良い対応は出来ないだろう。
「だから気にすんなって。それとも迷惑か?」
「め、迷惑なんかじゃ……!」
慌てて桜季が立ち上がり、一瞬遅れてあっ、と驚いて口元を隠す。
とはいえ桜季の言葉は既に蓮の耳に届いている。
言質は取れた。
「それじゃあ構わないな?」
「は、はい。それでは申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
すぐに二人共肯定の返事を返してくれた。
「それじゃあ行くか」
「うんっ! しゅっぱーつ!」
先に歩き出す凜に、美鈴が元気良く付いて行く。
桜季も落ち着いたのか、ゆっくりと立ち上がり蓮に顔を向ける。
「先輩」
「ん? どうした?」
「ありがとうございます」
そう言った桜季の表情は、先程までとは違いとても可愛らしい笑顔だった。
一瞬、その表情に心が奪われてしまう。
「先輩?」
「ああ、悪い」
歩き出さない蓮を疑問に思ったのか、桜季が振り返って尋ねてくる。
「それじゃあ行くか」
「はいっ」
蓮も笑顔で頷き歩き出す。
そして四人揃って、目的地へと歩き出した。




