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義理チョコキングと頑張り屋さん ~隣の姉妹にご飯を食べさせたら、半同棲生活が始まった~  作者: バランスやじろべー
第一章前編 家庭科部へようこそ

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第18話 ショッピングモールでの邂逅①

 休日のショッピングモールは、家族連れやカップルの明るい声で賑わっていた。

 その中のカフェで、桜季は美鈴と一息つく。


「いやー、楽しかったねえ」


「うん。あんまり期待はしてなかったんだけど」


「映画館の音って凄いよね。家だとあの迫力は出ないよ」


「うん。もう集中しちゃってたよ」


 二人で映画を観た後は、軽くカフェで雑談。

 話の内容は先ほど見ていた映画の事から家庭科部の事へと移っていく。


「そう言えばさ、この前のチョコクランチどうだった? お母さんと妹に食べて貰ったんでしょ?」


 美鈴がストローで氷を突きながら問いかけてくる。


「え? あ、うん。二人共美味しいって言ってくれたよ」


「ふーん。良かったじゃん」


「うん。これも光井先輩のおかげだよ」


 硬くなり過ぎたクッキーを、蓮はいとも簡単にチョコクランチへと変身させた。

 母と妹の美味しいと言ってくれた笑顔がとても嬉しかった。


「その後で光井先輩にお礼を伝えてね」


 そう言って桜季はスマホのメッセージを見せる。


『今日のチョコクランチ、家族に食べてもらったらとても喜んでくれました さくさくで美味しいって言ってもらえて嬉しかったです』


『それは良かった やっぱり自分の作ったものを誰かに喜んでもらえるのって嬉しいよな 次も喜んで貰えるように頑張ろう』


『ありがとうございます 次も頑張ります』


 先日送り合ったメッセージ。

 それを見返して、つい笑顔が浮かんでしまう。

 桜季が美鈴の方を見ると、美鈴は驚いた顔で桜季を見ていた。


「美鈴?」


「サッキー、せんぱいとそんなやり取りしてたんだ……!」


「え? う、うん。やっぱりお礼はちゃんと言っておきたかったから」


「ああいや、それはそう、なんだけど……」


 困ったように考え込む美鈴だが、数秒後、顔を上げてニヤリと笑みを浮かべる。


「ねぇねぇ、せんぱいのこと……気になってる?」


「え……?」


「好きになっちゃった?」


「ええっ……!?」


 予想外の美鈴の問いに、驚いてコップを落としそうになってしまう。

 何とかコップをテーブルに置き美鈴の方を見ると、ニヤニヤとした笑みのまま顔を寄せて来た。


「ね、ね、どうなん?」


「き、気になってなんかないよ! 全然! もちろん感謝はしてるし、先輩として尊敬してるけど……!」


「ふーん?」


「ふ、ふーんってなに……?」


 桜季は両手を胸の前に置いて必死に否定する。

 確かに惹かれてはいるが、それは恋とかそういうものじゃない。

 蓮の手際に驚いたり、少しだけ尊敬したり、逆に言えばそれくらいの話だ。


「にひひっ。それじゃあサッキーをからかうのはこのくらいにしておくとして」


「や、やっぱりからかってた……!」


「あはは、ごめんごめん。さて、それじゃあそろそろ行こっか。サッキー、楽しみにしてたんでしょ? 今日」


 からかうだけからかった後、話題が転換される。


「え、えっと……楽しみに、ってほどじゃ……」


 桜季は両手を胸の前でそわそわさせ、少し目を逸らす。

 そんな桜季に、美鈴はくすくすと笑いかける。


「あるじゃん、その顔。やる気満々って感じ」


 いたずらっぽく肩を突く美鈴。


「そんなことないよ。ただ、部活でやってみて、ちょっとだけ……上手になりたいな、って思っただけで……」


「あはは。まあ楽しかったからね」


「うん」


 先日から家庭科部での活動に参加して、家でも作ってみたい気持ちが芽生えて来た。

 その為に、本日は家でお菓子を作るのに必要な道具を買いに来たのだ。


「で、今日は何買うの?」


「えっと……」


 美鈴の言葉に桜季はスマホのメモを確認する。

 昨日、ネットで色々と調べておいたものだ。


「ボウルとか泡だて器は家にあるから……、ゴムベラとシリコンパットと、それに……」


「それに?」


「……焼き型も、ちょっと……見ておきたいなって……」


「にひひっ。ほらちゃんと調べてる。やっぱり楽しみにしてたんじゃん」


「そ、そうだけど……!」


 桜季が慌てると、美鈴は楽しそうに笑った。

 出会ってから間もないがこうしたやり取りはいつものことで、だからこそ桜季は安心できる。

 やがて二人は大型案内板の前に到着した。


「ええっと、それで、道具ってどこで買うの?」


「えーっと……、あっ、三階にキッチン用品店って書いてる」


「ほんとだ」


 美鈴も隣から覗き込みながら、目的地を確認する。

 桜季は胸の奥がわずかに高鳴っているのを自覚して、こっそり深呼吸した。

 家庭科部で初めて本格的に作ったお菓子。

 持って帰ったお菓子を食べて喜んでくれた母と妹。

 あの姿がまたお菓子を作りたいという気持ちを後押しする。


「じゃ、行こっか!」


「うん」


 そして一歩目を踏み出そうとしたその時――


「ねぇ、そこの子たち、ちょっといい?」


「今から時間ある?」


 背後から軽い調子の声が落ちてきた。

 桜季と美鈴が反射的に振り向くと、二十歳前後くらいの若い男が二人。

 どちらもパーカー姿で、笑みを浮かべながらこちらへ一歩近づいてきていた。


「今さ、どこ行くの? 買い物?」


 軽やかで、悪気はなさそうな調子。

 けれど、距離の詰め方が早い。

 桜季は反射的にびくりと震えてしまう。

 その横で、美鈴がすぐ桜季の手首を軽く引いて前に出た。


「えっと……、何かご用ですか?」


 美鈴の声は戸惑うようで、桜季と同様に余裕がない。


「いやさ、二人とも可愛いなって思って。今から時間あるなら、ちょっと案内してあげようかなって」


「俺ら、この辺りよく来るからさ。おすすめの店も知ってるし」


「お気持ちだけで結構です」


 桜季も勇気を出して口にする。

 しかし相手はその程度で引き下がることもなく、両手を合わせて必死に頭を下げてくる。


「そんな急ぎなの? 別にすぐ済むよ? ねえ、この通り!」


「そうそう、お茶くらい良いじゃん。奢るしさ!」


 桜季は言葉を探す間もなく、視線が泳ぎ、呼吸が早まる。


「……あの、アタシ達、待ち合わせしてるんで」


 そう強張る声で美鈴が告げる。


「あ、だったらその相手が来るまでの間だけでも良いからさ!」


「いや、えっと……」


 その時だった。


「もう相手は来た。それじゃあな」


 低めの、どこか怒っているような声が割り込んできた。

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