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義理チョコキングと頑張り屋さん ~隣の姉妹にご飯を食べさせたら、半同棲生活が始まった~  作者: バランスやじろべー
第一章前編 家庭科部へようこそ

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第14話 家庭科部の活動② ~全国高校スイーツクリエイトグランプリ~

「えーっと、まずは材料の軽量だね」


 蓮から貰ったレシピを眺めながら桜季が呟く。


「オッケー。まずは薄力粉だよね」


「うん」


 秤に容器を置いて、材料を計量していく。

 程なくしてバター、水、砂糖、薄力粉の軽量を終えた。


「材料を量ったら、まずは砂糖とバターを混ぜるんだね」


「えっと、バターは常温に戻すって書いてあるけど……」


「でもこれ、さっきまで冷蔵庫に入ってたやつだよね?」


「うん。まだ少し冷たいし……」


 バターを前に、二人で首をかしげる。

 とはいえ、分からないままにしても仕方がない。


「先輩。あの、バターなんですけど、どうやって常温に戻したらいいのですか?」


「ああ。小皿に移して少しずつレンジで温めればいいよ。ただ、溶かさないよう注意しながら。十秒単位でレンジにかけよう」


「はい。ありがとうございます」


 蓮のアドバイスを聞いて、バターを電子レンジで温める。

 蓮の言っていた通りバターはすぐに柔らかくなった。

 いや、むしろ柔らかくなり過ぎたような気がしてくる。


「えっと、これって温め過ぎた……?」


「ま、まあこのくらいなら何とかなるっしょ! ほらサッキー、次!」


 疑問に思いながらも、次の工程を確認する。


「バターに砂糖を加えて白っぽくなるまでよく練る、だって」


「うん。…………こんな感じかな?」


「そしたら次は、卵黄を混ぜる……。さっき言ってたこれの出番だね!」


 美鈴が卵黄分離機を手に取り、卵を割る。

 程なくして卵黄が分離され、それをボウルへと投入する。


「薄力粉をふるって入れ、ヘラで切るように混ぜる。えっと、こうかな?」


「あ、ちょっと待って! それ、そのまま入れるんじゃないと思う!」


「え?」


 慌てて美鈴を止めようとしたが、時既に遅し。

 薄力粉はすでに半分以上、ボウルへと投入されていた。


「えっと、サッキー、どうしたの?」


「これ、多分このまま入れるんじゃなくて、ふるいに掛けながら入れるってことだと思う」


「あ、ふるって入れるってそう言うことか! サッキー、どうしよう……」


「ま、まあ材料は合ってるから、ちゃんと混ぜ合わせれば大丈夫じゃないかな……?」


 若干不安になりながらも、美鈴を励ますようにそう答える。


「う、うん。それじゃあヘラで混ぜようか」


「うん。えっと、切るように混ぜる、だよね」


 説明に会ったように、ヘラで材料を混ぜていく。


「次は、水を少しずつ入れ、生地をひとまとめにする。えっと、こうかな?」


「ちょっと待って、サッキー! 水はあくまでもまとめるくらいだから。それじゃあこねすぎだと思う!」


「え……? あっ!」


 生地は妙に固い感触になってしまった。

 多分、これは失敗なのだろう。


「ごめん、美鈴。ちょっと失敗しちゃったかもしれない」


「ううん。アタシも失敗しちゃったし。ま、初日だし、それもまた思い出じゃん!」


「う、うん。そ、そうだね……」


 笑って言う美鈴に、その前向きさだけは凄いな、と桜季は少し笑った。



 ✿



 色々と苦労しながらも、生地は完成した。

 三十分ほど休ませてから切り分けて、後はオーブンで焼くだけ。

 美夜と杏奈のペアと共にオーブンへと入れ、そこでやっと一息吐く。


「みんな、順調か?」


 蓮の声が聞こえたので顔をあげると、蓮が凜と並んでこちらへ歩いて来た。

 二人が持つ皿の上には、既に焼き上がったクッキーの山があった。


「え、もう……出来たんですか?」


「まあ、手慣れてるしな」


「そうそう」


 いつも通りに頷く蓮と、どこか得意げに腕を組む凜。

 焼き色は綺麗で、見た目も香りももうそれだけで美味しいと分かる。

 しかも――


「わっ! これ凄い! 色が付いてる!」


 二人の作ったクッキーは、いわゆる小麦色や黄金色だけではなく緑色や黒っぽい色をしている。


「これ、どうやったの?」


「粉に抹茶を混ぜてみた。後はココア」


「そうなのですね。驚きました」


「うわあ、すっごーっ!」


 自分達よりも遥かに早く、そしてアレンジまでしていたことに驚く。


「ひとまず皆でつまみ食いしながら、進捗見る感じにしようぜ」


 そう言って凜がトレーを持ち上げると、周囲の女子達がわっと集まってきた。


「うわぁ、美味しそうー!」


「ししょー、最高!」


「ありがと、いただきます!」


 桜季も小さく手を伸ばし、一枚取る。

 一口かじると、さっくりとした口当たりと、バターの甘さがじんわり広がった。


「……美味しい」


 思わず声が漏れる。

 自然と心が温かくなるような美味しさだ。


「さすが二年生……レベルが違うなあ」


「いやいや、二年が凄いってか、あの二人が凄いんだよ」


 美鈴の言葉に上級生が手を横に振りながら苦笑して訂正する。


「特にししょーの方だよね」


「うん。峰岸も凄いけど、ししょーの方は更にレベルが一段上だしさ」


 他の上級生もクッキーに舌鼓を打ちながら頷く。


「さすがは『全国高校スイーツクリエイトグランプリ』の準優勝者だよね」


「全国高校スイーツクリエイトグランプリ?」


 聞きなれない単語に、クッキーを食べる手を止めて聞き返す。

 すると上級生達は、『あれ、言ってなかったか』と苦笑して話を続ける。


「高校生を対象としたお菓子作りの大会があるんだよ。二人、そこで去年準優勝したんだ」


「「ええっ!?」」


 さらっと言われた事実に驚きの声が口から飛び出す。

 確かにお菓子作りが得意ではありそうだが、まさかそこまでの腕前だとは夢にも思わなかった。

 美夜と杏奈も初めて聞いたのか、口を開けて驚いている。


「うわ、せんぱいそれすげーじゃん!」


 美鈴の声に、蓮と凜は少し恥ずかしそうに照れている。


「おう、ありがと。まあ、ほぼ蓮の手柄だけどな」


「なに言ってんだよ。凜のフォローなかったら作れなかったっての」


「いやいや、レシピとか全部お前が考えてんじゃん」


「凜のフォローがある前提でな」


 お互いに褒め合う二人。

 相手のことを尊重、信頼し合っているのが伝わってくる。


「そう言った大会があるのですね。初めて知りました」


「まあ、野球とかサッカーのスポーツに比べれば、知名度は低いからな。当然、全ての高校が出場してるわけでもない、ってか、出場校自体かなり少ないし」


「オレらだって参加する気は無かったからな」


「え? そうなのですか?」


「じゃあなんで?」


 美鈴の質問に、困ったような表情で言いよどむ二人。

 もしかして聞いてはいけないことだったのか。


「あれ、なんかマズいこと聞いた?」


「いや、そういうわけじゃない。ただな、この部活、オレ達が入部する前までは、実質的に活動してなかったんだよ」


 そう言って蓮が三年生の方に目を向けると、三年生は露骨に目を逸らしていた。


「だからさ、くみちゃんせんせーが言ってた通り、一度潰れそうになったんだよ。そこでオレと蓮、他数名の部員が入ってちゃんと活動をして、それで部活としての体裁を保とうとしたんだけどな……」


「それまでの活動内容が活動内容だったから、それだけじゃ弱いってなったんだ。それで、とりあえず大会に出とけば活動実績は作れるってんで出ることにしたんだよ」


「……えー」


「……そうなのですか」


 先程よりも露骨に視線から逃げる三年生。

 どうやら自分達が思っていた以上に、蓮達が入る前はサボっていたらしい。


「ま、そんなわけで二人共とりあえず参加することが目的だったんだけどね。そのまま予選勝ち進んで全国まで行っちゃったってわけ」


 視線から逃げようと説明する麻美。

 しかしまさかそのような流れから参加して、あまつさえ準優勝という好成績を残すとは。

 お菓子や料理が上手だとは思っていたが、まさかそこまでとは思っていなかった。


「わあ、それマジで凄いじゃん!」


「はい。わたしもそう思います」


「それじゃあ今年は優勝が目標!?」


 美鈴が目を輝かせながらそう言うと、蓮は少し苦笑しながら頬を掻く。


「いや、そもそも参加するつもりはないしな」


「え、そうなん?」


「どうしてですか?」


 昨年、一年生の身でありながら準優勝したのだから、今年は優勝も狙えるだろう。

 桜季もそう思ったのだが、蓮は首を横に振って口を開く。


「誤解の無いように言っておくけど、おれも凜も勝負事ってのは好きなんだ。だから、サッカーとか野球みたいに相手に勝つことを目標とするような競技なら今年も参加したと思う。でもな」


 そう言って蓮は一度言葉を切る。

 隣の凜は何を言うでもなく、蓮の言葉にうんうんと頷いている。


「おれにとって料理ってのは違う。そもそも味の好みなんてのは個人によって違うんだしな。それになにより、おれにとっての料理ってのは優劣を競うよりも、自分が食べて、誰かに食べて貰って『美味しい』って思ってもらえればそれが一番だし、そういう物だと思ってる」


 蓮の言葉に桜季は『ああ』と納得する。

 誰よりも美味しい物を作るのではなく、自分で、そして誰かに美味しいと思ってもらえる物。

 それが蓮にとって大切なのだと。

 今までの蓮の様子から、確かにその方が蓮らしい。

 とそこで、クッキーの焼き上がりを告げるタイマーの音が聞こえて来た。


「さて、話はここまでだ。それじゃあクッキーを取りだすか」


 その怜の声で話は終わり、皆でミトンを手にオーブンへと向かった。

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