表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/29

第5話-4 強者の摂理

 すぐに街の外で客を待っていた馬車を借り、集合地点へと向かう。

 その間、ザイロは気が気じゃなかった。

 大して動きもしない太陽の位置を何度も確認する。

「どうかされましたか」

 その様子を察してフレナが聞いた。街を出てなお、彼女は自らの意思でついてきてくれていた。「先程から落ち着きがありませんが」

「あ、いや……はい、レインというもう一人、仲間がいるんですが、そいつがちゃんと来るか不安で」

「ねえ、どうしてザイロと一緒じゃなかったの」

 落ち込み、膝を抱えているリサがしょんぼりとそう聞いた。

 ザイロは一瞬だけ考える。

「ちょっと……買い物中にはぐれたんだよ。それでなんか悪い予感して、俺だけ戻ってきた」

 今はまだ余計なことは言わないほうがいいと、そう返した。

「そうなんだ」

 リサは突然、笑顔になって頭をかいてみせた。「ご、ごめんねぇ。私、弱くってさ。全然イリオちゃん守れなかった。ダメダメだなぁ、タハハ」

 笑顔と言っても、それは引きつった、悲しい表情を見せないように無理やり作ったものだ。

 どうやらハデムにやられてしまった自分を責めているようだった。

 悔しさからか体が微かに揺れている。

「お前はよくやったよ。一人倒したんだろ」

 二人が襲われた話は道中で聞いている。「ハデムは強くなってた。俺だって一人だったら勝ててたか分からない」

「いやぁ、えへへ。それでも、ごめん」

 肩を落とすリサに、そっとイリオが寄り添った。

 ザイロもそれを見て、拳に自然と力が入る。

 クソ。弱いのは俺だって同じだ。

 俺がもっと強ければ。ドルバーンさんや、シェードさんみたいに……。

 失意の中にいると、「ここかい」と運転手の声とともに、いつの間にか廃棄された牧場に着いていた。

「ありがとうございます。ちょっとだけ待っててください」

「カネをもらえるなら別にいいが……面倒に巻き込まれるのはゴメンだぞ」

 運転手はこちらの雰囲気から、どこかまずい状況なのを理解しているようだった。

「すいません。迷惑はかけませんから」

 それから十分以上の時間が経った後、また太陽を睨みつける。

 日没まであと……三十分か? いや、完全に暗くなる前に出ないといけない。

 流石にもう待てない。

「みんな、ちょっと悪いけど降りてここで待っててくれるか。俺、アイツを迎えに行ってくる」

「あの、ザイロさん」

 それにイリオが珍しく問いかける。「どうしてそんなに、焦っているのですか? レインさんとは、ただはぐれただけなんじゃ。どうしてこんなところで待ち合わせを?」

 ぐっと言葉を詰まらせるザイロに、イリオは続ける。

「襲ってきた男の人ですが……理由は分からないですが私を狙っているようでした。これは、私の勝手な想像かもしれないんですが、もしかして……私が――」

「あ! 来たよ!」

 イリオの問いかけを、リサの声がかき消した。

 見ると街の方から、急ぎこちらに向かってくるレインが見えた。

「まだ出てなかったのか。もう日が落ちるぞ」

 到着してすぐ、息を切らしながらレインが言った。

「お前を待ってたんだよ。さっさと乗れよ、行くぞ」

「俺は待つ必要はないと言ったぞ」

「言い訳はいいから早く乗れ!」

 レインが飛び乗ると馬車はすぐに出発した。

「レインさん、血が」

 イリオは心配そうにその首を見て言った。

 切り裂かれた皮膚から吹き出ている血が、服を汚している。

「気にするな、かすり傷だ」

 そう言って、レインは首の血を手で拭った。

 深くはないが長い切り傷だ。そのため血が止まらない。

「それよりも、追手が来ている。もっと馬車を急がせられるか?」

「追手、ですか……あの、こんな時に聞くことじゃないかもしれないですが、どうして追われているのでしょう。もしかして、敵の目的は私なんじゃないんでしょうか」

 レインはすぐに返答しない。一拍の沈黙。

「どうしてそんなことを聞く」

「ナイフを持って、私を連れ去ろうとした方がいたので。リサさんが倒してくれましたが」

 瞬間的に、ザイロはレインと、微かに視線を交わす。

 ここまで来ると、もう隠し切れない。

「イリオ、実は――」

「カネ目当ての賊だ」

 ザイロがすべてを語ろうとした時、レインがそれを遮った。「こいつが身の丈にあってない大金を持ってたからな。それがバレて街で固まっていた賊に狙われた。イリオが狙われたのは、カネと交換するための人質目的だ」

 敵の目的が彼女と分かると、イリオは自分を責めてしまうだろう。

 それが分かっていたレインは、とっさに嘘をついた。

「そう……ですか」

 腑に落ちてはいなさそうだが、イリオはそう言った。「それは、大変でしたね。申し訳ないです、弱いばかりに狙われてしまって」

「イリオが悪いわけじゃない。どんな街にも、そういう奴らはいる。気にするな」

 レインが向けてきた視線に、ザイロは感謝の気持ちとともに頷いた。

 理由の分からない今、無駄に心労をかけるべきじゃない。

 それに、イリオが絶対に悪いわけではない。その確信が二人にはあった。

 馬車はザイロたちが来た道を戻っていた。追っ手から逃れるために仕方がなかったが、どこかで方向転換をし、サルディから離れながらもそれを越えてミヘルドに向かわないと。

 しかし、

「クソ、来たか」

 レインが後方に目を凝らして言った。

 追っ手が数名、馬に乗ってこちらを目指していた。

「俺の魔法で狙えるか?」

 ザイロが後方に乗り出して、砂鉄を宙に舞わせる。

 それは眼の前で黒い塊を作った。

 砂鉄をクルミ大に固めて発射する技。

 木を揺らすほどの威力はあるが、もともと命中率が高くない上に移動する馬車に乗っている。

 しっかり狙いを付けなければならない。

 集中力を高めていると、不意に馬車の速度が落ちていく気配がした。

「おい、何をしている。速度が落ちているぞ!」

 レインが迫るも「そんなもん知るか!」と返事が返ってきた。

「俺は言ったぞ、面倒に巻き込まれるのはごめんだって。俺はあんたらの仲間じゃねぇ。追手が来るってなら馬車を止める」

 残念だが運転手の言っていることは正論だ。彼には、追われている俺達を逃がしてやる義理がない。

 どうする。ここで止まって追手たちを倒すか。

 ゆっくりとなっていく馬車を感じながら、そんなことを思案していると、フレナが隣に立った。

 流れる風が、彼女の漆黒の髪をなびかせる。

「運転手さん。ご安心なさってください。追っ手は来ません。彼らを目的地まで運んでいってあげてください」

「フレナさん」

 その意味を察し、ザイロは言った。「助けていただいたこと、本当に感謝しています。でも、今日、偶然出会っただけのアナタにそこまでしてもらうのは」

「いいんです」

 乙女は優しく微笑んだ。「理由なんて、必要ありません。私は好きなんです、困っている人を助けるのが。あなた達のような優しい人たちを、放ってはおけません」

「フレナさん」

 ザイロはぐっと奥歯を噛むと、また見上げた。

 今は彼女の力にすがるしかない。

「ありがとうございます」

 深々と頭を下げるザイロ。

「この恩は忘れません。ありがとうございます」

「ホントに、ホントにありがとね!」

 後から続くイリオとリサに「誰かは知らんが、助かった」とレインは小さく呟いた。

「フレナさん。また会いましょう。必ず」

「ええ、その時を楽しみにしてます」

 そう言って、乙女は飛翔した。

 両手を広げると、薄暗くなり始めた空を、炎翼が照らす。

 吹き荒れる熱風が遠ざかる馬車にまで届き、ザイロの頬を熱く撫でる。

 翼は馬に乗る追手を覆い、その身を焼いた。

 のたうち、地面に転げ落ちる者。それに目もくれず、次なる追手を静止して待つ紅蓮の乙女。

 馬車は無情にも速度を上げ、彼女の姿を遠ざけていく。

 その強く勇ましい背が地平に消えるまで、ザイロは強い眼差しを向け続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ