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第5話-3 強者の摂理

 刀を抜き、神妙に向き合う二人。

 市街地だ。周りにはちらほらと人がいるが、彼らは今にも斬り合いそうな異様な雰囲気を感じ、距離を取ってレインとソフィナを見ていた。

 これは構えと呼べるのだろうか。

 腰を落とし、いつでも斬れるように準備するレインに対し、ソフィナは直立。

 剣を右手に持ちながらもまっすぐに、ゆっくりとこちらへと進んでくる。

 独特な流派か。それとも、こちらの油断を誘っているか。

 魔力は感じないので魔法使いではなさそうだった。

 それならこちらに分がある。

 二人の位置は刃圏より少し外。だが魔法で斬撃範囲を広げれば当たる。

 レインは一歩踏み出して刀を振るった。

 ちょうど、切っ先が相手に当たる距離。皮を切れても骨は断てぬ攻撃だ。

 多くの者は体を後ろにして躱す。それを、伸びた刃が斬り裂く――はずだった。

 ソフィナは右足を横に広げ、頭を下げて不可視の刃を躱す。

 息を呑むレイン。

 この女。見えているのか。

「魔法か」

 そう言ってソフィナは一歩踏み出す。双方、死のよぎる間合い。「その程度で、私を倒せると思うな」

 頭めがけてやってきた刃を、レインは刀の根本で受け止めた。

 ソフィナの持っている剣は、いわゆるロングソード。

 斬る他にも、鎧に対して打撃として効かせたり、防御も行えるように重さのある物だ。

 対し、レインの武器は日本刀に近い。

 斬りや突きに特化した刀は、相手の攻撃を受けるのに適していない。

 ソフィナの攻撃には相手を崩すために、力と重さが効率よく剣に込められているのを感じた。

 レインは後ろに押され、体勢を崩す。

 まだ距離は刃圏内。

 崩しながらも次の斬撃を防ぐため、相手の剣の動きに集中していた時、次に来た攻撃は足だった。

 前蹴りだった。槍のような鋭い足先がレインのみぞおちを抉る。

 剣の方に集中していたので、その攻撃は一切見えることもなく、不意の苦しみに手から剣が落ち、そのまま膝をついた。

 ピタリと、剣先が首にあてがわれる。

「終わりだ。死にたくないなら答えろ。貴様はイリオ・ハイメインのことを知っているな? どこにいる」

 レインは歯を食いしばる。

 苛立っていた。自らの弱さに。

 剣を持った同士の戦闘では斬撃に集中していればいいと思っていたが、それは浅い考えだった。

 打撃のほうが有効な時もある。まさにさっきのように。

 それだけではない。剣の技量でも、ソフィナは上回っていると一撃で感じられた。

 俺は一体、どこまで弱いんだ。

 自身に落胆している中、切っ先が首にぐっと押し込まれ、一筋の血が流れる。

「三つ数える間に答えろ。首をはねるぞ」

 痛みが引いて苦しさがなくなってくると、顔を上げてソフィナと面を合わせた。

「イリオか。そうだな、彼女の場所なら」

 そう言いながら、レインは首を剣の方に押し込んだ。

 切っ先が肉を裂き、更に血が流れ出す。

「貴様っ、何をして――」

 動揺し、とっさに剣を引くソフィナ。

 その隙を逃さず前に出て、拾った刀の柄を突き出し、ソフィナの腹に打ち込んだ。

 うめき声を漏らしながらも、刃圏の外に出るソフィナ。

 相手とてイリオの手がかりである自分を殺したくないはず。そう考えての賭けだったがうまくいった。

 ソフィナは苦しそうに腹を左手で押さえるも、臨戦態勢を解かず、視線はレインから離さない。

 好機と見て刀を二度、振るうも、焦りのある太刀筋を見切られたか、簡単に防がれてしまう。

 その後、痛みが引いたかソフィナは呼吸を取り戻す。

 打撃によるアドバンテージはなくなり、元の状態に戻る。

 ジリジリと、視線を交わしながらもゆっくりと距離を保つ二人。

 悔しいがこの女には勝てない。

 レインは不意に横に走り出し路地に入る。

「待て! 逃げるか貴様!」

 後ろからソフィナが追ってくる。

 逃げるのは癪だ。それなら、戦って死んだほうがマシだとも思う。

 だが、今はまだだ。

 レインは走りながらも空を見上げる。

 日没までまだもう少し時間がある。

 日が落ちればアイツらは先に進むだろう。その後は――

 瞬間よぎる三人の顔。

 ……その後のことは、その時に考えればいい。



「お二人とも、大丈夫ですか」

 突如として現れた名前も知らない、紅蓮の乙女は背を向けながらもそう語る。

「ありがとうございます、大丈夫です」

 イリオはすぐにリサを立ち上がらせて、礼を言った。

「ここでは私の全力を出せません。早く外に――」

 迫り来るハデムの掌底を、乙女は交差した腕で防御するも、うぐっと、痛みを堪えるような声とともに、後ずさる。

「ダメ!」

 様子を見てリサが叫ぶ。「そいつの掌に触れると、捻られちゃうから!」

 ハデムの使う物体を捻じる魔法、『ネビル』では体で防御しても、ダメージが通ってしまう。

「ネタバレすんじゃねーよ!」

 隙を逃さず追撃するハデムの攻撃を、乙女は避けた。

「触れれば終わりは、こちらも同じです!」

 ハデムの左肩を突く乙女の拳は、強い炎で燃え上がった。

 服は焼け落ち、焦げた匂いが廊下を充満すると、赤くなった皮膚があらわになる。

 痛むのかハデムは右手でそこを掴んだ。

「決めたぞてめぇ。ザイロの前にお前だ、お前を殺す」

「どうぞ、できるものなら」

 左手を前に構える乙女。

 攻撃を受けて防御した右腕を庇うように隠しているが、その指先が微かに痙攣しているのが見えた。

「リサさん、逃げましょう」

 自分たちがいては足手まといになる。

 そのことを察して二人はまた借りていた部屋に戻る。

「待て女!」

 迫ろうとするハデムを、炎拳を振って制する乙女。

「急いで!」

 出入り口までの道は通れない。なら、小さめではあるが窓から逃げるしかない。

 小走りで窓を開けて外に出る。

 リサはちょっとお尻が詰まってしまったが、イリオがすぐに全力で引っ張りなんとか出られた。

「二人とも無事か!」

 外に出るとすぐに聞こえた声。

 顔を向けるとザイロが走って来ていた。

「ザイロさん、あの、私達さっき襲われまして。まだ追っ手が来てます」

「ハデムがなんか追ってきてるよ。なんか、知らない女の人が助けてくれたんだよ!」

 二人が状況を説明すると、ザイロの目の色が変わった。

「ハデムが?」

 そう言った瞬間、イリオの背後から大きな音が鳴る。

 振り返ると、大砲を打ち込まれたのかと思うほどに、宿屋の壁が粉砕されていた。割れた木片が地面に広がり、その真ん中に血を流す乙女が倒れていた。

 名を呼ぼうと思ったが、イリオは彼女の名を知らない。

「おー、ザイロじゃねぇか。やっと見つけた」

 木片を踏みながらも出てきたハデムは、ザイロの顔を見て笑った。

 それをザイロは睨みで返す。

「ハデム……なんでお前、ここにいる」

「どーでもいいだろ、そんなことは。俺はなぁ、お前らを殺すために、何回も、何回も、何回も死にかけた! 順番は決めてんだ。まずはお前。次はレイン。あとは適当に女どもを殺す」

「させないと言ったでしょう!」

 不意に立ち上がって炎の手刀を乙女が見舞うも、簡単に躱されてしまった。

「バレバレなんだよ!」

 そう言ってハデムは胸元を蹴り返す。

 衝撃と痛みで体勢を崩す乙女。すかさずハデムが掌を当てようとした時、二人の間に黒い槍が突き刺さり動きを止める。

 放ったのはザイロだった。槍は砂鉄で棒状に固めた物。

「まずは俺を殺すんだろ。順番は守れよ」

「うるせぇな、こまけぇことはいいんだよ」

 そう吐き捨てて、ハデムは力を込めた右手の指をパキパキと鳴らす。「最終的に、全員殺せればそれでな」

 乙女は一旦後ろに下がり、ザイロの隣に立った。

 黒槍は霧散し、流れるようにザイロへとやってくると、周りを漂った。

「助かりましたわ。ザイロさん、と言いましたか」

「こちらこそ、誰かは知らないがありがとうございます。お名前は?」

 乙女は一瞬、迷ったような間を挟んだ。

「名乗るほどのものではありませんが、フレナとお呼びください」 

「名乗るほどの人ですよ、アナタは」

「自己紹介は終わったか」

 肩を揉みながら余裕ぶってハデムは近づいてくる。

「次はお前だよ」

 ザイロは再度砂鉄を集め、棒状にして両手に掴んだ。「紹介してやれよ。手が使えない男に、足だけでぶっ倒されたってさ」

「死ね、ゴミが!」

 ハデムの両手から発露する魔力。

 それを圧縮したかと思うと、見えない球体を持つかのように両手を前に出した。

「避けて!」

 同時に叫んだフレナ。

 とっさに横に飛ぶと、隣を強烈な見えない力が通り過ぎ、土煙が上がる。

 煙が晴れると、ハデムの手から一直線に伸びるように、石の地面が弧を描いてえぐられていた。

 おそらく『ネビル』を空中に発動していた。

 威力も凄まじい。これでさっきの壁を破壊したのだろう。

 ザイロの記憶が正しければ、触れていなければダメージを出せなかったはずだ。

 こいつも成長をしている。

「威力はありますが、あれにはタメがあります」

 避けながらもフレナは左手を前に出し、そこから炎が上下に広がり、弓の形状を作る。「一気に詰めてください!」

 右手で炎をつがえ、火の矢を発射した。

 高速のそれをハデムは避けるも、そこに近づいたザイロが棒攻撃で追撃する。

 頭を狙ったそれを寸前のところで、腕で防御するハデム。

 別に棒術は得意じゃないが、これならハデムの間合いの外で戦える。

 近と遠のバランスの取れた攻めに、ひたすらハデムは受けに回る。

 しかしながら状況はよくない。

 隙を見て火の矢を放つフレナも、コンビネーションを取ったことのないザイロとではうまくいかず、遠巻きに見ている民衆にも当たらないよう、気を遣わなければならないので思うように攻撃できない。

 ザイロも戦闘経験が乏しく、なかなか強力な一撃を当てられない。

 その状況を理解しているのか、ハデムは冷静だ。

 致命傷を負わないように守りながら、反撃のタイミングを見ている。

 下がっていくと民衆との距離が縮まり、フレナの動きが鈍るのを感じた。

 ハデムの口角が少し上がる。

 しかし、次のザイロの攻撃。肩を狙った棒の打撃。

 それをハデムが防御した瞬間、棒は霧散し、鉄の粒となって宙に舞う。

「武器は苦手でよ。どっちかってと――」

 ザイロが砂鉄を再収集し、両手に纏わせると、それは黒の鉄拳と化した。

 防御の想定をしていたハデムはとっさに動けない。

「――こっちのほうが得意だ!」

 一歩踏み込んだザイロの鉄拳がハデムの腹にめり込んだ。

 目をひん剥き、ぐっと歯を食いしばって下がるハデム。

「ザイロさん伏せて!」

 即座に伏せると、跳躍したフレナが上から火の矢を放つ。

 それはハデムの足をかすめて地面を燃やした。

 直撃はしなかったが機動力を削ぐのには十分なダメージだ。

 勝利の予感。

 それを感じて距離を詰めようとしたが、

「クソカスが!」

 再度、両手に魔力を溜めるハデム。

 またあの遠距離への攻撃かと思い身構えたが、今度は両手を地面に当てた。

 瞬間、強烈な地割れの音とともに、石の地面がハデムの両手を中心に渦を巻くように割れた。

 揺れにザイロは体勢を崩して、地面に手を置く。フレナも同じだ。

 とっさに立ち上がり体勢を整えたときには、すでにハデムは消えていた。

 分が悪いと考えたのか、こちらの隙を作って逃げたみたいだ。

 別に問題ない。アイツを倒すのが目的じゃない。

「みんな、早く行こう」

 振り返ってイリオの元にザイロが駆ける。「外でレインと待ち合わせてる。集合次第、さっさとミヘルドに向かう。緊急事態だ、もう馬車を借りていこう」

 空を見て眉を顰める。

 日没までそれほど時間はない。

「あの、ザイロさん。いったい、何があったんでしょうか?」

 蒼白になりながらもそう問うイリオに、ザイロは言葉を詰まらせた。

 狙いはイリオだと言えば、彼女はどう考える。

 そう思うと、うまく言葉が出なかった。

「それはっ……説明は後だ。今は待ち合わせ場所に急ごう」

 ザイロは説明を拒むようにそう言うと、二人を連れ街の外へと走っていった。

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