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第3話-2 漆黒の証

 翌朝。

 シェードに依頼の受理を伝え、すぐにレインと共に洞窟にやってきた。

 受付嬢はまさかこの依頼を行う人間がいるとは思っていなかったのか、かなり驚いていた。

 特に話をしなかったが、レインはまだ納得がいっていない様子だ。

 リサは口を開けば飯の心配ばかりするので、うるさいから置いてきた。

「すまない」

 洞窟に入る直前、シェードが申し訳無さそうにいった。「自分でも、無茶な依頼であることは承知しているんだ。報酬は必ず払うよ。本当にすまない」

「まあ、そんな気にしないでくださいよ。俺はやりたいからやるんです。自己満足ですよ」

「ありがとう。君は素晴らしい人だ。ぜひ、僕の彼女に紹介したい」

 この人、ちょっと天然だな。と思いながら「それはどうも」となんともいえない顔で返した。

 松明をそれぞれ持った三人は、薄暗くジメジメとした洞窟に入っていった。

 その足元で、岩陰に隠れていたいくつかの小蜘蛛が、様子を監視していた。



 傭兵協会、デナド受付場。

 書類の管理に依頼の受付。それらを数人でこなすため、毎日がせわしない。

 が、一人の受付は受理された依頼書を見て、数秒止まっていた。

「ねえねえ、ちょっと!」

 受付のアイネが、同じくローネにそう声をかける。

「なに! いま依頼対応してて忙しいんだけど!」

「一瞬だけ! この依頼、受理されたの」

 アイネが書類を見せた。

「うん。レインと知らない男が受けてたよ」

 アイネは改めて書類を見た。

「この、渓谷に落ちた女性って書いてるけど、渓谷につながる洞窟って、ここに書いてるレディナ洞窟じゃなくない」

 ローネが書類を取り上げ、じっと見る。

「そうかも。北の洞窟って書いてるけど、検査の人が内容を見落としてた?」

「こんなメチャクチャな依頼、誰も受けないと思ったのかもね」

 そういって、アイネは本棚にある一冊の本を広げた。

 周辺の洞窟や森の危険度をまとめてあるものだ。

「カバ……違うな、これは小さすぎ。ジビート洞窟は最近、倒壊があって入れなくなった……ってことは」

 アイネが指さした箇所を見て、二人は顔を白くして見合わせた。

「イニディ」

 ローネがポツリというと「ヤバイヤバイヤバイ!」とアイネは受付場の外へと駆けていく。

 本にはこう記載があった。

 イニディ洞窟。イービルスパイダーの巣。依頼可能級、二等級二人以上を含めた五名以上。



 洞窟というものに初めて入った。

 あまり広い空間ではなく、人が二人並ぶと窮屈に感じるぐらいだ。

 直径でいうと三メートルぐらいだが、圧迫感からもっと狭いように感じる。

 視界は悪く、先もよく見えない。

 振り返るとシェードが付いてきていた。その後ろにあった入口はもう見えなくなっている。

 不安だ。密閉空間は別に苦手な方じゃないが、それでも恐怖が湧いてくる。

 だというのに、前にいるレインはどんどんと先に進んでいく。

「よく行けるな。怖くないのか」

「いや、静かでいい。お前は怖いのか」

 後頭部しか見えないが、レインがほくそ笑んでいる気がした。

「普通は怖いだろ。酒場も入れないやつが、よく進んでいけるよ」

「違う。俺は騒がしいのが苦手なんだ。苦手なだけだ、入れないわけじゃない」

「そうかよ……おい、待て」

 目線の先の影。それが少し動いたような気がしてレインの肩に手を置いた。

「どうした。怖くて進めないか」

「違う。なにか動いた」

 レインはゆっくりと松明を床に置くと、刀を抜いた。

「気のせいじゃないだろうな」

 レインの顔がこわばる。さすがに緊張があるようだ。

「俺がビビってて、神経質になってるっていいたいのか。それならいいんだけどな」

 ザイロはレインの隣に立ち、姿勢を低くしながら一緒に進む。

 数歩、進んだ後、二人はピタリと静止する。

 人影。地面に寝転んでいる。

 近くに渓谷らしき場所はない。目的のミレナではないだろう。

 影は一切、動かず、じっとしている。

「あれをどう思う」

 レインが聞いてきたが、その言葉の裏には、自分と同じ考えがあるような気がした。

「昼寝に適した場所じゃない……洞窟もそれなりに進んだ。そういうことだろう」

「まぶし」

 むくっと起き上がった死体を見て、二人は言葉を失う。

 黒髪の長い女だった。地面についていた髪の毛が、土で汚れている。

 眠そうな目をしていて、片目が長い髪で隠れていた。

「ちょっと、眩しいって」

 起きた女は手を顔の前に出して、松明の光を抑えている。

 二人は目を大きく開いて喋れなかった。

 こんな場所にある動かない人影など、どう考えても死体のハズだ。

 この人は何だ。亡霊かなにかか。

 そう思っていると「君は、ミネルか」とシェードが言いながら前に出た。

「シェードじゃん、こんなとこで何してん……ああ、いい。聞くのめんどくさ。なんでもいいや」

 そう言ってまた寝転びだした。

 だいぶ話がこんがらがってきたので、シェードに話を聞くことにした。

 彼女の名前はミネル・アーランス。地質学者でシェードの知り合いだ。

 ここにいることはシェードも知らず、出会ったのは偶然のようだ。

 性格は極度のめんどくさがり屋。

「こんな洞窟の暗闇で寝てるなんて、すごい人だな」

 ザイロは言葉とは裏腹に、半ば呆れた様子で言った。

「ああ、僕のミレナほどじゃないが、彼女はほんとにすごいよ。おそらく、ここの地質を調べていたんだと思う。調べに入ったら、出るのが面倒になって一月は出てこないんだ」

 ほんとにメチャクチャな人だ。

「ねえあんた」

 突然、ミネルに話しかけられ、驚いてザイロは振り返る。

「え、はい」

 ミネルは寝転んだまま、視線をザイロに向けていた。

「あんた名前は……どうでもいいや。シェードの知り合い?」

「いや、依頼主と傭兵です」

「傭兵?」

 ぼーっとしているような、考えているような間を作る。「ふーん、言っとくけど、ここの洞窟……まあいいか」

 なにか今、重要なことをいいそうだったが、面倒がってしまった。

「魔法使いよね……なーんか特徴的な魔力してる。おんなじタイプかな。能力なに」

 魔法に特徴やタイプが有るのかと思いながら「磁力を操れます」と答えると、ミネルの眠そうな目がぐっと大きくなる。

 起き上がりはしないが。

「えぇ! いいなぁ~、磁力に強く反応する珍しい鉱石とかあってさ、使えたらいいなぁって思ってたんだ。うらやまし。砂鉄持ってる?」

「砂鉄?」

 不意の質問にザイロは首をかしげた。「いや、持ってないですけど」

 そう返すと、ミネルは地面を押して、上体を上げた。

「変なの。磁力操作の魔法なんて、砂鉄を操る魔法だよ」

「あんたに変とか言われたくないですよ」

 しかし、砂鉄を操るというのはいいアイディアだと思った。

 変形させたり、圧縮させて固めたり、いろいろな用途で使えそうだ。

 ミネルは腰に手を当て、探し物をする。よく見ると、ベルトにいくつもの小袋が付けられていた。

「あった、これだ」

 一つの小袋を取り外して、ザイロに渡す。「これ、砂鉄。あげる」

「え、いいんですか」

「うん、外すの面倒で付けてただけだから」

「ありがとうございます」

 礼をいうと早速、磁力操作を行ってみる。

 砂鉄は袋から煙のように立ち上り、ザイロの周りを取り囲む。

 ぐっと一点に集中させると、それはいびつな形の球体となった。

 すごい。思ったように動かせる。

 これをぶつけたり、やりようによっては刃物のような形状にできるかもしれない。

 そうなれば戦闘方法は無限大だ。剣で戦うよりも可能性を感じる。

 固めたり、伸ばしたり。少しの間、砂鉄を操るのに夢中になっていると「おい」とレインに呼ばれた。

「今は依頼中だぞ。忘れるな」

 ハッとしてレインの方を見ると、空中に舞っていた砂鉄が一斉に地面に落ちた。

「悪い悪い」

 ザイロは謝って、落ちている砂鉄を磁力で集めて、袋になおした。

「ちょっといいかな、ミネル」

 シェードが少し申し訳なさそうに言った。「僕は彼らに依頼をしたんだが、報酬のおカネがないんだ。君が代わりに工面してくれないかな」

「報酬がない? それで受けたんだ」

 ミネルはザイロの顔を不思議そうに見た。「随分なお人好しね。まあ……はい、あげる」

 袋からガバっと鷲掴みで取り出したカネを、ミネルはザイロの手に置いた。

 それは金銀銅の硬貨が混ざっており、依頼料にしてはかなり高額だった。

 取り出した袋はほぼ空になっている。

「いや、ちょ、多いですよ。こんなに貰えない」

「ん? 確かにちょっと多……まあいいや、もらっといてよ、重いし」

 これはもう、面倒くさがり屋の範疇を超えてないか?

 その後、何度か確認もしたが、とりあえず良さそうだったので、これは依頼料としてもらうことにした。

 ミネルはまだ眠いということで残るようだった。

 本当にこんなところで寝て大丈夫なのかシェードに聞いたが、まあ大丈夫らしい。

 洞窟を進む中、ザイロはまだ興奮状態にあった。

 ウズウズした。もっと砂鉄を操るのを練習したい、何ができるのかを知りたい。

 無意識に袋の中の砂鉄を、ペン回しのように操作していると、突然止まったレインの背中に顔をぶつけた。

「痛って。おい止まるときは言えよ」

「ぼーっとしてるだけだろ、集中しろ」

 緊張感をもったレインの声に、ピリッとした空気を感じた。「ザイロ、鉄球はあるな」

 刀を抜くレイン。

 ただならぬ雰囲気に、ザイロもポケットの中に入れていた鉄球を取り出し、隣に立って戦闘態勢に入る。

 暗闇に目を凝らす。

「何かいたか。また人か」

「いや違う……明確に動いていた」

 カサカサと土の上を何かが動く音が聞こえる。

 それも一つではない、複数。

 暗闇に目を凝らすと鈍い黄色い蛍光色が見えた気がした。

 そして、それはこちらに襲いかかる。

 光に照らされて姿が分かった。大きい蜘蛛。

 普通じゃない。全長で50センチほどある、異常に大型のものだ。

 ザイロはその異質な光景に硬直すると、瞬間にレインがその蜘蛛を両断し、黄色い蛍光色の血液らしきものが吹き出た。

「何をぼーっとしている。魔獣だ!」

「悪い」

 顔色悪くザイロは謝った。

 魔獣。魔力にあてられた獣や虫のことを指す言葉。

 言葉では知っていたが出会うのは初めてだし、ここまで大きくなった昆虫が、突然目の前に現れると不快感が強い。

 まだ前の暗闇の中に、目のような黄色がいくつか。

 二匹以上はいそうだった。

「俺の能力じゃ捉えられそうにない」

 そう言ってザイロは一歩後ずさる。

「問題ない。これぐらいなら俺だけでも大丈夫だ」

 レインは剣を振って、蜘蛛の血を払った。「お前はシェードを守れ」

 ザイロは頷いて後ろに下がり、前衛のレイン、後衛のザイロで陣形を取る。

 次に暗闇から飛び出てきたのは、白い糸だった。

 身をかがめて躱すと、それは天井にへばりつく。

「この蜘蛛、糸を飛ばしてくるのか」

 糸を使うのはなんとなく理解できるが、飛ばすような昆虫ではない。

 そんな理屈は魔獣の前には通用しないらしい。

「ザイロ、松明を前に投げろ!」

 言われるがまま投げると、宙に舞う松明が地面と側面の壁に張り付いている蜘蛛を映し出す。

 レインは一瞬、見えたそれを捉え、即座に3体の蜘蛛をほぼ同時に両断した。

 ザイロはほっと一安心したが、後ろから足音が聞こえ息を止めて振り返る。

 背後の暗闇に隠れていた蜘蛛がシェードに飛びかかった。

「伏せろ!」

 叫んでザイロは鉄球を構えた。

 身をかがめるシェードの頭上を鉄球が風を切ると、五発中の三発が命中。蜘蛛に打ち込まれ、ピギっと不愉快な鳴き声をあげて後ろに吹き飛んだ。

 殺せてはいない。が重傷だ。もう向かってはこないだろう。

「大丈夫か、ザイーー」

 心配し、振り返ったレイン。だが、その背後に気を取られ、前から飛んできた蜘蛛の糸に気が付かなかった。

 それは生物としての本能で狙ったのか、武器を持った右腕に着弾。腕と胴がくっつく。

「くっ、油断した」

 レインは全力でもがくが糸の粘着性は高く、腕は離れない。

 そのスキを逃さず、一匹の蜘蛛がレインに襲いかかる。

 刹那の間、ザイロの脳裏によぎる。

 攻撃。だが鉄球は今は手元にない。武器、操れるものーー砂鉄。

 とっさにポケットから砂鉄の袋を取り出して投げた。

 それは磁力操作によりカーブしながら、レインの目の前で蜘蛛に衝突した。

 袋から飛び出て、破け弾ける砂鉄。それは一瞬にしてまとわりつき、動きを止められた蜘蛛は地面に転がった。

 ザイロは右手に力を込め、魔力を更に送り込む。

 蜘蛛の体からミシミシと音を立てたかと思うと、次の瞬間、パンっという音と共に黄色い血液を散らし、弾け飛んだ。

 その後、魔獣の気配は消えた。あれが最後の蜘蛛だったみたいだ。

「もうちょっとスマートに倒せないのか」

 血液を正面から浴びたレインは、嫌味ったらしくそう言うと「食い散らかされるほうが良かったか?」とザイロは返した。

 本体が死ぬと蜘蛛の糸は一気に粘着力をなくしていった。

 シェードの説明によると魔力によって強化されているもので、それがなくなると水で簡単に流せるようだった。

「これでまた貸し一つだな」

 ザイロはレインの糸を、持ってきた水で流しながらそう言う。

「人助けは自己満足じゃないのか」

「お前は流石に限度が過ぎるからな。命を助けたのはこれで2回目だぜ。これは貸しにしとく。ま、いつか返してくれればいいさ」

「そうか、ならーー」

 糸をすべて取り終えたレインは、瞬間に刀を上に投げた。

 天井を見ると、いつの間にかそこにいた、ザイロが撃退したであろう蜘蛛が突き刺さっていた。

 こちらの隙を見ていたのか、頭上を取られていたようだ。

 レインが血液の滴る刀を抜くと、蜘蛛の死体が目の前に落ちた。

「いま返した」

「なんかずるいな」

 ザイロは苦笑いした。「蜘蛛が上に来るまで言わなかっただけだろ」

「さあ、何のことだか」

「まあいい。とりあえずだ、ここからどうするか」

 そう聞くと、レインは刀を鞘に納め、周りを窺いながら言った。

「帰るぞ。この魔獣の数はたまたま発生したものじゃない。おそらくここは巣だ。魔獣の巣の討伐依頼を行えるのは、危険度にもよるが二等級を含めたグループだ。まあ、あくまで目安だが。俺がいるとしても、足手まとい二人を守りきれる自信はない」

 足手まとい、というワードが癪だが、今の戦力的に強く反論できなかったのでむっとしながらも反論しなかった。

「まあ、そのとおりだな。シェードさん、いいですね」

 悲しげながらも、シェードは頷いた。

「君たちをこれ以上危険にさらすわけにはいかない……撤退しよう」

 意見が一致したので洞窟の来た道を戻ることにした。しかしーー

「なんだ、これ」

 ある光景を目にして、ザイロはそう言って足を止めた。

 数分前まで通っていた道。そこに蜘蛛の糸が張られていた。

 隙間はあるが人が通れるものではなく、その奥にもいくつもの糸の壁が見える。

「閉じ込められた、ということか」

 言葉は冷静だが、レインのその声には強張っている様子があった。

 水をかけてみるが魔力がまだ込められているのか、さっきのようには外れない。

 逆に、火を近づけてみるが、少しだけうねったように動くだけで燃えなかった。

 足元からぞわぞわと、体を這うように恐怖感が込み上げてくる。

「助けを待つか?」

 ザイロが聞いたが、レインは首を振る。

「助けが来るとしたら明日以降だ。松明が持たない。暗闇になったら俺達に勝ち目はない」

「じゃあ」

 ザイロは洞窟の先に目を凝らす。「進むしかないのか」

 レインとシェードは何も答えない。

 進むしかない。しかし、この先にあるのは魔獣の巣。

 それが正解とも言えない。ただ、その先にある小さな希望を手繰り寄せるしかなかった。



「うぉおおお、『爆裂拳!』」

 リサは右の拳を前に押し出すと、パチパチと小さな火花が拳の先から散った。

「ヌっく、熱ッ……どうイリオちゃん」

「はい、ちょっと光ってました」

 少し離れた場所で見ていたイリオがそういった。

 村の中央を流れる川沿い。なにもない広場のような場所があったので、リサは魔法の練習をしていた。

「む~、ちょっとじゃだめなんだよなぁ。これじゃあ、いざってときにイリオちゃんを守れないよ」

 とりゃっといいながらまた爆裂拳を放つが、今度は線香花火のような小さい光が散っただけだった。

「ありがとうございます……私なんかのために」

 イリオが申し訳無さそうにそう言うと、リサは照れたように頭をかいた。

「いいのいいの! 私たち友達じゃん。助け合いだよ」

「助け合いですか」

 イリオは暗い表情のまま、下を向いた。「それならだめです。私はリサさんを助けられる力はありません。私は無力で……そして愚かです」

 そういって、重く暗いため息を落とした。

「昨日も、困っている人に祈りを捧げていました。本当は、私自身、神様を信じきれていないのに。騙しているようで、苦しかったです。でも私にはそれしかできません……私は私が憎いです」

 更に肩を落として落ち込むイリオ。

「ふーーーん」

 考えたように少し上を向いた後、リサは前まで行くとイリオの両頬を引っ張り上げた。

「にゃ、なぃをふるんでぅすか、ひははん」

 何をするんですかリサさん。と言いにくそうに言ったイリオの顔をみて、リサは満面の笑みを見せた。

「うん! やっぱりこう! 笑ったほうがイリオちゃんはかわいいよ! 笑おう笑おう」

「ふ……ふぁい」

 返事するイリオに、珍しくリサは真剣な表情を見せた。

「イリオちゃんは神様を信じきれないのかもしれないけどさ、その人はイリオちゃんに祈ってもらって、すっごく心強かったと思う。神さまがどうとかじゃなくて、誰かに想ってもらうのが大事なんだと思うよ。だから、イリオちゃんはすごいよ。ぜんぜん無力なんかじゃない」

 じっとイリオを見つめるリサの瞳。

 それはとても心強く、安心感を覚えた。

「ひゃ、ひゃい。ふぁりがとうごふぁいあす」

「いぃよし! それじゃあ私も練習練習!」

 勢いよく立ち上がったリサは、また爆裂拳の練習を始めた。

 その姿をイリオは呆然と見つめる。

 たしかにそうだ。自分が信じているかじゃない。その人が前に進めるようになること、それも重要なことだ。

 それを思うとなんだか力が湧いた。すると、不意にザイロとレインが脳裏をよぎった。

 両手を握り、ただ祈った。

 二人が無事に帰ってくることを。

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