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Ⅲ-05 バディ独自の魔法で記録を塗り替えられますか?

【あらすじ】

ITの存在しない剣と魔法の世界に召喚され、少女ラミーシャの第二人格として転生したIT企業のコンサルタントのマリトが、力を合わせて世界を危機から救い、元の世界への帰還を目指す物語――

水属性と土属性を同時に扱うモーターボード競技の記録会。直線では圧倒的な記録を出せるのに、スラロームでは結果が出せないラミーシャは、競技のコツをつかんだマリトと共に練習に励むのだが――

季節は夏前だが、ボルディアは年間を通して蒸し暑い。

授業が終わってから夕食前までの時間、マリトとラミーシャは、モーターボードの練習を行うことが日課となった。

魔法学園の広いグラウンドの片隅でスラロームの練習を繰り返していた。


旗の代わりに目印となる石を置いて、そこを曲がる。

ラミーシャが水属性の魔法陣を使って推力を担当し、マリトが土属性の魔法陣を使って方向を制御する役割だ。

マリトと違って、ラミーシャの魔力は膨大である。

その出力を、マリトが方向制御できるスピードに押さえ込むのが厄介だ。

もう一つ重要なのは、方向転換と同時にラミーシャ自身が重心を移動させないと、バランスを崩して横転してしまうことだ。



二日間、あまり進展がないまま寮の自室に戻った。

ラミーシャがシノハと話している間、マリトは改めて、教科書の魔法について調べる。

マリトが心の中で合図するとページをめくってくれる。

外から見ると、ページをめくって教科書を見ながら、口だけはシノハと話している状態だ。

――数か月で器用なことができるようになったものだ……


土属性魔法の応用のページに目が止まった。

そこには三つの魔法陣が連なっている図が載っている。

真ん中に、いつも使っている摩擦係数を変更する魔法陣が置かれている。

左右にある魔法陣は、魔力測定で使ったものに似ている。


マリトの反応に気付いたラミーシャが声をかけてきた。

「この左右の魔法陣は、リフレクションといって、身体の状態を調べる水属性魔法のものです」

「指定された身体の場所を調べます」

「真ん中の魔法陣は、今回も使っている摩擦係数を変えるものです」

「二つをくっつけて使うと、受け取った状態に応じた強さで摩擦係数を変えられるんです」


「何のために使うの?」

「私たちが使っているのは主に二つです」

「重いものを押し返したりするときに、足裏や靴の裏と地面の接触面の摩擦を大きくするもの」

「枝などにぶら下がるときに、手のひらと枝が滑らないように、摩擦係数を大きくするもの」

「この二つは格闘系の武道をするときにも役に立つんです」

「強いパンチを打ったり、腕をつかむような技で使えるんです」


――なるほど、筋力や骨格の強化とそうした魔法で圧倒的な戦闘力が生まれるのか……

アランとケイが拉致犯との戦いで土属性魔法を発動したときの黄色い光は、そのためだったのだと思い至った。

「ちょっと思いついたことがある」

「明日、少しいろいろやってみたい」



翌日、グラウンドに着くと、マリトは昨日とは異なる魔法陣を描いた。

中央にこれまでと同じように、ブレーキと車輪の間の摩擦係数を変更する魔法陣を配置する。

その左右に、左右の手を握る力を測るための水属性の魔法陣を配置する。

中央の土属性の魔法陣の下には、先日と同様に推進用の水属性の魔法陣を配置し、その下に出力制御のための円を描く。


「まずは両方の手のひらを広げて、ゆっくりまっすぐ走らせて」

「はい」

「ゆっくり左手を握ってみて」

「あ、左に曲がっています」

「今度は左の手のひらを開いて右手のほうは握ってみて」

「す、すごい。右に曲がりました」


少しずつスピードを上げながら、左右に緩く曲がりながら進む要領をつかんだ。

何度も繰り返すうちに、自在に左右に曲がる感覚を身につけることができた。

「じゃあ、次はスラロームにチャレンジだ」

「はい!」



スラロームは急な曲がりのため、曲がる前にはスピードをかなり抑える必要がある。

スタートでスピードを上げて、カーブ寸前に左右の手のひらをしっかり握って制動をかけ、スピードを上げながら、もう一方の手のひらをゆっくり開く。

遠心力でバランスが崩れないように、身体を回転中心へと傾ける。

それを繰り返すことで、急速回転ができるまでになった。


そこまで達成してから一息入れると、興奮したラミーシャが聞いてきた。

「お父さん、すごいです!!」

「どうやったんですか?」


「手を握ったときに、手のひらの摩擦力を変える魔法があったよね」

「あれは、握りの強さを測る水属性魔法と、手のひらの摩擦力を変える土属性魔法が発動しているよね」

「これは、私のいた世界だと、いくつかの処理の間で結果のデータを引き渡すパイプライン処理と呼ぶものに近いと気付いたんだ」

「今回は、握りの強さを測る水属性魔法と、手のひらの摩擦力を変える魔法陣の代わりに、車輪の制動をかけるための魔法陣をパイプライン処理でつないだんだ」


「こうすることで、ラミーシャが二つ以上の魔法陣の操作を頭の中でやる必要がなくなる」

「頭の中でするのは速度の制御だけで、左右の方向転換は、左右の手の握りでできるようになったわけだ」

「左右の手の握りで左右に曲がるのは直感的な操作だから、すぐに身につけられるはずと考えたんだ」


「すごいです」

「お父さんはやっぱり賢者様です!!」

マリトも自分のアイデアが予想以上にうまくいったことで、内心の興奮が抑えきれない。


「でも、次回のスラロームの測定では使えないからね」

「えーっ、どうしてですか?」

「『悪目立ちしちゃだめだ』ってシノハに言われたじゃないか」

「それに、自分で二つの属性魔法を制御する力もつけないと」

「えええええー」

ラミーシャは不満そうだったが、しぶしぶ自分自身の力で回る練習に戻った。



そして測定当日を迎えた。

スラロームの一本目の測定は、ラミーシャ一人の力で行った。

練習の成果はある程度は出たものの、やはり平均以下の成績となった。


ラミーシャが目に涙をためて訴えてきた。

「私、悔しいです」

「本当はもっと速く走れるのに……」

「思うんですが、前回お父さんが出してくれた記録までなら、悪目立ちにならないと思いませんか?」

「二本目はパイプの魔法陣で走らせてください」


マリトも彼女のもどかしい気持ちは理解できた。

「わかったよ」

「協力するから、絶対に前回の私以上の記録を上回っちゃだめだからね」

そう念を押した。



二本目、スタートラインにつく。

一本目の旗まで、前回のマリトくらいの速度で進んだ。

スピードが遅いので、減速することなくスムーズに旗を回った。

――ちょっとまずくないか?


続けてスピードを上げながら二本目の旗へ進む。

やはりスピードを落とすことなく、それどころかスピードを上げながら二本目の旗を回る。

どんどんスピードが上がっていく。

「ミーシャ、まずい。スピードを落とせ!」

走ることに夢中になってしまっていて、聞いていない……


高速で三本目の旗を回ったところで、マリトは決断した。

彼が担当している方向制御の魔法陣を消し、通常のものに描き直し、制動をかけた。

この時点で、ラミーシャもまずいことをしてしまったことに気付いた。


しかし、すでに遅かった。

マリトは、力の限り減速を行ったが、彼の魔力では十分な制動はかけられなかった。

最後の直線では、ゴールまで一瞬で走り抜けた。


全員の目が驚きで丸くなっている。

視界の端に、頭を抱えたシノハが見える。

「ごめんなさい、私……」

とラミーシャが申し訳なさそうに伝えてきた。

結局、ラミーシャは歴代最速の新記録をたたき出したのだった。


挿絵(By みてみん)

◇参考挿絵:新魔法でスラロームを駈け抜ける


ゴールを越えたところに、シノハが血相を変えて駆け寄ってきた。

「先生、校長先生からの緊急連絡で生徒会室に呼ばれているので、失礼します」

そう大きな声で伝えると、ラミーシャの腕を引っ張って、生徒会室に走った。


生徒会室に入って、急いでドアを閉めた。

そして厳しい口調で怒鳴った。

「あんたたち、いったいなんてことをしてくれたのよ!」

――保護者ですらなくなって、ひとくくりにされてしまった……


深呼吸して怒りを静めると、改めて聞いた。

「まず、どうやったのか教えてください」

マリトは魔法陣のパイプライン処理の方法を説明した。


「まったく、とんでもないことをしてくれましたね」

「記録があまりに好成績なので、何らかの新魔法を使ったのではないかという疑いを持たれますよ」

「気付いた人は少ないと思いますが、チョーカーの光り方も違っていました」

「スラロームでは、水属性魔法の青と土属性魔法の黄色の光が混ざりますが、水魔法の比率が多いので青の比率が高くなっていました」


「そして、ここからが重要なのですが、今回の魔法では、水属性魔法が二つ使われています」

「魔法の授業で習ったと思いますが、同じ属性の魔法を二つ同時に発動させることはできません」

「この魔法は、一つの身体に先生とラミーシャという人格が二つ乗っているからできたのです」

「今のお二人以外、他の誰にもできない魔法なんです!」


「授業では水属性魔法は例外だと言っていたように思いますが……」

マリトは指摘した。

「それは常時発動型の魔法の話です!」


魔法には、常時発動のものと随時発動の二種類がある。

常時発動の魔法は、身体強化など常に行う必要のあるものに使う。

常時発動できるのは水属性魔法だけだ。

必要に応じて発動するものが随時発動魔法だ。

モーターボードで使うのは、もちろん随時発動のものだ。


新しい魔法が使われて、それが原理上可能な数よりも多く魔法を発動している。

ということは、ラミーシャが何か特殊な状態にあるということになってしまう。

そこまで来ると、賢者召喚という答えにあと一歩だ。



シノハは念話で招集をかけたので、他の生徒会役員のアランとケイ、そして校長とマイスナー医師が集まっている。

ケイは手術後のリハビリを終え、モーターボードには復帰してきている。

事情はシノハから説明があった。


シノハが切迫した口調で告げた。

「この状況をなんとかごまかす方法を考えないといけません」

「そのためには校長先生やマイスナー先生のご協力も必要になります」


マリトは思いついたアイデアを口にした。

「摩擦係数のほうに使っている、手の握りを計測して摩擦係数を変える魔法のパイプラインを、常時発動にしてはどうでしょうか?」


「……なるほど」

シノハが考え込みながら答えた。

「解決できる可能性はありますね」

「ただ、常時発動魔法の追加は思われているほど簡単ではないですよ」


「発動手順の見直しが必要になるんです」とアランが引き取った。

「常時発動型の水属性魔法は、注意しないと相互に干渉してしまう恐れがあるのです」

「そのために、立ち上げの手順を慎重に決める必要があります」

――バッチ処理のスケジューリングのような感じか……


「可能性はある案なので、その方向で進めるということにしましょう」

「アランとケイにはいろいろお願いします」

「まず、急いで発動手順の見直しをお願いします」


「今回の新魔法はアランの発案ということにしましょう」

「記録測定日までに修得してもらいます」

「アランとケイのクラスの測定が後だったのは幸運でした……」

「校長先生、この進め方で良いでしょうか?」

校長は頷き、一同解散となった。



自室に戻ったシノハは聞いた。

「サワ先生、覚悟はあるんですか?」

「秘密を抱えるラミーシャを守りながら、この先重大なミッションを完遂する覚悟です」

「最後の直線でご自身に制御を戻されたと聞いて、少し安心しましたが……」

「それでも、先生はミーシャに甘すぎます!」


「同居しているから関係を悪くしたくないというお気持ちもわかります」

「しかし、彼女の成長のためにも、もっと厳しく接してください」

「今回は、二本目での新魔法の利用に協力できないと言えば良かったんです」

「お二人の関係は、その程度のことで揺らぐものではないということくらいは、そばで見ている私にはわかります」


ラミーシャがなぜかうれしそうにしている。

――怒られているってわかってるのかな……どこにうれしい要素がある?


「パイプライン処理という先生のアイデアは素晴らしいと思いました」

「しかし、進め方が問題です!」

「魔法についての十分な知識がないのに、新魔法を使うのはやめてください!」


――検証もなしに新技術を導入するのはトラブルの元だ……何度も経験したことなのに……

少し自信を取り戻しかけていたマリトは、すっかり落ち込んでしまった。


「シノハ、お父さんをあんまり怒らないであげて!」とラミーシャが口を挟む。

「悪気があったわけじゃないんだし……」

「もう、ミーシャ、あんたのせいで怒られてるって、わかってる?」

そう言うと、最後にマリトに言った。

「とにかく、新しいことをする前には、私に事前に一言相談してください」



アランとケイが新しい魔法を開発して、ラミーシャが最初の実験台になって、記録を塗り替えたというニュースが学園中に広まった。

この二人は様々な発明をしている、学内でも有名な天才肌の学生なので、その話は自然に受け入れられた。

ただ、さすがに不公平だということで、全員に新魔法の導入が行われ、計測のやり直しになった。

とはいえ、先行して練習のできたラミーシャ、アラン、ケイの三人の優位は揺らがなかった。


この競技は、体重の軽い方が有利な競技である。

結局、小柄のケイがラミーシャを上回る最速の結果を出した。

そして、5年生の代表はケイとラミーシャに決定した。

秋に行われる、6年生代表との魔武闘会での決勝になる。


次は素手での格闘技の試合の準備だ。

【次回予告】

マリトがパイプライン処理を応用して開発した新しい魔法は、ラミーシャの記録が伸びすぎてしまって問題となりかけますが、生徒会の面々の協力で事なきを得ました。次回は素手による格闘術の試合に向けた準備が始まります――

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