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第5話 賢者様の魔力を測定してもらえますか?

「おとうさん、巨乳好きでしょ」

「な、なにを根拠にそのような……」

「いま周りを見回してみて、胸の大きな子のときに、気になっているていう感じが伝わってくるんですよね……」

「そ、それは気のせいだって」

――とも言い切れないのがつらい……なにせ本能だからな……多少は気になる……


現在、マリトとラミーシャは、グラウンドと体育館に隣接する更衣室で、身体と魔力測定のために着替えを行っている。

なので、周りは下着姿の同級生の女子でいっぱいだ。

マリトはラミーシャの第二人格として転生しているのだが、脳が共有されているため、心の動きの一部が伝わってしまう。


「私とシノハのでも、最初のうちは、同じ感じがしてたのに、最近はもう見慣れちゃってるみたいだし。ふんっ」

――そこは、気付かないふりをするのが大人の対応だろう……まあ子供なんだが……


重傷を負った拉致事件の後の救護施設でのリハビリを終え、寮に戻って1週間。

ラミーシャの身体はもうすでに松葉杖なしで歩けるまでに回復している。

マリトも彼女の身体を借りてシノハと話ができるようになってきている。


この間、ラミーシャとの関係は、家族的な気安いものになってきている。

尊敬の気持ちはあるようだが、いじっても怒らないということがわかってきて、色々と絡んでくる。


「あの子、この一年で随分、胸が大きくなったんですよ」

「去年は私と変わらないくらいだったのに、急にですよ」

「だから、そんな解説はいらないって」


内緒話のように、ラミーシャはいろいろなものを見ては、解説してくれる。

会話は脳内なので外には聞こえない。

彼女は、ずっとしゃべっているのだが、マリトと話すときは、他の人には見ると黙っているようにしか見えないので、周りからは、事故以来、思慮深くなったとか言われている。

――勘違いにもほどがある……


◇


測定は項目ごとに、グラウンドと体育館でそれぞれ行っている。

どちらも日本の中学高校の一般的なものとそっくりだ。

全体に金属が使われていないので、木製でレトロな印象だが、それでも、高校時代に戻ったような錯覚を覚える。


しかし学生の様子が違う。

体育館の反対側で、垂直跳びの測定をしている様子をみて、マリトは呆れる。

――身長と同じくらいの高さまで飛んでないか?

――あんなジャンプはオリンピック選手でも無理だろう。


「みんなあんな高さまで飛べるの?」

「はい。彼女は普通くらいです」

「私はあんなもんじゃないですよ」

そう言って胸を張る。

――なんと!!


「学園に入って、1年生の時から常時発動の水魔法で身体の強化をするんです」

「通常の人の3倍くらいに増強されているということです」

「筋肉だけでなく、関節や骨格なんかも強化するので、結構バランスが難しいんです」

「それと、強い魔力が必要です」


「身体の大きな人よりも、スレンダーなタイプの方が身体強化はうまくいくんです」

「だから、細身の人でもすっごく力があったりするんです」

――そういえば、拉致事件のときには、シノハが人間離れしたスピードで走っていた。


ラミーシャはまだ、身体が完全には戻っていないため魔力測定が中心になる。

魔力測定のデスクには、白、青、赤、緑、黄の色の付いたプレートが置かれ、そのプレートにはそれぞれ魔方陣が示されている。

それぞれ、光、水、火、風、土の属性の精霊との相性を見ているのだそうだ。


プレートから少し離れた位置に置かれた紙に書かれた魔方陣を見ながら、彼女がプレートに手をかざして、魔法発動をすると、それぞれのプレートが光を放つ。

検査の担当者が、記録をしながら結果を教えてくれる。

「ラミーシャさん、また、魔力のレベル、上がりましたね」

「全属性が90越えのレベル5です」


「学年トップだと思います」

「お兄さんよりすごいですよ」


ラミーシャは頷きながら、心の中で伝えてきた。

「手はずどおり、お父さんの魔力を測定します」

ラミーシャの後ろに並んでいた、シノハが、検査担当者に何か質問をして気を逸らしてくれている。


「私がさっきしたみたいに、それぞれのプレートに手をかざしてください」

「それで、表示されている魔方陣を見ながら、『ファイタキス』と唱えてください」

言われたとおりにする。

それぞれのプレートが淡く光る。


「えーと、レベル1ですね」

「というと?」

「一般人レベルです」

「この学校にはレベル2以上ないと入れないので、お父さんは入学できません」

――なんとなく、うれしそうなのは、気のせいだろうか?


「ということは、ミーシャの5分の1ということ?」

「違います。レベル1の魔力の到達範囲は、周囲約半径1メートルですが、レベル2ではその10倍の10メートル、レベル3は、さらにその10倍ってなっていくんです」

――マグニチュードとかデシベルみたいな対数なのか。

――え、レベル5は、10キロということか!?

召喚初日の町中の灯りがラミーシャの魔法で変わっていった様子を思い出した。


魔力といっているのは、魔法の到達範囲のことで、レベル1からレベル5までとなっている。

ほとんどの学生がレベル3までで、シノハはレベル4で極めて優秀とされる。

ラミーシャのレベル5というのは、別格の最高レベルで、このレベルの学生は、兄のリスカールを含め数名しかいない。


「じゃあ、ミーシャは超優秀ってこと?」

「それがですね……」

「魔法は、到達範囲、発動速度、同時発動数、この三つで評価されるんです」


「私、発動速度と同時発動数が良くないんです……」

「この二つはどれだけ正確に速く、記憶した魔方陣を描けるかにかかっていて……」

「魔力だけ強いと、魔力バカみたいな感じで、ちょっと恥ずかしいんです」


――体力バカ、脳筋、といった感じか……

マリトはこれまでの発動ミスの数々を思い出して、おかしくなってきた。

「あ、いま、私のこと笑いましたね……」

楽しげにクレームをつけてくる。

脳を共有しているため、面白がったりする気持ちは相互に干渉してしまう。


「ミーシャ、にやついてるわよ」

隣で測定しているシノハが声をかけてくる。

「最近、思い出し笑いが多いって言われてるんだから、気をつけてね」

そう指摘する彼女も楽しげだ。


彼女ほ、ほぼずっとラミーシャのそばにいるようにしている。

マリトの召喚はごく一部を除いて、絶対の秘密なのだが、しゃべっているうちに漏らしそうで危なっかしくて、仕方がない。

二人はもともと同室で仲も良いので、怪しむ学生はいない。


「ちょっとごめん……」

シノハが会話を止めて左手を軽く挙げる。

念話が入ったようだ。

声を潜める。

「校長先生からの連絡」


彼女は生徒会長をしているので、緊急時に連絡が入ってくる。

「厄介なことが起きているみたい」

「生徒会で対策を立てるので、役員を緊急招集します」

「ミーシャ達も生徒会のメンバーなので一緒に行きましょう」


挿絵(By みてみん)

◇参考挿絵:魔法力を測定する


生徒会室は4階建ての講義棟の最上階にある。

最初に救護室から出て、校舎に入ったときのことを思い出す。


今は慣れてきているが、そのときには驚愕し動揺した。

建物の作りが、マリトの母校の大学のものと酷似していたからだ。

建物はマリトの母校よりずっと低いが、1階部分のデザインがそっくりなのだ。

弧を描くような柱が並ぶ独特のデザイン。


――タイルが貼られているところまで同じだ――どうなっている?

――色はこんな暗い青色だったか?黄色とか、もっと明るい色だったような……

――あれ、よく見るとこれは、タイルではない?


タイルではなく、光沢のある樹脂でできた四角い模様だということに気付いた。

一見そうは見えないが、全体が木造建築のようだ。

そして内部に足を入れてさらに驚愕する。


――なんだこれは?――内部は大学じゃなく高校じゃないか?

やはり金属が少なくややレトロな印象だが、明らかに日本の高校の教室――前に黒板が置かれているところなどそのものだ。

外は大学、中は高校、いずれもマリトの見たことのある光景だ。

――作り物の世界に放り込まれたということか?


ぞくり。

昔、人間のことがよくわかっていない宇宙人が、見かけだけを模倣した世界を作っているようなSFを読んだことがあるが、それと同じ不気味さを感じて背筋に冷たいものを感じた。


ラミーシャが反応する。

「お父さん、霊とか、そんな、なんか怖いこと考えてませんか?」

「いえ、別に、説明しなくていいんですっ」

「私、そういうの弱いので、何かが見えても教えなくていいですっ」


どうやら恐怖感が伝わってしまったようだ。

マリトは深呼吸した。

「いや、何でもない、前の世界の建物にそっくりだったので、びっくりしただけだよ」


挿絵(By みてみん)

◇参考挿絵:生徒会室へ急ぐ


生徒会室は中央にデスクがあり、そこで会議ができるようになっており、周りにいくつかの作業を行うためのデスクがある。

シノハが一番奥の席に座り、右側に、その右にラミーシャが座った。


生徒会役員は、会長のシノハ、書記のアラン、会計のケイの3名で構成されている。

副会長が不在だが、これは元々、シノハが副会長、会長をラミーシャの兄のリスカールが務めていたが、辞任したためシノハが会長に繰り上がり、現在、空席のままになっている。


現在ケイが病院でリハビリ中であることから、ラミーシャが代理を務めている。

ただし、これは対外的な説明であり、実際には生徒会の顧問として、マリトを確保しておくのが目的である。

とはいえ、ラミーシャは生徒会にそぐわないキャラだと思われていたので、学内には驚きのニュースとして伝わった。


会長のすぐ左の席には、通常はアランが座るが、今日はそこに校長が座っている。

校長もマリトの召喚については知らされているので、この部屋にいる全員がマリトの召喚について知っていることになる。


校長は立ち上がって話し始めた。

「生徒会役員の皆さん、お集まりくださり、ありがとうございます」

「また、サワ先生、急なお呼び立てで失礼とは思いましたが、本学始まって以来の難事件なので、ぜひお知恵をお貸し下さい」

マリトの呼び方についてはいろいろな議論の結果、『サワ先生』となっている。


ラミーシャが身体をマリトに預けた。

第一人格となった彼は立ち上がり、ラミーシャの声で話をした。

「校長先生、サワ・マリトです。丁寧なご挨拶ありがとうございます」

「私はまだこの世界でわからないことも多いのですが、問題解決についてはいろいろな経験をしてきていますので、お力になれることもあるかと考えています」

「よろしくお願いいたします」


校長が概要について話し始めた。

「学園には三種類の重要図書が管理されています」

「現代魔法大全、医療魔法大全、治安魔法大全、です」

「これらの図書は、それぞれ別々に管理されているのですが、次々に盗難に遭っています」


ラミーシャが解説をしてくれる。

「最初の本は私も一度、見たことがありますけど、魔方陣がいっぱい書いてある本です」


現代魔法大全は校長室から一昨日、医療魔法大全は医療施設室から昨日、盗難に遭った。

いずれも他の教員から見られることなく、部屋に侵入できないにも関わらず、日中、責任者が目を離した短い時間の間になくなっている。


残る一冊である治安魔法大全は、極めて危険な魔法も多いため図書室の奥の禁書庫に保管されていたが、盗難を避けて、理事長室に移された。

そして、今日、禁書庫にも侵入があったという報告が上がった。

「治安魔法大全」は無事だったが、やはり禁書庫にあった機密図書である「ボルディア詳細地図」がなくなっていたのだ。


現代魔法大全は写しが数冊あるが、医療魔法大全はゾンリーチャにもう一冊あるだけで、学園内には替えがない。

治安魔法大全も同様に、ゾンリーチャの警備本部にもう一冊あるだけだ。

なにより危険な魔法を含むので、悪意あるものの手に渡ると大きな問題に発展しかねない。

そしてボルディアの地形図は極秘情報として扱われているものだ。


「……以上が、現在起きていることになります」

「ご存じのように、理事長室はこの階の奥になります」

「明日以降、この部屋に侵入を試みる可能性があので、出入口の警備を強化しています」

校長はいったん説明を終えた。


マリトは気になっていることを聞いた。

「私がこの世界に召喚されたことと、この盗難事件には関係があるのでしょうか?」

「わかりません」

「ただ、これまで類似の事件が起きたことはありません」

「召喚のタイミング、拉致事件が起きたことも考え合わせると、サワ先生の召喚タイミングと関連している可能性は否定できません」


質問を続けた。

「魔法が使われているのはこのボルディアだけだと聞いています。」

「魔法体系の把握に関心を持つ可能性のある国や組織はあるのですか?」

「ないと思います」

「私にもそこが不思議で、動機がわからないのです」


マリトは少し考えてから、言った。

「仮説ですが、魔法でできることを分析して、次の攻撃を計画するのが目的とは考えられないでしょうか」


「前回の拉致事件で、彼らは複数の魔法による攻撃で私とラミーシャの拉致を阻止されています」

「中でも治安魔法は効果的でした」

――いちばん効果的だったのはラミーシャの魔法発動ミスだったけど……


「彼らは、明らかに魔法への対策が不足していました」

「同じことが起きないようにするために、全容を把握しようとしても不思議ではありません」

「また地形情報も攻撃作戦を考える上で重要になります」

「これは仮説に過ぎませんが、最悪のケースとして強力な他国の軍隊が関わっている可能性は心に留めつつ対策を練りましょう」


なんだかラミーシャの誇らしげな気持ちが伝わってくる。

――ミーシャは良いように誤解してくれているけど、脊髄反射でもっともらしいことをしゃべっただけなんだよな……

――また、厄介なことに巻き込まれてしまった。盗難事件は警察の領分だろ……

――こういうことは、プロにまかせて、素人が触らないのが正解なんだよ!

――どう落としどころ見つければいいんだよ、これ……


◇


校長の説明が終わると、理事長室の確認をすることになった。

生徒会室の真ん中にして一方の奥が校長室、反対側の奥が理事長室だ。


理事長室のドアは、二人の屈強な警備隊員が守っている。

魔法発動用のリストバンドを腕に着けている。

こちらを見て笑いかけてきた。顔見知りらしい。


校長がドアのロックを外し、生徒会メンバー一緒に理事長室に入る。

理事長室は広く、多くの書物が並んだ本棚と大きな机が印象的だ。

他と同様、レトロな印象の木造の部屋で、観葉植物が数カ所に置かれている。


理事長室の机の上を見たマリトは、驚きのあまり言葉を失う。

そこには、元の世界で彼が回収したのと同じ、エーテルアームの右腕が台座の上に据えられていたのだ。

この世界で金属があまり使われていないこともあり、金属でできた未来的なフォルムに強い違和感を感じる。


一瞬、近寄るのをためらうが、意を決して歩み寄って確認した。

アームに取り付けられたプレートには見慣れた傷が――大学の研究室時代に自分の不注意でつけてしまった傷があった。

古びた様子もない……


――なんてことだ。これは大学の研究室からオレが回収したアームそのものじゃないか!

――何が起きているんだ?

思わず背筋が寒くなる。



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