↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/36

第4話 前世のことは忘れて一緒に進みませんか?

マリトはベッドに横たわったまま、自分の意志ではまったく動けない。

白い天井が、あふれ出た涙でにじんでいる。

何もできなかった悔しさと情けなさで、体が押しつぶされそうだ。


――なぜあのとき拳銃に手が伸ばせなかったのか。

――なぜコリーンを助けようとしなかったのか。

身を挺して中佐を守ろうとしたコリーンと比べて、自分は何もできなかった。

勇気も行動力もなかった。


「話を聞いてくれてありがとう」

心の中でラミーシャに伝える。


「軽蔑したよね」

「私には、賢者様と呼ばれるのにふさわしい力はないんだ」

「弱くて後輩を見捨てた」

「むしろ彼女のほうが、知能も勇気も行動力もあった」

「自分は彼女と間違って召喚されたんじゃないかって思ってる」

「オレみたいなハズレくじを引き当てたために、君や友達を危険にさらしてしまって、申し訳ないと思っている」


ラミーシャは、すぐには答えなかった。

しばらく黙ったあと、静かに声を発した。

「そんなこと、ないんですよ」

癒やし効果のある優しい女神の声と共に、こちらを気遣う温かな気持ちが伝わってくる。


「マイスナー先生に教わったんです……」

そう言って目を閉じ、腕を胸の前でクロスする。

右の掌を左肩の後ろへ、左の掌を右肩の後ろへ、ゆっくりと回した。


「賢者様が辛そうにしているときには、ぎゅっとしてあげてくださいって」

そして、何かを抱きしめるかのようにゆっくりと絞り込んだ。


――ぎゅっとしようにも、ひとりじゃできないだろう。

そう思うマリトだったが、体温の暖かさが、右の掌から左肩に、左の掌から右肩に、両腕から胸へとじわりと伝わってくる。

彼の予想に反して『ひとりじゃない』ということが、頭ではなく、身体からの実感として伝わってきた。


ラミーシャは静かに続けた。

「ハズレくじなんて、言わないでください」

「申し訳ないなんて、言わないでください」


「悲しくなります。」

「この世界に来てくれて、本当にうれしいって思ってるんですよ」

「私のことを何度も守ってくれたじゃないですか」


少し聞きにくそうに続けた。

「その後輩さんって、お父さんの彼女さんというわけじゃないんですよね」

「うん。そんな関係じゃなくて、腐れ縁でたまたま一緒になっている感じだ」


「私、後輩さんのこと、あまり好きになれないです」

「頭は良いのかもしれませんが、自分勝手です」

「お父さんを苦しめる原因になったのはこの人じゃないですか」

ラミーシャの気持ちの中に、ほんの一瞬、さざ波のように嫌悪が浮かんで、すぐに消えた。


代わりに温かな気持ちが膨れ上がる。

「来てくれたのが後輩さんじゃなくて、お父さんでよかったって思ってます」

「それがだれかの間違いだったとしたら、その人にお礼が言いたいです」

「『間違ってくれてありがとう』って」

目頭が熱くなるのを感じる。


「みんなが強くならないといけないっていう考えは、私、違うと思うんです」

「気づいていますか?」

「お父さんがいることが、私を強くしてくれているんです」


「飛行船の中だって、一緒だから絶対大丈夫って思ったんです」

「あの高さ、怖いはずなのに、『この一歩がはじまりなんだ』って思ったら怖くなくて」

「『お父さんと一緒なら、大丈夫。問題ない』って」


ラミーシャの嘘のない想いが、心と身体から伝わってくる。

――ただ、根拠が何ひとつないんだよな……

そこを好ましく感じはじめている自分に気づいて、マリトは可笑しくなってきた。


「あ、いま、私のこと笑いましたね」

ラミーシャは目を開けて、クロスしていた腕を身体の横に戻しながら言った。


「『何言ってんだこの娘は』って思いましたよね」

「私、わかるんですよ」


可笑しいのに、どうしてか涙が溢れてくる。

『なんでだろう』と思うと、ますます可笑しくなってくる。

ラミーシャもつられて笑いはじめた。

「いたたたたたたたた」


腹筋の震えが、神経を刺激して激痛が走る。

その痛みさえも、可笑しく感じられた。


◇


「強くならなくてもいい」そうラミーシャは言ってくれる。

でも、助けてもらってばかりでいいのか?逃げてばかりでいいのか?

――それはいやだ。


絶望から救い出してくれたコリーン、命がけで助けてくれた学生たち……

――自分にも力が欲しい。

――大切な人たちを助けられる力が。新しい選択肢を作り出せる力が。


これまでできなかったことが、どうしてできると思えるんだ?

そう問い返す自分に、もう一つの声が答える。


――きっと大丈夫。

――自分はひとりじゃないから。

共に歩んでくれるバディがいる。

そして、彼女を支えてくれる仲間もいる。


無条件に自分を肯定してくれている人がいる――

そのことが、前に進むための拠り所になったのだろうか。

その日を境に、マリトの夢の中に、前日の出来事はもう現れなくなった。


挿絵(By みてみん)

◇参考挿絵:ルームメイトの帰りを出迎える

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。